地上波テレビ朝日さん、そして系列のBS朝日さんで放映中の「やすらぎの刻~道 テレビ朝日開局60周年」。先月放映の第48話、そして直前の第47話でも、光太郎の『智恵子抄』が取り上げられました。
倉本聰さんによる、その脚本集第一巻が出版されました。
やすらぎの刻~道~ 第1巻
2019年6月21日 倉本聰著 双葉社 定価1,800円+税4月からテレビ朝日系で毎週月曜日から金曜日に約1年にわたり放送される連続ドラマ「やすらぎの刻 ~道」の原作本。テレビ全盛期を支えた者だけが無償で入れる老人ホーム「やすらぎの郷」を舞台に名優たちが演じる現代劇は前作「やすらぎの郷」と同様に展開される一方で、今回は主人公・菊村栄(石坂浩二)がドラマ内で執筆するシナリオ「道」が新たに映像化される。
第50話までが収録されており、『智恵子抄』に触れられた第47話、48話も収められています。
第47話、48話とも、主人公である石坂浩二さん演じる脚本家の菊村栄が、どこに発表する当てもなく書いているシナリオ「道」が、菊村の脳内ドラマとして描かれる「道」パート。戦前から戦時中の山梨県の架空の集落「小野ヶ沢」が舞台です。
47話では、「道」パートの語り手である農家の四男坊・根来公平(風間俊介さん)が母(岸本加世子さん)を亡くし、その知らせを受けて海軍航空隊に入営していた次兄の公次(Kis-My-Ft2の宮田俊哉さん)が帰省、公平と三男の三平(風間晋之介さん)が、村の共同墓地で公次を出迎えたシーン。昭和16年(1941)の晩秋、太平洋戦争開戦直前という設定です。
公次、久しぶりに目にする故郷の山々を前に……
そして美術好きな三平に向かって……
さらに「読んでみろ。沁みる」。敬愛する兄の言葉に、三平は……
続いて第48話。
夜になって、公次が三平・公平の部屋にやってきて……
手に取ってみる三平と公平。すると、書き込みのしてあるページがあることに気づく二人。それは「あどけない話」(昭和3年=1928)のページで、「阿多多羅山の山の上に/毎日出てゐる青い空が/智恵子のほんとの空だといふ。」の箇所、「阿多多羅山」が消されて「小野ヶ沢」となっています。
第47話での公次のセリフ「いいな、小野ヶ沢は」は、この伏線だったというわけで……。
この後、夜が明けたらまた基地に戻らねばならない公次のホイスパーで、「あどけない話」。公次はおそらく、米英との戦争が始まれば南方に派遣されるであろうこと、そして無事帰ってくるのが困難であろうことが分かっています。それだけに故郷の風景は心に沁みたのでしょう。
沁みました(笑)。
脚本集第一巻、一般新刊書店で平積みになっています。ぜひお買い求め下さい。
【折々のことば・光太郎】
かういふ質問には私にはまつたく苦手です。希望はあるけれど、予測は無いのです。(希望を書いてよければむろん新興リアリズムの詩の横溢を望みます。)
アンケート「貴下は後継詩壇を背負ふ人として如何なる人々を推されるか」
全文 昭和5年(1930) 光太郎48歳
全文 昭和5年(1930) 光太郎48歳
「新興リアリズムの詩」は、この時期の光太郎が近い位置にいたプロレタリア詩、アナーキズム系を指すのではないかと思われます。そういった方面に期待は寄せるが、それが主流になることもないだろうという光太郎の予想、みごとに当たります。そして光太郎自身も、軍部翼賛の方向に……。