奈良県から展覧会情報です 

期 日 : 2020年10月19日(月)~11月8日(日)
会 場 : 天理図書館 奈良県天理市杣之内町1050
時 間 : 9時00分~15時30分
休 館 : 会期中無休
料 金 : 無料

 今秋、天理図書館は昭和5年の開館より90年の星霜を数えます。この期を祝して「天理図書館開館90周年記念展-新収稀覯本を中心に-」展を開催いたします。これは、平成22年に催した「天理図書館開館80周年記念特別展」に次ぐもので、それからの10年間に収蔵した資料に焦点をあてました。館蔵の国宝・重要文化財に指定されている資料の断簡、書簡や原稿などの自筆資料、また絵画や地図など、国内外の様々な分野の資料を展示いたします。これらをご清覧いただくことで、古典への関心を呼び起こし、書物文化の奥深さをより身近に感じていただくとともに、本館の活動にさらなるご理解を賜れば幸いです。
000
004
出品目録
1   南海寄帰内法伝 巻第三断簡 奈良時代後期写
2   大鏡 巻中之上断簡 建久3年写
3   大鏡 巻第五断簡 千葉本 鎌倉時代写
4   本朝書籍目録 室町時代写
5   和名集 有坂本 室町時代後期写
6   梁塵秘抄郢曲抄 江戸時代後期写
7   舞楽帖 [土佐光起]画 江戸時代前期写
8   宇治拾遺物語 古活字版 寛永期頃刊
9   徒然草寿命院抄 古活字版 秦宗巴著 慶長6年跋刊
10  着到和歌断簡 後土御門天皇ほか自筆 室町時代中期写
11  後撰和歌集 甘露寺親長筆 明応4年写
12  宗祇座像  江戸時代初期写
13  賦何人連歌 [宗長]筆 長享2年写
14  連歌新式追加并新式今案等 里村玄仍筆 慶長2年写
15  発句帳 古活字版 寛永期頃刊
16  松花堂行状記 [佐川田昌俊]筆 寛永期写
17  石清水八幡献物帳 松花堂昭乗自筆 寛永16年写
18  音羽桜 松永貞徳ほか自筆 江戸時代前期写
19  「いきみ玉」発句画賛 野々口生白画 野々口立圃賛 江戸時代前期写
20  新撰都曲 池西言水編 元禄3年跋刊
21  我身皺 池西言水編 宝永4年序刊
22  いねあけよ 鬼貫初懐紙 爛々斎阿貢編 宝永6年序刊
23  仙家之杖 塘潘山編 寛保3年跋刊
24  花頂山中高徳院発句会「時雨」句 与謝蕪村自筆 明和8年写
25  「かはらけ売」自画賛 与謝蕪村自画賛 江戸時代中期写
25参 「炭売に」自画賛 与謝蕪村自画賛 江戸時代中期写
26  河内老嫗火近江手孕村 敵討両輌車 前編 稿本 山東京伝自筆 文化2年写
27  春雨物語 羽倉本 上田秋成自筆 文化6年奥書写
28  滝沢馬琴書簡 小津桂窓宛 滝沢馬琴自筆 天保7年写
29  半魚譜 森立之編 安政6年自序写
30  出島厨房図 [川原慶賀]画 江戸時代後期写
31  飼育場図 [川原慶賀]画 江戸時代後期写
32  西洋婦人馬上の図 石川大浪画 江戸時代後期写
33  永井荷風書簡 新延修三宛・日高基裕宛 永井荷風自筆 昭和11年
34  悪妻の手紙 原稿 川端康成自筆 昭和15年
35  えにしあらば 原稿 室生犀星自筆 昭和17年
36  文学の師医学の師 原稿 斎藤茂吉自筆 昭和17年
37  日本美の源泉 原稿 高村光太郎自筆 昭和17年
38  [J.レメリン] 小宇宙鑑 [ウルム] 1613年刊
   付:小宇宙の解説 [アウスブルグ] 1614年刊
39-1  [R.ダッドレー] 日本と蝦夷および朝鮮国と周辺諸島の図 
39-2  [R.ダッドレー] 中国沿岸、台湾および日本の南方諸島の部分図
39-3  [R.ダッドレー] 蝦夷の東部およびアメリカと蝦夷間の海峡の図
   『海の秘密』第3巻所収 フィレンツェ 1647年刊   
40  A.キルヒャー シナ図説 オランダ語版 アムステルダム 1668年刊
41         E.ケンペル 日本誌 ロンドン 1727-1728年刊 
42  C.ワーグマン ジャパン・パンチ 創刊号・第2号 横浜1862年[5]・6月刊

