栃木県小山市の広報誌『広報おやま』の今月号に、光太郎の名。
「日本書紀」の記述を西暦におきかえると、神武天皇が東征して大和(やまと)を平定し、橿原(かしはら)宮で即位したのが紀元前660年にあたります。昭和15年は神武天皇の即位以来2600 年にあたる年だとして、奉祝記念行事が行われました。神話に登場する神武天皇が、 建国の神祖として称揚されました。泥沼化した日華事変(日中戦争)で国力を消耗し、 予定されていたオリンピックも万国博も返上した日本が、内外に向け国威発揚を企図したこの「紀元二千六百年奉祝」でした。
日華事変下の奉祝昭和15年は紀元二千六百年一色に染め上げられた一年でした。「〽金鵄(きんし)輝やく日本の栄えある光身にうけていまこそ祝えこの朝(あした)紀元は二千六百年ああ一億の胸はなる」と、奉祝国民歌「紀元二千六百年」がラジオから流れていました。またこの年、高村光太郎作詞の「歩くうた」も、戦時下に歩くことが奨励され、シンプルな文句をリズミカルな曲で、かなりのヒット曲となりました。神武天皇即位の聖地・畝傍山(うねびやま)(奈良県)の麓の橿原宮では社殿が修復され、「建国奉仕隊」と称する勤労奉仕団が全国からくり出し、その数は延べ百二十万人に達しました。約50万平方メートルの敷地をもつ神宮外苑が造られ、橿原文庫、大和歴史館、総合グラウンド、森林公苑などがここに生まれました。
(以下略)

シリーズ小山の歴史199 紀元二千六百年 昭和15(1940)年
日華事変下の奉祝昭和15年は紀元二千六百年一色に染め上げられた一年でした。「〽金鵄(きんし)輝やく日本の栄えある光身にうけていまこそ祝えこの朝(あした)紀元は二千六百年ああ一億の胸はなる」と、奉祝国民歌「紀元二千六百年」がラジオから流れていました。またこの年、高村光太郎作詞の「歩くうた」も、戦時下に歩くことが奨励され、シンプルな文句をリズミカルな曲で、かなりのヒット曲となりました。神武天皇即位の聖地・畝傍山(うねびやま)(奈良県)の麓の橿原宮では社殿が修復され、「建国奉仕隊」と称する勤労奉仕団が全国からくり出し、その数は延べ百二十万人に達しました。約50万平方メートルの敷地をもつ神宮外苑が造られ、橿原文庫、大和歴史館、総合グラウンド、森林公苑などがここに生まれました。
(以下略)

長いので全文は引用しませんが、この後、小山市での紀元2600年の様子が少し紹介され、さらに皇居での式典の様子が述べられています。
その枕として、この年のヒットソングというわけで、光太郎作詞、飯田信夫作曲、徳山璉(たまき)歌唱の「歩くうた」が取りあげられています。当時はオリコンチャート○位、といったものはなかったと思われますので、どの程度のヒットだったのかは何ともわかりませんが……。ただ、確認できている限りレコードはインスト版も含め、4種類も発売されています。ま、何はともあれ、光太郎の「負の遺産」の代表格ですね。
作曲者・飯田信夫は、他に同じ徳山が歌った「〽とんとん とんからりと 隣組 」の「隣組」(岡本一平作詞)などでも有名な作曲家です。現在、NHKさんで放映中の連続テレビ小説「エール」の主人公、窪田正孝さん演じる古山裕一のモデル、古関裕而とも交流があり、ドラマでも取りあげられた古関作曲による早稲田大学応援歌「紺碧の空」のレコード(戦後の昭和26年=1951)は、飯田が編曲しています。
「エール」といえば、現在は新型コロナの影響なのでしょう、今週からスピンオフ的な回が続いていますが、おそらく、今後、戦時の話となり、古関作曲の「負の遺産」である「露営の歌(〽勝ってくるぞと勇ましく……)」、さらには「若鷲の歌(予科練の歌、〽若い血潮の予科練の 七つボタンは桜に錨……)」なども取りあげられるのではないかと思われます。既に伏線は張られているようです。二階堂ふみさん演じる裕一の妻・音の実家「関内馬具店」が軍用の馬具を制作しているという話の流れで、音は間接的に戦争に荷担していることにしこりを感じ、裕一は「でも、馬具が兵隊さんを守ってくれてるんだから……」的なことを言って慰めるシーンがありました。おそらく後の軍歌や戦時歌謡を暗示していたのでしょう。
また、やはり「エール」と言えば、昨日放映のスピンオフ「環のパリの物語」では、「智恵子抄」を連想してしまいました。音の師にして、三浦環をモデルとする双浦環(柴咲コウさん)の若き日の物語。オペラ「蝶々夫人」の主役の座を射止めた環に対し、恋人の売れない画家・嗣人(金子ノブアキさん)は売れない画家のまま……。嗣人は環の成功を素直に喜べず、あまっさえ嫉妬したり、環に歌をやめてくれと身勝手な懇願をしたり……。音楽と絵画、ジャンルは違えど同じ「芸術」という土俵にいる者同士で結ばれてしまったがゆえの悲劇でした。

