昨日に続き、今月14日に封切られ、光太郎にも触れられる小栗康平監督作品「FOUJITA」の新聞各紙に載ったレビューです。
FOUJITA:オダギリジョーが抑えめ演技とオカッパ頭でなりきり 不世出の画家・藤田嗣治を描く
『毎日新聞』2015年11月13日
俳優のオダギリジョーさんが主演した映画「FOUJITA」(小栗康平監督)が14日に公開される。1990年の「死の棘」で第43回カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリと国際批評家連盟賞をダブル受賞するなど海外でも評価の高い小栗監督が、芸術の都パリからも愛された不世出の日本人画家・藤田嗣治(つぐはる)の半生を描いた。オダギリさんは猛特訓したというフランス語も披露している。
「FOUJITA」は日仏合作。1913年に27歳の若さで単身フランスに渡り、1920年代に発表した「ジュイ布のある裸婦」などで描いた裸婦が“乳白色の肌”と称され絶賛を浴び、一気に名声を高めた藤田の半生と藤田が生きた、“二つの時代“を描いている。“フーフー”というお調子者を意味する愛称で呼ばれ、毎夜カフェへと繰り出し、享楽的な生活を送りながら、3人の女性と結婚。さらに大作「五人の裸婦」完成により、その名声を確固たるものとした藤田の“パリ時代”と、第二次世界大戦が始まり、1940年代に入り帰国した藤田は陸軍美術協会のもとで国民の戦意高揚のため、戦争協力画を描く仕事をし、その後、疎開先の田畑が広がる山の麓の村で、日本の原風景を発見していくという時代を描いた。
半生を描いたとはいえ、伝記映画としての色合い、見る者を引き込むような物語性は希薄で、大戦を分岐点にした二つのパラレルワールドを遠くから眺めているような感覚にも陥る不思議な作品だ。ワンシーン、ワンシーンが絵画的で、劇中で主人公のせりふに「絵はしょせん絵空事、物語があったほうがいい」とあるが、今作もいい意味で“絵空事(フィクション)”になっている。主演を務めたオダギリさんは、映画「S?最後の警官?奪還 RECOVERY OF OUR FUTURE」での狂気をはらんだテロリストや放送中の深夜ドラマ「おかしの家」でのモラトリアム青年とも大きく異なり、抑え気味の演技から藤田の画家としての傲慢さや尊大さ、プライドを匂い立たせるという見事なカメレオン俳優ぶりを発揮。一部で“藤田の生き写し”といわれる前髪パッツンのオカッパ頭にメガネ、チョビヒゲ姿というオダギリさんのなりきりぶりにも注目したい。
藤田の“5番目の妻”君代を女優の中谷美紀さんが演じ、岸部一徳さん、加瀬亮さん、青木崇高さんらも出演。14日から新宿武蔵野館(東京都新宿区)ほか全国で公開。(山岸睦郎)
俳優のオダギリジョーさんが主演した映画「FOUJITA」(小栗康平監督)が14日に公開される。1990年の「死の棘」で第43回カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリと国際批評家連盟賞をダブル受賞するなど海外でも評価の高い小栗監督が、芸術の都パリからも愛された不世出の日本人画家・藤田嗣治(つぐはる)の半生を描いた。オダギリさんは猛特訓したというフランス語も披露している。
「FOUJITA」は日仏合作。1913年に27歳の若さで単身フランスに渡り、1920年代に発表した「ジュイ布のある裸婦」などで描いた裸婦が“乳白色の肌”と称され絶賛を浴び、一気に名声を高めた藤田の半生と藤田が生きた、“二つの時代“を描いている。“フーフー”というお調子者を意味する愛称で呼ばれ、毎夜カフェへと繰り出し、享楽的な生活を送りながら、3人の女性と結婚。さらに大作「五人の裸婦」完成により、その名声を確固たるものとした藤田の“パリ時代”と、第二次世界大戦が始まり、1940年代に入り帰国した藤田は陸軍美術協会のもとで国民の戦意高揚のため、戦争協力画を描く仕事をし、その後、疎開先の田畑が広がる山の麓の村で、日本の原風景を発見していくという時代を描いた。
