智恵子主人公の演劇公演情報を2件。

日程順に、まずは栃木から。

百景社ツアー2026『売り言葉』宇都宮公演

期 日 : 2026年4月18日(土)・4月19日(日)
会 場 : アトリエほんまる 宇都宮市本丸町1-39
時 間 : 4月18日(土)14:00 / 19:00  4月19日(日)14:00
料 金 : 一般:3,000円 U22(22歳以下):1,500円

彫刻家であり詩人でもあった高村光太郎が、妻・智恵子のことを綴った『智恵子抄』。純愛詩集として知られたこの作品を題材として、野田秀樹が"智恵子"側の目線から描いたのが「売り言葉」です。昨年百景社アトリエにて、一人芝居として書かれたこの戯曲を女優3人で上演、好評を博しました。今年は本作でツアー公演を行います。百景社初の宇都宮公演、そして5年ぶりのツアー公演!

【作】野田秀樹  【潤色・演出】志賀亮史
【出演】山本晃子、鬼頭愛(以上、百景社)、久保庭尚子
000
「売り言葉」は野田秀樹氏の脚本。平成14年(2002)に大竹しのぶさんによる一人芝居として南青山スパイラルホールさんで初演されました。翌年、野田氏の『二十一世紀最初の戯曲集』(新潮社)に収められ、その後、プロアマ問わず多くの劇団さんや個人の方による公演が毎年のように全国で行われています。今回の百景社さんも、昨年、茨城の土浦で公演なさっています

数ある光太郎智恵子系の演劇の中で、最もシニカルな見方で描かれたもので、光太郎との生活の中で徐々に毀れていく智恵子が表現されていますが、浅い見方しかできない人は光太郎のモラハラ的な部分のみしか目につかず「これで光太郎が嫌いになった」……。

たしかに光太郎は「芸術家たる者、かくあるべし」という部分を自らにストイックなまでに課し、実践しようとしました。しかし、それと同じことを智恵子に強制したかというと、そこは何とも言えません。もはや当事者にしか分からないことでしょうし、当事者二人それぞれでも受け止め方は微妙に異なるでしょうし。

当方としては、光太郎は智恵子に対し「芸術家たる者、かくあるべし」という理想の姿を智恵子に「望み」はしたものの「強制」まではしていなかったのではないかと思っています。光太郎は智恵子の油絵の才能を、そこまで高く評価していませんでした。となると、要求するハードルの高さもそれほどではなかったような気がします。

却って智恵子の方が「芸術家たる者、かくあるべし」という幻想に取り憑かれ、自らハードルの高さを高く設定し、自分で自分を追い詰めていたのではないかと……。もちろん「芸術家たる者、かくあるべし」と追求する姿勢は光太郎に感化されてのものではあったでしょうが。

しかしなかなかそれが思うようにうまくいかない→故郷の造り酒屋に帰って安達太良山の山の上に毎日広がる「ほんとの空」を見て活力を取り戻す→しかし東京に戻るとやはりだめ、の繰り返しでした。それを光太郎も容認していたわけで、つい先日も引用しましたが、「私と同棲してからも一年に三四箇月は郷里の家に帰つてゐた。田舎の空気を吸つて来なければ身体(からだ)が保(も)たないのであつた」(「智恵子の半生」 昭和15年=1940)。光太郎としてはかなり智恵子に自由にさせていたわけです。

ところが、智恵子が追い詰められているという時に光太郎がどれだけ適切なケアをできたのかというと、結果的にはそれが不十分だったわけで、そうして智恵子は毀れてしまったと言えるでしょう。光太郎としては「後から考えればそうだった」と百も承知で『智恵子抄』を編んだのだと思われます。だから戦後の詩文集『智恵子抄その後』の「あとがき」に「「智恵子抄」は徹頭徹尾くるしく悲しい詩集であつた。」と書いているのだと考えられます。

