札幌の本郷新記念札幌彫刻美術館さんで開催中の「本郷新生誕120年記念 コレクション展 マンガでわかる本郷新」がらみで、そのマンガそのものがネットで入手できるようになったため、早速購入しました。

タイトルは『本郷新伝』。同館が企画、監修し、札幌のエアーダイブさんが制作・刊行。A5版120ページほどです。作画はエアーダイブさんに所属されているんだか、契約なさっているんだかの方々なのでしょう、鴨修平氏と桜井さよる氏。
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3話構成で、「1話:創り出す手」「2話:差し伸べる手」「3話:繋ぎあう手」となっています。主人公というか、狂言廻しというかが、「1話」と「3話」が札幌在住で高校の美術部に所属する女子生徒(「3話」では美大に進学したという設定)。さらに「2話」では広島での被爆者の孫にあたる中年男性。それぞれに本郷の彫刻、そこに込められた思いなどに触れ、新たな目を開かされるというストーリーです。

途中途中に本郷の評伝的な部分がちりばめられ、「1話」中には光太郎も。ロダンにも触れられています。
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本郷は東京高等工芸学校の出身。本郷新記念札幌彫刻美術館さんの公式サイトによれば関東大震災の翌年、大正13年(1924)に入学しています。「フリー百科事典 ウィキペディア」の本郷の項では、「東京美術学校志望だったが親に反対され、産業との関係が深い東京高等工芸学校彫刻部(現千葉大学工学部)に1925年に入学。作品が完成するたびに高村光太郎のもとを訪れ批評を受けた。ただしこの頃の高村はすでに彫刻を離れ、詩作に専念していた時期であった。間違いだらけです。まず、工芸学校入学の年が違っています。本郷新記念札幌彫刻美術館さんの公式サイトの方が間違っているということはありえないでしょう。さらに頓珍漢なのは「ただしこの頃の高村はすでに彫刻を離れ、詩作に専念していた時期であった」。まったく逆で、大正13、14年(1924、25)は一時期離れていた木彫を再開し、「蝉」「柘榴」「鯰」「魴鮄」「鷽(うそ)」などを作り、好評を博していた時期です。あらためて「ウィキペディア」をそのまま信用するのは危険だなと思いました。

ちなみに東京高等工芸学校といえば、かの「アンパンマン」の作者・やなせたかし氏の母校でもあります。やなせ氏の在学期間は昭和12年(1937)~同15年(1940)。昨年の朝ドラ「あんぱん」でも同校の場面がかなり描かれていましたね。
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また、本郷新記念札幌彫刻美術館さんの公式サイトでは「1928年(昭和3年)22歳 卒業後、国画創作協会第7回展に《少女の首》初入選。この頃より高村光太郎に師事」。『本郷新伝』では「高等工芸学校の卒業前後に高村光太郎の自宅を訪ね彫刻を見てもらうようになる」。「卒業前後」の幅がどの位の期間なのか、光太郎の書き残したものの中には記述がありません。『高村光太郎全集』には本郷の名は最晩年の昭和30年(1955)と翌年の日記に数回出て来るだけでして。その中では、光太郎が作りたいと思っていたものの、健康状態がもはやそれを許さず断念した藤島武二の胸像を代わりに本郷に作ってもらうよう頼んだとあります。
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おそらくこちらでしょう。画像は「ken's銅像探索日誌」というサイトからお借りしました。

ただ、本郷新記念札幌彫刻美術館さんには、光太郎から本郷宛の書簡が残されているということで、『高村光太郎全集』やその補遺である当方編の「光太郎遺珠」には掲載されていないものです。そちらを拝見できれば本郷と光太郎の交流の様子がもう少し明らかにできると思っております。

漫画以外の部分も充実しています。間に挟まれているコラム的なページ、それから巻末には資料編的なページも。項目名を列挙すると「わだつみの声」「本郷新と関係の深い人物・団体」「彫刻の美」「なぜ、服を着ていないの?」「嵐の中の母子像」「泉の像」「彫刻鑑賞のポイント」「ブロンズ像の作り方」「北海道内の公共空間にある彫刻」「北海道内の公共空間にある彫刻」。

本郷作品、当会事務所兼自宅のある千葉県香取市と利根川を挟んだ隣町になる茨城県神栖市の市立図書館さんに設置されています。「北海道内の公共空間にある彫刻」の項でちゃんと紹介されていました。
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3、4日前に撮影して参りました。
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さて、『本郷新伝』、ぜひお買い求め下さい。

【高村光太郎書誌】

本人著作(全体)66 『芸術論集 緑色の太陽』

昭和57年(1982)6月16日 岩波書店(岩波文庫) 高村光太郎著
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目次
 Ⅰ 自伝 父との関係
 Ⅱ 人の首 木彫ウソを作った時 蝉の美と造型
 Ⅲ 緑色の太陽 彫刻鑑賞の第一歩 彫刻十個条 触覚の世界 生命の創造
 Ⅳ ミケランジェロ・ブオナローティ ロダンに就いて二、三の事 荻原守衛
 Ⅴ 手 信親と鳴滝 美の日本的源泉
 Ⅵ 書について 書の深淵 黄山谷について 書についての漫談
 Ⅶ 詩についてⅠ
    余はかく詩を観ず 詩そのもの 詩について 小感 気について 詩の深さ
    詩と表現 私の詩の理法
   詩についてⅡ 生きた言葉 自分と詩との関係 詩について語らず 日本詩歌の特質
 解説 北川太一

当会顧問であらせられた故・北川太一先生が編まれ、解説されたものです。光太郎生前には『緑色の太陽』という書籍は存在しませんでした。岩波書店さんのサイトでは「品切れ」。重版が待たれます。