半生を描いたとはいえ、伝記映画としての色合い、見る者を引き込むような物語性は希薄で、大戦を分岐点にした二つのパラレルワールドを遠くから眺めているような感覚にも陥る不思議な作品だ。ワンシーン、ワンシーンが絵画的で、劇中で主人公のせりふに「絵はしょせん絵空事、物語があったほうがいい」とあるが、今作もいい意味で“絵空事(フィクション)”になっている。主演を務めたオダギリさんは、映画「S?最後の警官?奪還 RECOVERY OF OUR FUTURE」での狂気をはらんだテロリストや放送中の深夜ドラマ「おかしの家」でのモラトリアム青年とも大きく異なり、抑え気味の演技から藤田の画家としての傲慢さや尊大さ、プライドを匂い立たせるという見事なカメレオン俳優ぶりを発揮。一部で“藤田の生き写し”といわれる前髪パッツンのオカッパ頭にメガネ、チョビヒゲ姿というオダギリさんのなりきりぶりにも注目したい。
藤田の“5番目の妻”君代を女優の中谷美紀さんが演じ、岸部一徳さん、加瀬亮さん、青木崇高さんらも出演。14日から新宿武蔵野館(東京都新宿区)ほか全国で公開。(山岸睦郎)
FOUJITA 「一対の絵画」際立つ映像美
『日本経済新聞』2015/11/6
「埋もれ木」に続く10年ぶりとなる小栗康平監督の新作である。1920年代のパリで活躍した日本人画家、藤田嗣治の生涯を、エコール・ド・パリの寵児(ちょうじ)としての時代と、帰国後に戦争画を描いた時代という2つの時期に分けて描きながら、時代に翻弄された天才画家の相反する姿を問いかけている。
1920年代のパリ。乳白色の裸婦像で有名になったフジタ(オダギリジョー)は、お調子者という意味の「フーフー」の愛称で人気者となり、毎晩のようにカフェ・ロトンドに繰り出して画家仲間とバカ騒ぎをしている。そんな中、大作「五人の裸婦」も完成。新しい恋人と仮装舞踏会を開いてお祭り騒ぎに興じる。
1940年代の日本。国民総力決戦美術展に展示された「アッツ島玉砕」の絵の前で人々に敬礼するフジタ。やがて戦局が悪化して5番目の妻の君代(中谷美紀)と田舎の村に疎開したフジタは、古くからの日本の自然や暮らしを発見していく。フジタがサイパン島のバンザイクリフの絵を描く中、母屋の小学校教師に赤紙が届くのを知る。
物語の前半と後半は等しい描写時間を占めるが、両者の転換に一切説明はなく唐突に歳月を超えてつながっている。前半はパリでのエピソードが重ねられていく印象だが、後半はCGによるキツネの登場など、小栗監督にしばしば見られる幻想的な世界が見られて心を揺さぶられる。
映像は際立って美しい。パリのアトリエなど暗い室内シーンが見られるが、当時の光を尊重しているようなリアル感があり、好感が持てる。映画は前半と後半で一対の絵画を見るような印象が強く、両者を貫くフジタの生きざまを見るものが想像するのをうながしているようで面白い。
ラストに映し出されるフジタが手がけたランスの教会の映像も見逃せない。2時間6分。
★★★★ (映画評論家 村山 匡一郎)
「埋もれ木」に続く10年ぶりとなる小栗康平監督の新作である。1920年代のパリで活躍した日本人画家、藤田嗣治の生涯を、エコール・ド・パリの寵児(ちょうじ)としての時代と、帰国後に戦争画を描いた時代という2つの時期に分けて描きながら、時代に翻弄された天才画家の相反する姿を問いかけている。
1920年代のパリ。乳白色の裸婦像で有名になったフジタ(オダギリジョー)は、お調子者という意味の「フーフー」の愛称で人気者となり、毎晩のようにカフェ・ロトンドに繰り出して画家仲間とバカ騒ぎをしている。そんな中、大作「五人の裸婦」も完成。新しい恋人と仮装舞踏会を開いてお祭り騒ぎに興じる。
1940年代の日本。国民総力決戦美術展に展示された「アッツ島玉砕」の絵の前で人々に敬礼するフジタ。やがて戦局が悪化して5番目の妻の君代(中谷美紀)と田舎の村に疎開したフジタは、古くからの日本の自然や暮らしを発見していく。フジタがサイパン島のバンザイクリフの絵を描く中、母屋の小学校教師に赤紙が届くのを知る。
