2020年となってしまいましたが、暮れの内に光太郎らがメディアで紹介された件をご紹介しておきます。


まず、『朝日新聞』さん。12月28日(土)の書評欄。同紙で書評をご担当の方々が、「今年の3点」をそれぞれ挙げられている中に、中村稔氏ご執筆の『高村光太郎の戦後』を選ばれた方が。

心を揺さぶる本とともに 書評委員が選ぶ「今年の3点」 石川健治(東京大学教授)

①人外(にんがい、松浦寿輝著、講談社・2530円)001
②主権論史 ローマ法再発見から近代日本へ(嘉戸一将著、岩波書店・9900円)
③高村光太郎の戦後(中村稔著、青土社・2860円)
 人外という「被造物の尊厳」との対比で「人間の尊厳」を考えさせるのは①。人格の始期と終期、人格的同一性と「記憶」、人格内部での相剋、人格の「承認」と社会関係、疎外された類的存在=他者としての「神」など根本問題を巡る。
 天皇代替わりの年に、日本的な「国民主権と天皇制」の存立機制に迫ったのが②。明治憲法と皇室典範の双方を起草した、法制官僚・井上毅の章は必読。
 ③は、己を虚しくして宇宙の大生命を体現しようとした以上責任のとりようがない表現人が、「戦後の」一市民の立場でこれを再読することで「戦後責任」をとろうとした事例を探求。射程は当然、自主表現人(筧克彦)であった現人神(あらひとがみ)天皇と、戦後の象徴天皇の関係にも及んでいよう。

石川氏、7月の同紙には「自らの「愚」究明する表現人の責任」と題した同書の長い書評を寄せられていました。


続いて、NHK Eテレさんで放映の「日曜美術館」とセットの「アートシーン」。12月22日(日)の放映で、光太郎実弟にして鋳金分野の人間国宝だった髙村豊周が取り上げられています(昨年の記事「回顧2019年(10~12月)。」でもちらっとご紹介しましたが)。

東京都庭園美術館さんで、10月から開催されている「アジアのイメージ―日本美術の「東洋憧憬」」展の紹介の中ででした。同展は、日本の近現代の造形作家たちがインスパイアを受けた、「アジア」の伝統的な作品と並べるという、面白い展示が為されています。

まず、古代中国の青銅器。

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豊周の師・香取秀真の作。

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そして豊周。

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かなり磊落な性格だったという豊周ですが、その作は緻密です。

工芸だけでなく、絵画も。光太郎の留学仲間だった安井曾太郎。花瓶がやはり古代中国のものです。

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同展ポスターやフライヤーに使われた、杉山寧の仏画(素描)。

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同館館長の樋田豊次郎氏のコメント。

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同展、1月13日(月・祝)までの開催です。レポートはこちら。ぜひ足をお運びください。


【折々のことば・光太郎】

質樸な字面のみから考へればこれは不思議のやうであるが、結局詩は内にあるものだけは、どんな形のもとにも必ず人の心へその響を伝へるものであるといふ事を示してゐるのである。

散文「矢野克子詩集『いしづゑ』序」より 昭和18年(1943) 光太郎61歳

「内にあるものだけは、どんな形のもとにも必ず人の心へその響を伝へるものである」。文学作品だけでなく、造型やら音楽やら、あらゆる芸術に当てはまることではないでしょうか。