福島県の地方紙、『福島民友』さんの連載「福島湯けむり探訪」に、「智恵子抄」の語が。 2月16日(日)の掲載でした。
ふくしま湯けむり探訪【二本松市・岳温泉】 山を遊び尽くす拠点 新風を吹き込む温泉宿
花びらが舞い降りる露天あり、寒気と湯気がなじむ雪見風呂あり―。気候風土が大きく異なる福島県は豊かな自然に恵まれ、湧き出る湯にさまざまな趣を与えてきた。泉質数は国内有数を誇り、愛され続ける名湯、秘湯もまた多い。「湯けむり」の向こうに隠れたドラマを探して、記者たちが湯の里を訪ねる。その魅力にどっぷりつかってみたい。
智恵子抄や万葉集にも詠まれ、登山客など多くの人たちから親しまれる安達太良山。その山懐に抱かれるように、古き良きたたずまいの旅館や物産店が立ち並ぶ岳温泉(二本松市)が広がる。旅館のほとんどが温泉街を貫くメインストリート「ヒマラヤ大通り」に沿うように立っている。その通りのほぼ中央に昨年夏、新風を吹き込む温泉宿「mt.inn(マウントイン)」が本格オープンした。
経営するのは鈴木安太郎さん(40)。温泉街の経営者の中で最も若く、目指すところも既成の枠にとらわれない。「コンセプトは『集え、遊び人』。世界の遊びを愛する人たちの集いの場にしたい。安達太良山を遊び尽くしたいと思う人は本当に大歓迎だ」と気負いなく話す。
鈴木さんは「安達太良山麓はアクティビティー(遊び)でいっぱいだ」と強調する。確かに登山にスキー、沢登り、そして山野を走るトレイルランなど自然を生かしたアウトドアスポーツ、目の前に広がる美しい景観を心ゆくまで楽しめる仲間たちとのツーリングなど数えだしたら切りがない。
掛け流し...手頃に
遊びで疲れた体を癒やすにはもちろん温泉だ。泉質は酸性泉。湯元から約8キロの距離を引き湯する。温泉街まで流れてくる40分の間に湯がもまれて、肌に優しくなるという。
温泉を気軽に利用してもらおうと、日帰り入浴の開始時間を今年から早めた。料金も良心的な金額を維持している。「源泉掛け流しは大きな強み。温泉は疲れた体を癒やす。何をやろうにも温泉の恩恵を忘れてはいけない」と鈴木さんは話す。
マウントインでは、フロントを通して登山やネイチャーガイドを手配できる。「集いの場は多くの人が行き交うハブであり、楽しい空間が広がる安達太良山へのゲート、スタートラインにしたい」と鈴木さん。アクティビティー前の入念な準備に気兼ねなく時間を費やせるようにと、スタッフも朝早くから気遣う。施設内には500車種、200コースが楽しめるドライブシミュレーターを備えたり、自炊キッチンが完備されていたりと、多様な楽しみ方ができる。
歴史をひもとけば、岳温泉は幾多の苦難に見舞われ、その度に立ち直ってきた。鈴木さんは強さの源にフロンティア精神を感じるという。「山崩れ、大火といった災難にめげず、復興、そして新しい道を開拓してきた」と先人たちの踏ん張りをたたえた。
車社会の現代、日帰りの登山客、スキー客が目立つ。「温泉の宿泊客とほぼ同数の登山客が温泉街を通り過ぎる。そういった人たちをどう取り込むか。宿泊を含め温泉街の滞在時間を増やせれば、にぎわいにつながる。岳温泉の魅力を築き、発信していけるような役割を担いたい」。鈴木さんにもフロンティア精神はしっかりと受け継がれている。
【メモ】mt.inn(マウントイン)=二本松市岳温泉1の7。日帰り入浴は中学生以上600円、小学生300円、未就学児無料。
≫≫≫ ほっとひと息・湯のまちの愉しみ方 ≪≪≪
【「五輪新種目」体験できる】岳温泉街から車で5分ほどの所にあるスカイピアあだたらアクティブパークはスケートボード、スポーツクライミング、スラックラインと、若者に大人気のアクティビティーがそろう屋内複合施設だ。2020東京オリンピックから正式種目となったスポーツクライミングのボルダリング、リード、スピードの3種目が体験できる屋内施設は全国でも珍しい。時間は平日午後1時~同9時、土、日曜日、祝日は午前11時~午後7時。水曜日定休。
マウントインさん、当方、昨年5月、安達太良山の山開きに際し、泊めていただきました。前身のせせらぎ荘時代にも一度。リーズナブルな料金の割には、館内施設等整っていました。あまりにリーズナブルだと、廊下を歩く他の宿泊客の足音や、隣室のテレビの音などが筒抜けで、早く眠りたい場合にはスマホの音楽プレーヤーをヘッドホンで聴きながらでないと無理、というケースがあるのですが、ここではそういうこともありませんでした。
また、素泊まりも可というのがありがたいと思います。宿で美味しい料理を供して下さるのもありがたいのですが、多少、好き嫌いのある当方としては、館外の食堂等で好きなものを食べたいと思うこともしばしばですし、地元の方々と夕食を共にするというようなケースも多いので。
それから、記事にもある館内の温泉も、確かにいい感じです。確か、宿泊客は24時間入湯可だったような。なぜか旅先ではさっさと床につくのが当方の流儀でして、すると、夜中に目が覚めます。そして24時間入湯可であれば、ほぼ誰もいない温泉を独占し、その後、また朝まで二度寝、というパターンです。
ぜひ、岳温泉さんをご利用の場合は、ごひいきに。
【折々のことば・光太郎】
玉鋼を本当に鍛へて作つた小刀を、鳴瀧の上もので心ゆくばかりに研いで、檜をざくざく彫つてゆく気持はたとへやうもない。さういふ時、心を潜めて彫つた彫刻の味などは、到底観る者にわかる筈はない。それは永久に分らないままでいいのである。作品は誰にでも分るところまでの姿で世に通用して、しかも奥の知れないままでよろしい。無理はいらない。
作家に対しては、「無理に分からせようとすべからず」、鑑賞者に対しては「無理に分かろうとすべからず」というところでしょうか。
たしかに造型作品に対し、作者の心情や意図など、全体としてのアウトラインはある程度想像もつきますが、細かな部分まで、制作時に何を考えていたのか、そこである技法をつかった理由など、すべて解明するのは不可能です。
文筆作品に対しても同じことが言えると思います。しかし、それを無理くり「こうだった」と解釈するのが「文学」の「研究」で、そういうことを書くのが「論文」だと、そういう風潮がありますね。当方もそういう畑の出身ですが、そうした風潮にとまどいや限界や反発を感じます。「作品は誰にでも分るところまでの姿で世に通用して、しかも奥の知れないままでよろしい」のです。