映画監督の大林宣彦さんの訃報が出ました。

『スポーツニッポン』さんの記事から。

映画監督の大林宣彦さんが肺がんで死002去 82歳 「転校生」など“尾道三部作”

 「転校生」「時をかける少女」「さびしんぼう」の“尾道三部作”などで知られる映画監督の大林宣彦さんが10日夜、肺がんのため死去した。82歳。広島県出身。葬儀・告別式は家族葬を行い、後日お別れの会を開く。

 2016年に肺がんの宣告を受けていたが、闘病しながら撮影した「花筐 HANAGATAMI」は17年12月に公開。昨年11月には東京国際映画祭で特別功労賞を受賞。遺作となった「海辺の映画館―キネマの玉手箱」はくしくも大林さんが亡くなった10日が公開初日となる予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期となっていた。

 1938年(昭和13)1月9日生まれ。CMディレクターを経て、77年「HOUSE」で商業映画監督デビュー。その後「ねらわれた学園」「転校生」「時をかける少女」「さびしんぼう」などを発表。92年「青春デンデケデケデケ」で日本アカデミー賞優秀監督賞。98年「SADA 戯作・阿部定の生涯」でベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞受賞。2004年に紫綬褒章、09年に旭日小綬章を受章。


大林監督、平成10年(1998)、日本テレビ系列で放映された「知ってるつもり?!」の「高村智恵子」の回にゲスト出演されました。

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司会は関口宏さん、千野志麻アナウンサー。大林監督以外のゲストは、舞台で智恵子役を演じられた女優の有馬稲子さん、智恵子に関するご著書のある沖縄国際大学教授の黒澤亜里子さん、俳人の黛まどかさん、俳優の榎木孝明さんでした。大林監督、要所要所で的確なコメントをなさっていました。

もう1点。『スポニチ』さんの記事にもある最新作「海辺の映画館―キネマの玉手箱」。昨年からこの映画には注目しておりました。というのは、戦時中の移動演劇隊「桜隊」が描かれると知ったからです。

 


「桜隊」は国威発揚を目的にした移動演劇隊。丸山定夫という俳優がリーダーでした。当時、国策にそぐわない劇団は解散させられ、わずかにこうした活動のみが許されていました。そして、「桜隊」は、慰問に訪れていた広島で被爆、リーダーの丸山は重傷を負い、終戦の翌日、息を引き取りました。最後の言葉は「やっと自由に芝居ができる」だったそうです。


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この「桜隊」を映画で描くにあたり、大林監督、昨夏には病をおして広島平和公園を訪れ、原爆慰霊碑に手を合わせられたとのこと。

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くわしくは、NHKさんのサイトに載っています。

「桜隊」のリーダーだった丸山定夫は、それ以外に、ラジオ放送での翼賛詩の朗読にもかなり出演していました。光太郎の作品も複数、丸山の朗読でオンエアされています。

国会図書館さんのデジタルデータでは、「最低にして最高の道」が聴けます。詩が作られたのは昭和15年(1940)ですが、ラジオ放送は昭和17年(1942)4月が初回放送で、その後、繰り返し流されました。おそらく初回放送を録音してレコードにし、使い廻したのだと思われます。

また、こうした戦時中の放送等に関する研究成果である、坪井秀人氏著『声の祝祭 日本近代詩と戦争』(平成9年=1997 名古屋大学出版会)の付録CDには、やはり丸山の朗読による「必死の時」が収録されています。こちらもラジオ放送のためのもので、詩の制作、放送とも昭和17年(1942)でした。

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「桜隊」の追悼法要が、毎年8月6日、目黒の五百羅漢寺さんで開催されています。大林監督、やはり昨年、そちらにも参列なさったそうです。

五百羅漢寺さんといえば、当方、平成29年(2017)に開催された「第2回らかん仏教文化講座 近代彫刻としての仏像」(講師:小平市平櫛田中彫刻美術館学芸員・藤井明氏)を拝聴するために伺いました。レポートはこちら。現地に行くまで「桜隊」ゆかりのお寺さんだと存じませんで、講堂的な建物の展示スペースに「桜隊」に関する資料も並んでいるのを観て、驚きました。

映画「海辺の映画館―キネマの玉手箱」では、丸山の役を窪塚俊介さんが演じられます。公式サイトのキャスト欄には、その窪塚さんと並んで、当会会友・渡辺えりさん。丸山と絡む役どころなのでしょうか。


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そういえば、えりさんのお父様は、戦時中、中島飛行機(現・SUBARU)の武蔵野工場で働いていらして、丸山も朗読した光太郎の「必死の時」をそらんじることで、空襲の恐怖におびえる気持をまぎらわせたそうです。上記予告編動画のトップに「“平和への思い”に賛同し豪華キャストが集結!」とありますが、おそらくそんな関係でえりさんもご出演の運びとなったような気がします。そのうちに訊いてみます。

ところで「海辺の映画館―キネマの玉手箱」、新型コロナの影響で、4月10日(金)予定の封切りがまだ為されていません。いつも書いていますが、この騒ぎが早く収束することを祈ります。

何はともあれ、大林監督のご冥福、謹んでお祈り申し上げます。


【折々のことば・光太郎】

マルセル・マルチネ、ロマン・ロラン、又ピエル・ルヴエルヂなど。

アンケート「この人この本」より 昭和6年(1931) 光太郎49歳

アンケートの設問は「会つてみたい人」。「ピエル・ルヴエルヂ」は、現代では「ピエール・ルヴェルディ」と表記します。三人とも、フランスの人道派的な文学者です。

そうした人物たちに会ってみたいと書いていた光太郎が、10年後には「必死の時」……。つくづく時代の流れとは恐ろしいものです。