戦後最も早く、さらにまとまった一冊のものとして我が国で初めて光太郎を論じた故・吉本隆明氏関連の新刊を2冊、ご紹介します。

まず評論。

『共同幻想論』に挑む ——家族人類学的考察

発行日 : 2026年3月10日
著者等 : 鹿島茂
版 元 : 筑摩書房
定 価 : 4,600円+税
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国家の起源にある謎とは?吉本隆明の主著にして難解をもって知られる『共同幻想論』に、鹿島茂が〈遡行読み〉という手法、またE・トッドらの家族人類学の最新の知見を武器に挑む!

国家の成り立ちをめぐって書かれた、戦後最大の思想家・吉本隆明の主著にして難解をもって知られる『共同幻想論』に、博覧強記の仏文学者・批評家が〈遡行読み〉そしてE・トッドらの家族人類学の最新の知見を武器に挑む! ロジックを追うスリルと興奮溢れる、知的刺激に満ちた1500枚に及ぶ圧倒的論考、ここに誕生!!

目次
 Ⅰ 『共同幻想論』はなぜ書かれたか
  1 『共同幻想論』の「わからなさ」――「出所不明の異形の意志」 
  2 日本的「転向」は「家」の問題
  3 高村光太郎と了解可能性/不可能性
  4 日本的「家」の問題――情感/権威のマトリックス
  5 『マチウ書試論』――「家」の問題と対幻想
  6 大衆の原像と国家の共同幻想
  7 「面従腹背」知識人と国家の思想
  8 天皇のために死ねるか?
  9 不問に付された〈天皇(制)〉 
  10 『古事記』の宣長的解釈から、『共同幻想論』へ
 Ⅱ 『共同幻想論』を遡行的に読む
  11 序をどう読むか? 往路の省略
  12  『共同幻想論』を最終章「起源論」から読む
  13 「罪責論」へ遡行、スサノオの解釈
  14 「罪責論」を母系制(サザエさん型家族)から分析する
  15 ヤマトタケル挿話の家族人類学的分析
  16 「母制論」と二つの対幻想
  17 カップルの対幻想と兄弟姉妹の対幻想
  18 対幻想と共同幻想の同致の問題
  19 遠隔対象性と近親婚の禁止
  20 兄弟姉妹の対幻想の空間性の問題――カラアゲ屋「サザエさん」
  21 宗教法人「サザエさん」――吉本は間違っていても凄い
 Ⅲ 家族人類学が明らかにしたこと
  22 進化主義人類学からアメリカ人類学へ――居住規則の浮上
  23 アメリカ人類学の居住規則を再浮上させたエマニュエル・トッドの家族四分類
  24 トッド家族人類学の大転換
  25 居住規則による分類を世界地図にマッピングすると「周縁の保守性原則」が浮上する
  26 父方居住システムの変化
  27 父方居住の起源
  28 父方居住直系家族の誕生
  29 長子相続から直系家族へ
 Ⅳ 蝶番としての「祭儀論」
  30 家族人類学と『共同幻想論』の接続
  31 縄文サイクルと弥生サイクルはいかに交錯したか?
  32 「祭儀論」を家族人類学的に読む
  33 吉本的立場と家族人類学的立場
  34 農耕祭儀の家族人類学的再検討
  35 世襲大嘗祭の家族人類学的分析
  36 「他界論」の死の問題と時間性/空間性
  37 「他界」を空間性と時間性に分割する
 Ⅴ 「巫覡論」「巫女論」「憑人論」「禁制論」が持つ意味
  38 「巫覡論」で「当て馬」として使われた芥川の『歯車』
  39 『共同幻想論』前半のハイライト「いづな使い」
  40 「巫女論」①巫女とは共同幻想を性的対象とする女性である
  41 「巫女論」②シャーマンとは自己幻想を共同幻想に同致できる特殊能力者だ
  42 「憑人論」①自己幻想と共同幻想が逆立しない遠野村という位相
  43 「憑人論」②「遠野物語」の民譚には対幻想という媒介項がない
  44 「禁制論」①フロイト批判から禁制という共同幻想へ
  45 「禁制論」②「遠野物語」の山人譚と既視体験の比較分析
  46 「禁制論」③山人譚の恐怖の共同性の分析
 Ⅵ 『共同幻想論』を順行で読みなおす
  47 順行読み①「禁制論」
  48 順行読み②「憑人論」
  49 順行読み③「巫覡論」と「巫女論」
  50 順行読み④「他界論」
  51 順行読み⑤「祭儀論」①
  52 順行読み⑥「祭儀論」②
  53 順行読み⑦「母制論」①
  54 順行読み⑧「母制論」②
  55 順行読み⑨「対幻想論」①
  56 順行読み⑩「対幻想論」②
  57 順行読み⑪「対幻想論」③+「罪責論」①
  58 順行読み⑫「罪責論」②
  59 順行読み⑬「規範論」①
  60 順行読み⑭「規範論」②
  61 順行読み⑮「起源論」①
  62 順行読み⑯「起源論」②
  63 順行読み⑰「起源論」③
 Ⅶ 『共同幻想論』から見えてくる吉本隆明
  64 番外的考察①
  65 番外的考察②
  66 総括①
  67 総括②
  68 総括③
 あとがき
 人名索引