そういったことに思いを馳せながら観ていただきたい脚本です。

百景社さん、「ツアー」と銘打ってらっしゃいます。宇都宮公演を皮切りに、全国4箇所で講演を打たれるそうです。今後の予定は以下の通り。

 津公演  2026年5月16日(土)~5月17日(日)【会場】津あけぼの座(三重県津市)
 長崎公演 2026年5月30日(土)~5月31日(日)【会場】アトリエPentA(長崎県長崎市)
 上田公演 2026年6月13日(土)~6月14日(日)【会場】犀の角(長野県上田市)
 
上記のように諸刃の剣的な要素の濃い脚本ですので、「これで光太郎が嫌いになった」という人が増えないことを望みます。

紹介すべき事項が山積しておりまして、もう1件。富山での公演。

劇団「喜び」公演「智恵子抄」

期 日 : 2026年4月19日(日)
会 場 : ウイング・ウイング高岡 富山県高岡市末広町1番8号
時 間 : 昼の部14:00~ 夕の部18:00~
料 金 : 前売 大人 3,000円 中高生 1,500円/当日 大人 3,500円 中高生 1,500円

出 演 : 茶山千恵子 平田久子

高村光太郎「智恵子抄」に心酔して40年になります。演劇を続けながら、いつか「智恵子抄」を演りたいと強く願うようになり、自分なりの脚本を書いたのが12年前です。それから一人芝居で「智恵子抄」を公演し、1年半前には東京公演に挑戦しました。昨年から、智恵子さんの故郷である福島県二本松に何度も出向き、生家を訪れてきました。私にとっても第二の故郷になりました。

今回の公演では、30年ぶりに再開した平田久子さんに、宮崎春子「紙絵の思い出」を朗読して頂きます。春子さんは智恵子さんの姪で、介護をしてくれました。久子さんは春子さんのイメージにピッタリなので楽しみなんですよ。

朗読から一人芝居へと構成しています。皆様、どうぞお楽しみに~
021
001
富山県高岡市ご在住の茶山千恵子氏。連翹忌の集いにもご参加下さり、地元で光太郎智恵子に関する市民講座講師を務められたり、ご自宅を開放なさって花巻のやつかの森LLCさん考案のレシピを元に調理された「光太郎ランチ」を予約の方に振る舞われたりと、精力的に活動されています。

「智恵子抄」は、令和元年(2019)に富山で、そして一昨年には荻窪小劇場さんで上演されました。こちらは「売り言葉」とは異なり、智恵子へのリスペクト溢れる演出です。

画家の平田久子氏が友情出演的な感じで、智恵子の姪で当時の一等看護婦の資格を持ち、南品川ゼームス坂病院で智恵子の最期を看取った宮崎春子の回想「紙絵のおもいで」を朗読なさるそうです。

それぞれご興味おありの方、ぜひどうぞ。

【高村光太郎書誌】

本人著作(部分)17 『続仏蘭西詩集』 

昭和18年(1943)1月20日 青磁社 菱山修三編
PXL_20260404_023502584
PXL_20260404_023426290 PXL_20260404_023517361 PXL_20260404_023543922
目次
 山内義雄 共和国戦死者に捧ぐる歌 ポオル・クロオデル
 菱山修三 未知なるものへの祈り ジュウル・シュペルヴイエル
 淀野隆三 ものみな黄昏初める時 レオン-ポオル・フアルグ
 堀口大学 A・O・パルナブウトの詩篇より ヴアルリイ・ラルボオ
 井上究一郎 火 フランシス・ジヤム
 堀辰雄 生けるものと死せるものと ノワイユ侯爵夫人
 青柳瑞穂 マルドロオルの歌 ロオトレアモン
 花島克巳 節度 ポオル・ヴエルレエヌ
 鈴木信太郎 綺語詩篇 ステフアヌ・マラルメ
 高村光太郎 午後の時 エミイル・ヹルハアラン
 あとがき

昭和16年(1941)に同じ青磁社から出た『仏蘭西詩集』の続編という位置づけです。光太郎訳はベルギーの詩人、エミール・ヴェルハーレンの「午後の時」。ヴェルハーレンが妻のマルト・マッサンとの日々を謳った「智恵子抄」にも通じる内容です。

正続ともに戦後にかけ、複数の版が存在します。