物語の前半と後半は等しい描写時間を占めるが、両者の転換に一切説明はなく唐突に歳月を超えてつながっている。前半はパリでのエピソードが重ねられていく印象だが、後半はCGによるキツネの登場など、小栗監督にしばしば見られる幻想的な世界が見られて心を揺さぶられる。
映像は際立って美しい。パリのアトリエなど暗い室内シーンが見られるが、当時の光を尊重しているようなリアル感があり、好感が持てる。映画は前半と後半で一対の絵画を見るような印象が強く、両者を貫くフジタの生きざまを見るものが想像するのをうながしているようで面白い。
ラストに映し出されるフジタが手がけたランスの教会の映像も見逃せない。2時間6分。
★★★★ (映画評論家 村山 匡一郎)
関連するテレビ番組の放映もありますので、ご紹介しておきます。
SWITCHインタビュー 達人達(たち)「オダギリジョー×舘鼻則孝」
NHKEテレ 2015年11月28日(土) 22時00分~23時00分
達人達が見ている景色、お見せします。
異なる分野で活躍する2人の“達人”が出会い、語り合う。ただし、単なる対談番組ではありません。
番組の前半と後半でゲストとインタビュアーを「スイッチ」しながら、それぞれの「仕事の極意」について語り合い、発見し合う、いわばクロス×インタビューです。
異なる分野で活躍する2人の“達人”が出会い、語り合う。ただし、単なる対談番組ではありません。
番組の前半と後半でゲストとインタビュアーを「スイッチ」しながら、それぞれの「仕事の極意」について語り合い、発見し合う、いわばクロス×インタビューです。
オダギリジョーが指名したのは、レディー・ガガの靴のデザインで知られる舘鼻則孝。アート通ファッション通でもある俳優と世界が注目するアーティストが、静かに響き合う!
おいらんの高げたからインスピレーションを得たヒールレスシューズなど、伝統工芸と日本の現代的美意識を融合させたアバンギャルドな作品で注目される舘鼻。30歳の若きアーティストの発想の秘密にオダギリが迫る。さらに2人は美術館でオダギリが演じた画家・藤田嗣治の作品を鑑賞。オダギリの独特の存在感の秘密、役への入り方を探るうち、技術と感性のバランスの取り方など、「表現」にともなうそれぞれの葛藤が浮き彫りになる。
出演 俳優…オダギリジョー,アーティスト…舘鼻則孝,演出家…テリー伊藤
語り 吉田羊,六角精児
本放送 テレビ東京 2015年12月5日(土) 22時00分~22時30分
再放送 BSジャパン 2016年1月13日(水) 23時00分~23時30分
ナレーション 小林薫,蒼井優
映画と併せてご覧下さい。
【今日は何の日・光太郎 拾遺】 11月25日
昭和28年(1953)の今日、約1年ぶりに、花巻に戻りました。
昭和20年(1945)、東京のアトリエを空襲で焼け出された光太郎は、宮澤家の招きで花巻に疎開、その年の秋には郊外太田村の山小屋(高村山荘)に入り、独居自炊の生活を7年間送りました。
同27年(1952)、青森県から依頼された「十和田湖畔の裸婦群像(通称・乙女の像)」制作のため、再び上京。中野の故・中西利雄のアトリエを借りました。
翌28年(1953)10月には十和田湖で像が除幕。その約1ヶ月後の今日、特急「みちのく号」を使って花巻に。12月5日まで滞在しました。ただし、山小屋には行ったものの、そこで寝泊まりせず、大沢温泉、志戸平温泉、花巻温泉松雲閣などに宿泊しました。滞在中には、ブリヂストン美術館制作の美術映画「高村光太郎」のロケも行われました。
その後も住民票は太田村に残したまま、東京と太田村を行ったり来たりしながらの生活を考えていましたが、健康状態がそれを許さず、結局、この時を最後に、二度と花巻、太田村に足を向けることはありませんでした。