仏文学者・鹿島茂氏による吉本論です。タイトルの通り、吉本の代表作の一つである『共同幻想論』(昭和43年=1968)を俎上に乗せ、細かな読みを展開。

『共同幻想論』は「禁制論」「憑人論」「巫覡論」「巫女論」「他界論」「祭儀論」「母制論」「対幻想論」「罪責論」「規範論」「起源論」から成り、ざっくり言えば歴史学、民俗学的見地からの考察も盛り込みつつ、この国の成立過程、その後の変遷を論じたものです。

『共同幻想論』に先行して昭和32年(1957)には『高村光太郎』が出版され、そこでの試みが『共同幻想論』にも繋がっていきます。特に15年戦争時に光太郎の直面したこの国のありように対する思い、それ以前からの西欧との齟齬や乖離、さりとてなじめない日本の伝統的家父長制といった問題に対する観点から。そこで本書では「Ⅰ 『共同幻想論』はなぜ書かれたか」中に「3 高村光太郎と了解可能性/不可能性」という項が設けられていますし、他の項でも光太郎の名が散見されます。

『共同幻想論』、高く評価する論者がいる一方、全く価値を認めないとする向きもあり、いまだにその評価は定まっていないという感じです。そこに一石を投じる好著と思われます。

もう一冊。こちらは昨日でしたか、新聞広告で知ったもので、未入手ですが。

吉本隆明全集月報集

発行日 : 2026年3月
著者等 : 晶文社編集部 編
版 元 : 晶文社
定 価 : 2,500円+税

吉本隆明からうけとり 吉本隆明からはじめる 総勢62名が語る、私の吉本隆明
 人と社会の核心にある問題へ向けて、深く垂鉛をおろして考え続けた思想家・詩人の吉本隆明。約11年もの歳月をかけて完結した『吉本隆明全集』の月報には、第一級の執筆陣が吉本隆明の作品や人柄をプライベートなまなざしで綴ったエッセイを寄稿している。破天荒な魅力を湛えた吉本隆明の意外な素顔を活写する全集月報62編。
 晶文社版『吉本隆明全集』の月報を集約し、略年譜(生活史)付す。
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目次
 産み落とされた日 高橋源一郎
 うつむき加減で、言葉少なの 加藤典洋
 吉本隆明、一本の樹の出発 小林康夫
 吉本と光太郎 北川太一
 『言葉からの触手』に触れながら考えたこと 岡井隆
 違和感からの出発 鹿島茂
 永久に消えない疑問 芹沢俊介
 「東京原人」吉本隆明 磯崎新
 吉本隆明さん随感 中村稔
 吉本さんの三冊の本 石川九楊
 吉本さんと「母性的」なるもの 蓮實重彦
 沈黙の言語 吉増剛造
 「転向」について 芦田宏直
 ある世代の思い出 山根貞男
 文芸評論家から文人へ――書簡集刊行に寄せて 田中和生
 波の下の思想を 宇佐美斉
 気配りのひとの気骨 橋爪大三郎
 『初期歌謡論』 藤井貞和
 吉本隆明の詩・神話・等価 水無田気流
 吉本さんとの出会い 佐々木幹郎
 引き継ぐ課題 三砂ちづる
 詩の時代 荒川洋治
 思考の楽しさ 長谷川宏
 最後の場所 思想詩人吉本隆明 北川透
 新しい世代が受け継ぐべきもの 竹田青嗣
 「吉本隆明」に憧れる 山本かずこ
 「母型」を求め続けた人 安藤礼二
 父の内なる言語 小池昌代
 「軒遊び」と「生命呼吸」のこと 島亨
 「和讃」について 中島岳志
 書く習慣 岩坂恵子
 知識人嫌いの知識人 川本三郎
 ご近所の吉本さん 石森洋
 吉本隆明と言論の不在 先崎彰容
 “終りをまっとうする”批評家 川村湊
 マクロネシアの渚へ 金子遊
 吉本隆明と連合赤軍事件 笠井潔
 石と舟の幻影 今福龍太
 三〇年越しの答え 三上治
 はじめての対談 赤坂憲雄
 吉本隆明さんについて 山崎哲
 がめつい私的所有 菅原則生
 出会いと別れ 末次弘
 吉本隆明が描いた小林秀雄 前田英樹
 単独者の貌 辺見庸
 最後の贈り物 道浦母都子
 「わからなさ」と「しなやかさ」 阿木津英
 二一世紀の大衆 綿野恵太
 吉本隆明との出会い マニュエル・ヤン
 「転向」の自画像 小田原のどか
 一橋新聞編集の青春と吉本さん 大塚融
 ポピュリストへ――吉本隆明について 小峰ひずみ
 託されたバトン 宇田川悟
 吉本隆明からの示唆 夏石番矢
 知の特権性を解体し、傷を修復する 友常勉
 『隆明だもの』の読後に 上村武男
 ひとつの街がありそこで住んでいた 清岡智比古
 越えられない存在 末次エリザベート
 吉本隆明さんのこと 島尾伸三
 思い出の一断片 松崎之貞
 「位相」の出自 大塚英志
 来訪神 ハルノ宵子
 ハルノ宵子への良い質問・悪い質問
 吉本隆明略年譜
 全集収録作品一覧
 執筆者別目次

