コロナ禍ということで、アートの世界にもリモートやらテレやらの流れが取り入れられています。

そんな中、東京都としての、「アートにエールを!東京プロジェクト」という芸術文化活動支援事業が展開されています。「新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に伴い、活動を自粛せざるを得ないプロのアーティストやスタッフ等が制作した作品をWeb上に掲載・発信する機会を設けることにより、アーティスト等の活動を支援するとともに、在宅でも都民が芸術文化に触れられる機会を提供するものです。」だそうで。
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Web上に掲載・発信を希望する人は、専用サイトから登録を行い、動画等を投稿、何でもかんでもアップされるわけではなく、審査に通れば配信されるというシステムのようです。「個人型」と「ステージ型」があり、「個人型」は自主制作した動画を応募、出演料が支払われるそうです。「ステージ型」は劇場・ホール等を利用した無観客や入場制限のある公演等の制作及び配信の支援だとのこと。

で、「個人型」の方で、光太郎のエッセイ「人の首」(昭和2年=1927)からインスパイアされた作品が配信されています

Rising Tiptoe出演者有志 人の首

今作は高村光太郎のエッセイ「人の首」を題材としています。
「見る」をテーマに、現代の社会情勢を風刺した新しい作品として仕上げました。
コロナ禍にありこれまで以上に人を「見る」ようになった私たちも実は常に人から「見られ」続けているという不条理作品となっています。
通常は舞台での会話劇として上演しますが、今回は客席にてそれぞれがソーシャルディスタンスを守りながら現代社会を反映した作品に挑戦します。

Rising Tiptoe出演者有志
 出演 : おおばゆか 岡庭菜穂 小田切沙織 中島多朗
 撮影・舞台監督 : 服部寛隆
【協力】脚本提供 : 宇吹萌(Rising Tiptoe)



出演されている方のブログがこちら

光太郎の「人の首」は青空文庫さんで読めます。傑出した彫刻家としての見方というのはこういうものなのか、と感心させられる文章です。

このブログでは、基本、個人の方がご自分のサイトに上げたり、動画投稿サイトなどにアップしたりした動画等はご紹介しませんが、今後、こうしたリモート○○、テレ××の世界、一つのジャンルとして定着して行くのかも知れませんね。

余談ですが、今日から1泊2日で岩手花巻に行って参ります。花巻高村光太郎記念館さんで4日から開催されている展示「光太郎の父 光雲の鈿女命(うずめのみこと)」の関連行事としての市民講座で、講師を務めて参ります。今年度に入って、コロナ禍のためこの手の仕事は軒並み中止や延期で、実に久しぶりです。

【折々のことば・光太郎】

人は満ちたりたと思ったときには進歩がありません。環境のよいところでは、なかなか進歩しません。むしろ少々困るときや恵まれないときに勤勉になるし、そこからよい考えもよい方法も工夫されていきます。環境の悪いところにいながら、たゆまず努めて、よいものを作りだしていく。そこに大きな力が生まれます。
談話筆記「高村光太郎先生説話 一」より
 昭和23年(1948) 光太郎66歳

浅沼政規著『高村光太郎先生を偲ぶ』(平成7年=1995)からの転載です。故・浅沼氏は光太郎が蟄居生活を送っていた花巻郊外旧太田村の山小屋(高村山荘)近くの山口分教場が小学校に昇格した際、校長として赴任してきました。当時同校の児童だった子息の隆氏は今も光太郎の語り部としてご活躍されています。

浅沼校長は折に触れ、光太郎の語った言葉を筆録し、長短併せてその数30数編に及びます。「一」は山口小学校のPTA結成会での光太郎のスピーチ的なもの。

何だか今のコロナ禍を予言しているようにも読めますが、戦時中の耐乏生活、戦後の太田村の山小屋での厳しい生活を念頭に置いての発言でしょう。