書の風流 近代藝術家の美学
2021年1月31日 根本知著 春陽堂書店 定価2,200円+税
柳宗悦の書の原点
ヤスパースと原爆堂 内側に満ちる光
一政の書に対する姿勢 一政と金冬心 自分のための技術 ムーヴマン 一政の眼
「君は君 我は我なり されど仲よき」「龍となれ 雲自づと来たる」 戦後の書壇について
基本、書道論です。しかし、取り上げられている人々は、光太郎を含め、いわゆる「書家」ではありません。武者小路を除いて(武者も文人画的なものをよく描いていましたが)、全員が美術家です。そして程度の差こそあれ、それぞれに優れた書も残したことで有名。そこで、彼等の美術造型意識が、ある種の「余技」的な書作品にどう反映されているか、といった論考です。したがって、彼等の書そのものより、その背景がどうであったのかといった点に主眼が置かれ、いっぷう変わった書論集となっています。
おどろいたのは、光太郎ともども熊谷守一と中川一政が取り上げられていること。この三人、昨年開催予定だったもののコロナ禍で中止となった、富山県水墨美術館さんでの「「画壇の三筆」熊谷守一・高村光太郎・中川一政の世界展」ともろにかぶります。やはり美術界から書をよくした人物というと、この3人は外せないのかな、という感じですね。
ちなみに富山の展覧会、来年度以降に開催の方向、と、公式HPに出ました。まだ確定ではないようですが、当方としましても、諸方への作品の借り受けや図録の編集など、数年越しに関わっていた展覧会ですし、何より、ぜひ皆さんに光太郎書の優品の数々(本邦初公開のものも多数展示予定でした)をご覧頂きたいので、立ち消えにならないようにと願うばかりです。
2021/3/26追記 「「画壇の三筆」熊谷守一・高村光太郎・中川一政の世界展」展は2021年10月8日(金)~11月28日(日)に、仕切り直して開催されることとなりました。
閑話休題。本書で取り上げられている人物は、熊谷、中川以外にも、光太郎と浅からぬ縁。柳宗悦と武者は光太郎の朋友でしたし、建築家の白井晟一は高村光太郎賞造型部門の受賞者です。
そういった意味でも興味深い一書でした。ぜひお買い求めを。
【折々のことば・光太郎】
学校のうしろに一軒、家を建てかけてゐる。村人多数にて萱ぶき屋根の萱をふいてゐる。棟の方に萱の束を並べてゐるのが見える。春昼の普請風景のどかに見える。
萱(茅)葺き屋根、いいですねぇ。……と、光太郎も思ったことでしょう(笑)。