当会の祖・草野心平の関連です。

まず、7月3日(土)、『福島民友』さんの一面コラム。

編集日記 かわうちワイナリー

 詩人草野心平は酒をこよなく愛した。自らは、味よりも酔いを好む方だからと「学生飲み」を自称していた。酒にまつわる逸話にも、事欠かなかったようだ
 ▼経営していた居酒屋「火の車」では、酒のつまみ作りに腕を振るい、文豪や文化人らでにぎわった。心平が好きだったものの一つにイワナがある。創作の場だった川内村でも、釣れたばかりのイワナのワタを串に刺して焼き、いろりばたで味わっていた(「酒味酒菜」中公文庫)
 ▼村はいま、ワイン用のブドウの産地づくりを進めている。山あいに広がるブドウ畑には7品種、約1万1000本が栽培され、醸造施設「かわうちワイナリー」も先月下旬に開所した
 ▼秋の収穫を待ち、来春には待望の村産ワインが誕生する見通しだ。村の特産品を活用し、ワインに合う料理の開発にも知恵を絞っていこうとしている。心平がほれ込んだイワナも、村自慢の産品の一つだ
 ▼心平は焼酎をベースにしたブドウ酒を造ったことがある。ある名産地のブドウ酒試飲会に誘われたとき新しいヒントが得られるのではないか―と思ったものの、つい行きそびれてしまい未練が残った話も書いている。村のワインを飲んだら、どんな感想を漏らすだろう。

双葉郡川内村は、モリアオガエルの生息地・平伏(へぶす)沼を抱え、その縁で、隣接するいわき出身の「蛙の詩人」・心平が同村にたびたび滞在、村民と深く交流を持ちました。そこで、同村では心平を名誉村民に認定して下さいました。

その川内村で、ワイナリー。元は、東日本大震災による福島第一原発の事故の被害からの復興、ということで構想されました。ブドウは放射線に強いそうで。

『福島民報』さん、先月末の記事。

「かわうちワイナリー」開所式 福島県川内村 年間1万本以上生産目指す

 福島県川内村のワイン醸造施設「かわうちワイナリー」は26日、村内上川内の高田島ヴィンヤード内に完成し、開所式が行われた。関係者が東京電力福島第一原発事故からの農業再生の柱になる施設の完成を祝った。今秋に収穫するブドウから醸造を始め、年間1万本以上を生産予定。「かわうちワイン」の販売を通して国内外に村の魅力を発信する。
 開所式には約60人が出席した。遠藤雄幸村長が「川内村の元気な姿を広く見せていきたい」とあいさつ。ワイナリーを運営する、かわうちワイン社長の猪狩貢副村長が開所までの経緯を紹介した。
 内堀雅雄知事が「村の魅力が高まり、交流人口の拡大につながることを期待している」とあいさつし、横山信一復興副大臣、葉梨康弘農林水産副大臣、江島潔経済産業副大臣兼原子力災害現地対策本部長らが祝辞を述べた。遠藤村長らがテープカットし、開所を祝った。
 施設は鉄骨造りで建築面積は561平方メートル。醸造用のタンクのあるタンク室や貯蔵庫、ブドウを搾る機械などを備える。一般向けに不定期で見学会を開くほか、将来的にはワインの試飲や販売も行い、交流やにぎわいの拠点にする。
 高田島ヴィンヤードは阿武隈高地の最高峰・大滝根山を望む標高約700メートルにある。約3ヘクタールの畑で1万1000本のブドウを栽培。昨年秋には初収穫を行い、初のワインが完成した。
 昨年末に村に移住し、ブドウ栽培の責任者を務めている同社の安達貴さん(34)が醸造も担当する。出席者にタンク室などを案内した安達さんは「ブドウはおおむね順調に育っている。魅力的で特徴のあるワインを造りたい」と決意を語った。
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仙台に本社を置く『河北新報』さん。