平成26年(2014)に配本が始まり、昨年完結した『吉本隆明全集』全38巻に附された附録の月報を一冊にまとめたものです。吉本を論じるスタイルもあれば、気のおけないエッセイ的なものもあり、バリエーションに富んでいると思われます。

平成26年(2014)刊行の第5巻の月報に載った、吉本の盟友にして当会顧問であらせられた北川太一先生の「吉本と光太郎」ももちろん掲載されていますし、先述の鹿島茂氏の玉稿も。それからこのブログでお馴染みのお名前も散見されます。石川九楊氏、中村稔氏、高橋源一郎氏などなど。

それぞれぜひお買い求め下さい。

【高村光太郎書誌】

本人著作(全体) 『THE CHIEKO POEMS』

平成19年(2007)6月 Green Integer Books 高村光太郎著 John G.Peters訳
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目次
 Acknowledgments
 A Note on the Text and Translation
 Introduction
 Works Consulted
 人に To someone
 或る夜のこころ Heart of a Night
 涙 Tears
 おそれ Fear
 からくりうた Trickery Song
 或る宵 One Evening
 梟の族 Family of Owls
 郊外の人に To Someone in the Suburbs
 冬の朝の目ざめ A Winter Morning Awakens
 冬が来る Winter Comes
 深夜の雪 Deep Night Snow
 人に(遊びぢやない) To someone(Not to Play)
 人類の泉 Fountain of Humanity
 僕等 Two of Us
 愛の嘆美 In Adoration of Love
 晩餐 Supper
 淫心 Sexual Passion
 樹下の二人 Two beneath the Trees
 狂奔する牛 Cattle Running Wild
 金 Gold
 鯰 Catfish
 夜の二人 Two of the Night
 あなたはだんだんきれいになる You Grow More Lovely
 あどけない話 Innocent Talk
 同棲同類 Same Life Same Kind
 美の監禁に手渡す者 One Who Imprisons Beauty
 人生遠視 Life Perspective
 風にのる智恵子 Chieko Riding theWind
 千鳥と遊ぶ智恵子 Chieko Playing among the Plovers
 値ひがたき智恵子 Invaluable Chieko
 山麓の二人 Two of the Foothills
 或る日の記 Record of One Day
 レモン哀歌 Lemon Dirge
 荒涼たる帰宅 Bleak Homecoming
 亡き人に To One Who Died
 梅酒 Plum Wine
 松庵寺 Shōan Temple
 デカダン Decadence
 美に生きる Living in Beauty
 おそろしい空虚 Frightening Emptiness
 報告(智恵子に) Report(to Chieko)
 噴霧的な夢 Misty Dream
 もしも智恵子が If Chieko
 元素智恵子 Elemental Chieko
 メトロポオル Metropolis
 裸形 Naked Figure
 案内 Guide
 あの頃 Those Times
 吹雪の夜の独白 Night Blizzard Soliloquy
 智恵子と遊ぶ Playing with Chieko
 報告 Report
 うた六首 SixSongs

文庫サイズの『智恵子抄』英訳です。戦後の詩篇を含みます。日本語と英訳とが見開きで印刷されているので、便利です。現在でも紀伊國屋書店さん等で入手可能です。