新刊、といっても4月の刊行なので3ヶ月ほど経ってしまっていますが、最近まで気付きませんでした。 
2016/04/15  藤田尚志・宮野真生子 編 ナカニシヤ出版 定価2,200円+税

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「愛」の一語が秘めた深遠な思想史の扉を開く。よりアクチュアルに,より哲学的に,何より身近なテーマを問うシリーズ、第1巻。

目次
Ⅰ 西洋から考える「愛」
  第1章 古代ギリシア・ローマの哲学における愛と結婚 (近藤智彦)
     ――プラトンからムソニウス・ルフスへ――
 第2章 聖書と中世ヨーロッパにおける愛 (小笠原史樹)
 第3章 近代プロテスタンティズムの「正しい結婚」論? (佐藤啓介)
     ――聖と俗、愛と情欲のあいだで――
 第4章 恋愛の常識と非常識 (福島知己)
     ――シャルル・フーリエの場合――
Ⅱ 日本から考える「愛」
  第5章 古代日本における愛と結婚 (藤村安芸子)
      ――異類婚姻譚を手がかりとして――
 コラム 近世日本における恋愛と結婚 (栗原剛)
      ――『曾根崎心中』を手がかりに――
 第6章 近代日本における「愛」の受容 (宮野真生子)


編者のお二方は、それぞれフランス近現代思想、日本哲学史を専攻され、九州の大学で教鞭を執られている研究者です。

最初にこの書籍の情報を目にしたとき、「哲学」の文字から、小難しい理屈の羅列かと思いましたが、さにあらず。前半は西洋、後半は日本に於いて、「愛」がどのように捉えられてきたのか、その思想史的な考察……というと堅苦しいのですが、様々な実例を引きながら(近年の映画『エターナル・サンシャイン』や『崖の上のポニョ』まで含め)、いわば帰納的に「愛」の在り方が、かなりわかりやすく説かれています。

特に日本編は興味深く拝読しました。『古事記』や『源氏物語』、『曽根崎心中』、夏目漱石の『行人』、そして『智恵子抄』。

キリスト教の「love」の概念や、中国に於けるどちらかというと道徳的な「愛」の影響を受けつつ、対象と一つになることを理想とする恋愛の形の出現、そして一つにならねばならない、というある種の強迫観念がもたらした光太郎智恵子の悲劇、といった流れで、「なるほど」と首肯させられました。

本書でも、光太郎智恵子の悲劇の考察だけを取り出すのであれば、ほぼこれまでにも様々な論者が述べてきたことの焼き直しのような感がありますが、いわば「近代恋愛史」的なマクロ視点の中にそれを置くことで、また違った見方で見えてきます。ある意味、光太郎智恵子の悲劇は、「近代恋愛史」という壮大なパズルの無くてはならないピースのように、起こるべくして起こった、というような……。

版元のナカニシヤ出版さん。京都の書肆です。こうした真面目な、しかしはっきりいうと商業的にはどうなのかな、という出版に真摯に取り組まれる姿勢には敬意を表します。

ぜひお買い求め下さい。


【折々の歌と句・光太郎】

鳴きをはるとすぐに飛び立ちみんみんは夕日のたまにぶつかりにけり

大正13年(1924) 光太郎42歳