川内村にワイナリー 地元でブドウ栽培、避難解除5年、産業化目指す

 東京電力福島第1原発事故で一時全村避難を強いられた福島県川内村に26日、ワイン醸造所「かわうちワイナリー」が開所した。村内で収穫したブドウを原料にしたワイン開発事業に、官民一体で約6年前から取り組んでいて、村は「かわうちワイン」を核とした新たなまちづくりを進める。
 現地であった記念式典には関係者ら55人が出席し、完成を祝った。ワイナリーは村北部の小高い丘の大平地区に建設され、栽培や醸造、瓶詰めを一貫して行う。750ミリリットル換算で1万9000本の生産が可能で、今秋収穫分から醸造を始める。
 標高約750メートルの周囲には約3アールのブドウ畑があり、シャルドネなど数種類のブドウの木約1万1000本が植えられている。ワインの味を左右するとされる土壌にはミネラル分を含む花こう岩の成分が含まれているため、良質なブドウが育つという。今年3月には昨秋に収穫されたブドウを山梨の工場に委託醸造した「シャルドネ2020」が披露された。
 2015年からワイン造りの構想が練られ、翌年に地元住民らによるブドウ栽培が始まった。17年には村も出資する醸造会社「かわうちワイン」が設立された。同社はレストランや宿泊施設などの経営も検討している。栽培・醸造責任者の安達貴さんは「まだ準備ができた段階。選ばれ続けるワインを造りたい」と話す。
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確かに心平に飲ませたかったところですね(笑)。

その川内村で、2年ぶりに、心平をたたえる「天山祭り」が今週末に開催されます。

第56回 天山祭り開催のお知らせ

今年度の天山祭りは、新型コロナウイルス感染拡大予防のため、参加者を福島県在住の方100名程度に限らせて開催いたします。また、会場での飲食物の提供及び飲食も控えさせていただきます。

日 時 令和3年7月10日(土) 午前10時から正午まで
場 所 天山文庫前庭(雨天時は川内村村民体育センター)
参加者 福島県在住の方 100名程度
参加費 1人500円
※ 来場者にはお土産を配付させていただきます。

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当方、4回ほど参加させていただきました。生前の心平が愛し、心平没後は心平を偲ぶ意味合いを持たせ、さらに東日本大震災後は、村の復興祈願も兼ねたイベントとなりました。

会場の天山文庫(上記画像イラスト)は、心平の別荘的な建物で、心平から寄贈された書籍が所狭しと置かれているため「文庫」の名が冠されています。建設委員には光太郎実弟にして心平と親しかった、髙村豊周も名を連ねました。

例年ですと、かつて心平が主宰した『歴程』同人の皆さんなどによる、心平詩の朗読等が盛り込まれていましたが、今年は規模を縮小しての開催のようで、どうなりますことやら。

福島ご在住の方、ぜひどうぞ。

【折々のことば・光太郎】

「光太郎詩集」再版のため検印紙一〇〇〇枚捺印。


昭和23年(1948)3月26日の日記より 光太郎66歳

「光太郎詩集」は、鎌倉書房版『高村光太郎詩集』。前年7月に初版が出た、光太郎初の単独選詩集で、『道程』時代の明治末から、『智恵子抄』所収の「荒涼たる帰宅」(昭和16年=1941)まで、70篇余の詩が収められています。編集・装幀・跋文は心平でした。

跋文から。

現代日本最高の詩人が岩手の山奥の藁と泥とがたぴしの板とでできた小さな小屋で独り貧寒の自炊をしながら、むしろ伝説的な精進に昼と夜とを過ごしてゐることを一応私は報告しておきたい。
私の家の竹藪ではもう鶯もなきはじめたが、あの掘立小屋の界隈は陣陣さむく、まだまだレントゲン色の吹雪もやつてくるだらう。超人的な貪婪な、六十五歳の美のかたまりがそこにゐる。


「検印紙」は、奥付に貼る紙片。印税を計算するためのもので、著者が捺印することになっていました。現在は廃止されています。