無論、すべての芸術家カップルがそうだとは言いませんが、光太郎智恵子の場合も、似たようなことがあったように思われます。彫刻家として、詩人として、徐々に世に認められてゆく光太郎に対し、やはり売れない画家だった智恵子も嫉妬を感じていたことは想像に難くありません。それが心の病を引き起こした要因の一つと言ってしまっても過言ではありますまい。
ちなみに光太郎、明治末に三浦環の公演をその目で観ています。が、そちらは改めてご紹介するとして、今日はこの辺で。
【折々のことば・光太郎】
その枕として、この年のヒットソングというわけで、光太郎作詞、飯田信夫作曲、徳山璉(たまき)歌唱の「歩くうた」が取りあげられています。当時はオリコンチャート○位、といったものはなかったと思われますので、どの程度のヒットだったのかは何ともわかりませんが……。ただ、確認できている限りレコードはインスト版も含め、4種類も発売されています。ま、何はともあれ、光太郎の「負の遺産」の代表格ですね。
作曲者・飯田信夫は、他に同じ徳山が歌った「〽とんとん とんからりと 隣組 」の「隣組」(岡本一平作詞)などでも有名な作曲家です。現在、NHKさんで放映中の連続テレビ小説「エール」の主人公、窪田正孝さん演じる古山裕一のモデル、古関裕而とも交流があり、ドラマでも取りあげられた古関作曲による早稲田大学応援歌「紺碧の空」のレコード(戦後の昭和26年=1951)は、飯田が編曲しています。
「エール」といえば、現在は新型コロナの影響なのでしょう、今週からスピンオフ的な回が続いていますが、おそらく、今後、戦時の話となり、古関作曲の「負の遺産」である「露営の歌(〽勝ってくるぞと勇ましく……)」、さらには「若鷲の歌(予科練の歌、〽若い血潮の予科練の 七つボタンは桜に錨……)」なども取りあげられるのではないかと思われます。既に伏線は張られているようです。二階堂ふみさん演じる裕一の妻・音の実家「関内馬具店」が軍用の馬具を制作しているという話の流れで、音は間接的に戦争に荷担していることにしこりを感じ、裕一は「でも、馬具が兵隊さんを守ってくれてるんだから……」的なことを言って慰めるシーンがありました。おそらく後の軍歌や戦時歌謡を暗示していたのでしょう。
また、やはり「エール」と言えば、昨日放映のスピンオフ「環のパリの物語」では、「智恵子抄」を連想してしまいました。音の師にして、三浦環をモデルとする双浦環(柴咲コウさん)の若き日の物語。オペラ「蝶々夫人」の主役の座を射止めた環に対し、恋人の売れない画家・嗣人(金子ノブアキさん)は売れない画家のまま……。嗣人は環の成功を素直に喜べず、あまっさえ嫉妬したり、環に歌をやめてくれと身勝手な懇願をしたり……。音楽と絵画、ジャンルは違えど同じ「芸術」という土俵にいる者同士で結ばれてしまったがゆえの悲劇でした。

無論、すべての芸術家カップルがそうだとは言いませんが、光太郎智恵子の場合も、似たようなことがあったように思われます。彫刻家として、詩人として、徐々に世に認められてゆく光太郎に対し、やはり売れない画家だった智恵子も嫉妬を感じていたことは想像に難くありません。それが心の病を引き起こした要因の一つと言ってしまっても過言ではありますまい。
ちなみに光太郎、明治末に三浦環の公演をその目で観ています。が、そちらは改めてご紹介するとして、今日はこの辺で。
【折々のことば・光太郎】
御企てについての印刷物拝誦、良心と精覈とを以て事に当らば十分意義ある仕事と存じます、しかし経済的に成立せしめるには余程の手腕がいる事と考へられ、御志を壮とします。
ちなみにこの項、筑摩書房さん『高村光太郎全集』第一巻から言葉を拾い続けて参りましたが(日記、書簡、翻訳、短歌、俳句等は割愛)、少し前に最終巻の別巻まで拾い尽くし、その後、『全集』未収録の座談会筆録、談話筆記を文治堂書店さん『光太郎資料』第三巻、第六巻から拾い、そして、それらの補遺たる『光太郎遺珠』から拾い始めました。したがって、当分の間、『高村光太郎全集』に漏れていた新発見作品から引用していきますのでよろしく(何が「よろしく」なのだかよく分かりませんが(笑))。
散文「創刊に寄する諸家の言葉」全文 昭和12年(1937) 光太郎55歳
昭和12年(1937)8月22日発行『詩報』第一年第一号(二)面に掲載された短文です。『詩報』は「全日本/詩人の新聞」の副題を持ち、のちに光太郎が題字を揮毫した詩集『山川秘唱』(昭和19年=1944)の著者・村上成實が編刊にあたっていました。


ちなみにこの項、筑摩書房さん『高村光太郎全集』第一巻から言葉を拾い続けて参りましたが(日記、書簡、翻訳、短歌、俳句等は割愛)、少し前に最終巻の別巻まで拾い尽くし、その後、『全集』未収録の座談会筆録、談話筆記を文治堂書店さん『光太郎資料』第三巻、第六巻から拾い、そして、それらの補遺たる『光太郎遺珠』から拾い始めました。したがって、当分の間、『高村光太郎全集』に漏れていた新発見作品から引用していきますのでよろしく(何が「よろしく」なのだかよく分かりませんが(笑))。