『静岡新聞』さん。先週15日(金)の掲載でした

「女伊達直人」から図書カード 磐田市に1万円分 昨年に続き

 磐田市は14日、漫画「タイガーマスク」の主人公にちなんだとみられる「女 伊達直人」を名乗る差出人から渡部修市長宛てに、図書カード計1万円分が届いたと発表した。
 封筒には5千円分の図書カード2枚と、詩人高村光太郎の詩「牛」の一節と共に「厳しい年になりましたが、頑張っている母子の家庭に少しの光を」などと書かれた手紙が入っていた。
 具体的な使い道は今後検討する。渡部市長は「新型コロナウイルスに対して多くの市民が不安を抱いているなか、善意の輪が広がっていることに感謝申し上げます」とコメントした。
 磐田市には昨年1月上旬にも「女 伊達直人」から図書カードが届いていて、筆跡などから同一人物とみられるという。
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寄贈された図書カードと共に、光太郎詩「牛」(大正2年=1913)の一節だそうで、おそらく差出人の「女伊達直人」さんが、「牛」に感じるところが何かあったのでしょう。あるいはもともと光太郎ファンの方なのか。

さて、一定以上の年代の方には解説不要でしょうが、「タイガーマスク」、「伊達直人」について。

漫画「タイガーマスク」は、梶原一騎原作、辻なおき作画で、昭和44年(1969)に『週刊ぼくらマガジン』で連載が始まり、同誌の廃刊後『週刊少年マガジン』に掲載誌を移し、同46年(1971)まで続いた人気漫画でした。連載とほぼ並行してテレビアニメ化され、テーマソングはアニソン史上の傑作の一つとの呼び声が高いものですね。
「伊達直人」は、主人公。漫画でもアニメでも詳細は語られませんでしたが、おそらく太平洋戦争に伴う戦災孤児です。自らが育った孤児院の解散にともなって日本を出、スカウトされた悪役プロレスラー専門の養成機関「虎の穴」に入り、素性を隠して「タイガーマスク」としてデビュー。全米を恐怖の渦に陥れます。

伊達は突如来日。孤児院が「ちびっこハウス」として再建されたものの、慢性的な経営難に陥っていることを知り、その援助のためでした。そこで「虎の穴」へ納めなければならない上納金を流用し、結果、「虎の穴」が送り込む刺客と死闘を繰り広げることになります。

アニメ版では、最後の刺客との試合中にマスクが外れて素性がばれ、日本を去るという終わり方でしたが、原作の漫画版では、「虎の穴」を壊滅させた後……
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ショッキングな結末です。

平成22年(2010)、群馬県前橋市の児童養護施設に「伊達直人」名義でランドセルが贈られ、それをきっかけに、全国の施設で寄付行為が連鎖、その流れが今も続いているわけですね。

戦後、光太郎もこうした寄付行為を行っていました。ただ、匿名ではありませんでしたが。昭和26年(1951)、詩集『典型』が第二回読売文学賞に選ばれると、その賞金をそっくり、蟄居生活を送っていた山小屋近くの山口小学校や地区の青年会などに寄付してしまいました。小学校ではそれで舞台用の幔幕を新注しました。
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その後も、ことあるごとに小学校へ楽器や幻灯機、書籍などを寄贈しています。その流れを受け、山口小学校が統合された太田小学校さんでは、毎年5月15日(昨年はコロナ禍で中止)の花卷高村祭で、児童さんたちが楽器演奏を披露してくれています。もちろん現在は光太郎から寄贈された楽器ではありませんが、同祭の始まった昭和30年代には、光太郎から送られた楽器が使用されていました。
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逆に光太郎が「女伊達直人」的な人の世話になったことも。

まったく面識もなかった、紀尾井町の料亭福田家(ふくだや)の女将・福田マチが、光太郎の蟄居生活を報道で知り、さまざまな食料などを送ってくれました。当会の祖・草野心平ら知り合いが食料等を贈ることはあっても、未知の人からの援助は珍しい例でした。

昭和27年(1952)、生涯最後の大作「十和田湖畔の裸婦群像(通称・乙女の像)」制作のため再上京した光太郎、たまたま雑誌の対談企画で会場となった福田家を初めて訪れました。その際、山にいた頃に食料を贈ってくれたのはこの店の女将だったのでは? と問うと、果たしてその通りだったため、その場にいた一堂が奇縁に驚いたというエピソードが残っています。

「女伊達直人」。こうした心温まるニュースが、もっと増えて欲しいものです。同じ「寄付」でも「賄賂」では困りますが(笑)。

【折々のことば・光太郎】

午後テガミ書き、詩稿を送り来りて天分の有無を問合わせくる青年が時々あるには閉口。詩とはかかるものにあらざる旨を書きおくる。弟子に置れといふテガミも少からず、事情を書いて断る。

昭和21年(1946)3月24日の日記より 光太郎64歳

逆にあつかましい依頼の例ですね。「弟子に置れ」は原文の通りで「弟子として置いてくれ」といった意味でしょう。