新刊です。

書の風流 近代藝術家の美学

2021年1月31日 根本知著 春陽堂書店 定価2,200円+税

様々なジャンルの芸術家の代表的な書をビジュアルに見せながら、彼らの美学を論じる!

本書に登場する藝術家は、自身の専門分野以外に、「書」にも勤しんだ。それは、展覧会で審査されるものではないから、 まさに「風流」だった。さらには自身の藝術から抽出された美学をもって筆をとったため、どの人物の書も実に個性的だった。 よって本書では、その美学を一つずつ浮き彫りにすることを目標にした(「はじめに」より)

著者紹介
根本 知(ネモトサトシ)(著/文)
書家。平成25年、大東文化大学大学院博士課程修了。博士号(書道学)取得。 現在、大東文化大学文学部書道学科、放送大学教養学部人間と文化コース、大東文化大学第一高等学校、 日本橋三越カルチャーサロンなどで教鞭を執る。 テレビ・雑誌でも活躍中。
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目次
 はじめに
 松田正平 書と原点
   松田正平の評価 犬馬難鬼魅易 書について
 「書く」と「掻く」
 熊谷守一 書と心象
  身の丈に合うことば 守一の生活 小さなもの音
  守一の絵とフォーヴ へたも書のうち
 柳宗悦 書と用
  民藝について 独走と作為 「こと」と「もの」
  他力道 用の美について 書の模様化
  柳宗悦の書の原点
 白井晟一 書と常
  簡素な美 特異な工夫 戦争と原爆の図
  原爆堂計画 縄文的なるもの
  ヤスパースと原爆堂
 内側に満ちる光
 中川一政 書と遅筆
  一政の絵について 一政の読みやすい書
  一政の書に対する姿勢 一政と金冬心 自分のための技術 ムーヴマン 一政の眼
 高村光太郎   書と造型
  光雲と智恵子 姿勢は河の如く、動勢は水の流の如く 造型美論 書について
 武者小路実篤 書とことば
  「新しき村の精神」 「天に星 地に花 人に愛」 「自然は不思議」
  「君は君 我は我なり されど仲よき」
「龍となれ 雲自づと来たる」 戦後の書壇について
 おわりに

基本、書道論です。しかし、取り上げられている人々は、光太郎を含め、いわゆる「書家」ではありません。武者小路を除いて(武者も文人画的なものをよく描いていましたが)、全員が美術家です。そして程度の差こそあれ、それぞれに優れた書も残したことで有名。そこで、彼等の美術造型意識が、ある種の「余技」的な書作品にどう反映されているか、といった論考です。したがって、彼等の書そのものより、その背景がどうであったのかといった点に主眼が置かれ、いっぷう変わった書論集となっています。

おどろいたのは、光太郎ともども熊谷守一と中川一政が取り上げられていること。この三人、昨年開催予定だったもののコロナ禍で中止となった、富山県水墨美術館さんでの「「画壇の三筆」熊谷守一・高村光太郎・中川一政の世界展」ともろにかぶります。やはり美術界から書をよくした人物というと、この3人は外せないのかな、という感じですね。

ちなみに富山の展覧会、来年度以降に開催の方向、と、公式HPに出ました。まだ確定ではないようですが、当方としましても、諸方への作品の借り受けや図録の編集など、数年越しに関わっていた展覧会ですし、何より、ぜひ皆さんに光太郎書の優品の数々(本邦初公開のものも多数展示予定でした)をご覧頂きたいので、立ち消えにならないようにと願うばかりです。
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2021/3/26追記 「「画壇の三筆」熊谷守一・高村光太郎・中川一政の世界展」展は2021年10月8日(金)~11月28日(日)に、仕切り直して開催されることとなりました。

閑話休題。本書で取り上げられている人物は、熊谷、中川以外にも、光太郎と浅からぬ縁。柳宗悦と武者は光太郎の朋友でしたし、建築家の白井晟一は高村光太郎賞造型部門の受賞者です。

そういった意味でも興味深い一書でした。ぜひお買い求めを。

【折々のことば・光太郎】

学校のうしろに一軒、家を建てかけてゐる。村人多数にて萱ぶき屋根の萱をふいてゐる。棟の方に萱の束を並べてゐるのが見える。春昼の普請風景のどかに見える。

昭和21年(1946)5月5日の日記より 光太郎64歳

萱(茅)葺き屋根、いいですねぇ。……と、光太郎も思ったことでしょう(笑)。