天理図書館さん、内外の稀覯書、肉筆物等005の蒐集に力を入れていて、これまでもこうした展覧会をたびたび開催されています。

右は、平成4年(1992)に開催された「天理秘蔵名品展」に出た光太郎草稿。大正2年(1913)3月、雑誌『趣味』に掲載され、翌年刊行の詩集『道程』にも収録された詩「カフエ・ライオンにて」。カフェ・ライオンは現在も続く銀座のビヤホール・ライオンの前身です。 

で、今回は、出品目録で「日本美の源泉 原稿 高村光太郎自筆 昭和17年」。

「日本美の源泉」は、昭和17年(1942)の7月から12月にかけ、中央公論社から発行されていた雑誌『婦人公論』に全6回で連載された美術評論で、その草稿を同社編集者の栗本和夫が和綴じに仕立て、保管していました。

昭和47年(1972)には、中央公論美術出版さんが、それをそのまま復刻し、二重函帙入り別冊解説付き限定300部・定価15,000円で刊行しました。別冊解説は当会顧問であらせられた故・北川太一先生でした。北川先生曰く「実用の文字であるだけに、かえってその人を見るような強靱な意力をひめ、刻み込むような筆力をもって終始たゆまぬ筆蹟」。まさしくその通りです。
006

002 001
003
B4判の原稿用紙34枚を二つ折りにして和綴じにしてあり、内容的にもさることながら、その味わい深い文字、見ていて見飽きることがありません。
KIMG4249
その後、他の栗本の蔵書などと共に、財団法人栗本図書館(長野県諏訪郡富士見町)に収められていたのですが、そちらが閉館ということで、天理図書館さんの方に所蔵が移ったのだそうです。天理さんならこのように展示公開もなさって下さいますし、いい所に収まったと思います。

ところが、栗本が和綴じに仕立てた時点で、第四回の冒頭部分一枚が失われていました。復刻出版のその箇所は、仕方がないので活字で。
KIMG4250
KIMG4251
ここに入るべき失われた一枚が、昨年、ネットオークションに出品され、驚愕しました。
神護寺湯川龍造
栗本と同じ中央公論社の編集者だった湯川龍造の旧蔵ということで、なるほど、そういうことだったか、という感じでした。湯川も他の作家の草稿などを多数所蔵していたとのこと。栗本にしても湯川にしても、それはネコババというわけではなく、戦時中の中央公論社の「自主廃業」に関わります。そのあたり、昨年のこのブログに書きましたのでご参照下さい。

今回の天理さんの展示、最初は湯川旧蔵のこの一枚が出るのかと思ったのですが、問い合わせてみましたところそうではなく、栗本旧蔵の方とのことでした。しかしそれはそれで名品であることに変わりはありません。

その他、上記出品目録の通り、なかなかの逸品が並ぶようです。ぜひ足をお運び下さい。


【折々のことば・光太郎】

天才は偉いのではありません。かえって欠点のある人の方がいいのです。天才は狂っているのです。頼まれないのにできるのですから。

談話筆記「高村光太郎先生説話 二八」より
昭和26年(1951) 光太郎69歳

「天才は狂っている」、たしかに、ものすごいことが努力無しに出来てしまうというような、そういう存在は理屈に合わないといった意味ではそうかも知れませんね。