久々に新刊紹介です。

マンガで読む 偉人たちの恋文物語 日本編

発行日 : 2025年10月9日
著者等 : 企画編集 岡部文都子
      漫画 阿部川キネコ/滝沢のぼる/宙花こより/栗山ナツキ/ふくやまけいこ
       志茂/さいとう邦子/OH太/小石川カナリ/柚庭千景
版 元 : Gakken
定 価 : 1,200円+税

歴史に名だたる偉人たちの残した恋文をのぞいてみたら、偉人らしからぬヤバさが全開だった!?恋文という究極のプライベートから見えてくる、偉人の生の姿を漫画で紹介。本書は伊達政宗、武田信玄、坂本龍馬、太宰治、中原中也など日本の偉人23人を収録した。記事ページでは実際の手紙と解説を掲載。

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目次
 伊達政宗 → 只野作十郎 若き時は、酒の肴にも腕を裂き……
 芥川龍之介 → 塚本文 僕は文ちゃんが好きです。それだけでよければ……
 太宰治 → 太田静子 一番いい人として、ひっそり命がけで……
 武田信玄 → 春日源助 私が弥七郎を伽のために寝させたことは……
 斎藤茂吉 → 永井ふさ子 ふさ子さんはなぜこんないい……
 石川啄木 → 平山良子 君、わが机の上にほほえみたまふ……
 竹久夢二 → 岸他万喜 無邪気にしてやさしき人形として……
 樋口一葉 → 半井桃水 ただただまことの兄様のような心持ちで……
 北原白秋→ 佐藤菊子 あなたこそ私の、天から定められていた……
 坂本龍馬 → お龍 渡り鳥になってでも必ず……
 柳原白蓮 → 宮崎龍介 どうぞ私を私の魂を……
 中島敦 → 橋本タカ タカはいつも、僕のタカだぞ……
 高村光太郎 → 長沼智恵子 私があなたであなたが私だった夢を……
 中原中也 → 長谷川泰子 貴殿は小生をバカにしている……
 谷崎潤一郎 → 根津松子 どうぞどうぞお気に召しますまで……
 榎本武揚 → 榎本多津 二十四、五日にはめでたくこの地に……
 夏目漱石 → 夏目鏡子 おれのような不人情なものでも……
 陸奥宗光 → 陸奥亮子 用事はなくてもなるべくたびたび……
 小林多喜二 → 田口タキ 闇があるから光がある……
 豊臣秀吉 → 茶々 ご機嫌よく過ごしていると聞き……
 小泉セツ → 小泉八雲 シンセツノパパサマ……
 森鷗外 → 森志げ 今の内案じてくれて……
 与謝野鉄幹 → 与謝野晶子 小生が此度の旅行に遺憾に思ひ候は……
 参考文献


版元がGakkenさんですので、教育書の扱い。公式サイトでは中学生対象と謳っていますが、小学校高学年でも理解可能でしょうし、高校生、大学生、一般人が読んでも面白いと思います。

23組の恋人たち、夫婦の間で交わされた「恋文」一通ずつを軸に、それぞれのカップルの簡略な紹介となっています。それぞれ8ページで、中扉に1ページ、漫画パートで5ページ、解説文が見開き2ページの構成です。

昨今のLGBT問題への配慮でしょう、23組がすべて異性間のものではなく、男性から男性への「恋文」も2通。それもおまけのような扱いでなく、いきなりいの一番が伊達政宗から小姓宛で、Gakkenさん、攻めてるな、という感じです。最近、「新総裁」とやらが選出された某団体(だいたいにおいて「総裁」という呼称も如何なものかと思うのですが(笑))の関係者は不買運動でも起こすのではないかと本気で心配してしまいます。

23章を10人の漫画家さんたちが分担され、「高村光太郎 → 長沼智恵子」の章は栗山ナツキさんという漫画家さんのご担当。各章、どの程度が漫画家さんのオリジナルなのか、原作なりはGakkenさんの方で提示しているのかなどは不明ですが、なかなかのクオリティです。

「恋文」は、婚約前の大正2年(1913)1月28日に智恵子に宛てて書かれた手紙(全文はこちら)で、智恵子はこの時、早世した日本女子大学校時代の友人・旗野八重の妹・澄子を訪ね、その実家、新潟に滞在していました。澄子は後に東京立川の農事試験場長・佐藤信哉と結婚、光太郎智恵子と夫婦ぐるみの交際が続きます。大正14年(1925)の光太郎詩「葱」は、佐藤夫妻から贈られたネギを題材にした詩です。

感心したのは、単にこの「恋文」の紹介に留まらず、光太郎智恵子それぞれの駆け引きまで考察されていること。まず智恵子は、交際に対し煮え切らない光太郎を試す意図もあってか、行き先も告げずに姿をくらましました。光太郎は、智恵子が新潟にいることを突き止め、手紙を送ります。まず自分が見たという(本当かどうかも疑わしいのですが)悪夢の話で智恵子を手紙に引きこみ、その後、智恵子に寄り添う文言で智恵子の意志を大切にしている、的なことを伝える高等技法(笑)。そうしてその年の夏には婚約するわけです。

他に与謝野夫妻や森鷗外、石川啄木、北原白秋、中原中也など、光太郎と縁浅からぬ面々が取り上げられていますし、そうでない人々の章もそうでないだけに知らないことだらけで興味深いものでした。この年になると今さら「恋文」を書く参考に、というわけでもありませんが(笑)。

ぜひお買い求め下さい。

【折々のことば・光太郎】

――私は何も発明しません。私は掘出すのです。其が新しく見えるのは世人が芸術の目的と手段とを一般に見失つてしまつて居たからです。世人は其を革新だと思ひますが、其は遠い昔の偉大な彫刻の法則が復た帰つて来たに過ぎません。


光太郎訳 ロダン「ロダンの言葉 カミーユ モークレール筆録」より
大正5年(1916)頃訳 光太郎34歳頃

ある意味、ロダンの彫刻は19世紀に於けるルネサンスでした。