大阪府から演劇の公演情報です。

吹田市民劇場 SHOW劇場 番外編vol.2 a次元のふたり

期 日 : 2025年2月8日(土)・2月9日(日)
会 場 : 吹田市民劇場 大阪府吹田市泉町2-29-1
時 間 : 2/8 15:00~ 2/9 11:00~/15:00~
料 金 : 全席自由 2,000円

作 : 高橋恵 演出 : 上田一軒 出演 : 佐々木ヤス子/竹内宏樹

芸術家としての葛藤と夫婦の愛の物語
高村光太郎は意のままにならない肺に振り回されていた。長沼智恵子は意のままにならない自らの右手に苛立っていた。ある日智恵子は「太陽が緑色でもかまわない」という評論を目にし、作者に会おうとする。乱れた呼吸に喘ぎながら光太郎はその日アトリエで智恵子と出会う。
006
008
タイトル中の「a次元」は、光太郎詩「智恵子と遊ぶ」(昭和26年=1951)由来。

  智恵子と遊ぶ

 智恵子の所在はa次元。
 a次元こそ絶対現実。

 岩手の山に智恵子と遊ぶ007
 夢幻(ゆめまぼろし)の生の真実。

 フレンチ平原に茸は生えても
 智恵子の遊びに変りはない。

 二合の飯は今日のままごと。
 牛のしつぽに韮を刻む。

 強敵糠蚊(ぬかが)とたたかひながら
 三畝の畑にいのちを託す。

 あばら骨に錐は刺され
 肺気腫噴射のとめどない咳。

 造型は自然の中軸。
 この世存在のシネ クワ ノン。

 一切は智恵子a次元の逍遙遊。
 遊ぶ時人はわづかに卑しくなくなる。

a次元」は、我々の生きて存在する物理次元を超えた精神世界、抽象次元を表す用語です。カルト宗教の信徒のように、その存在を確信していたわけではないのでしょうが、光太郎にとって、感覚的には、亡き智恵子の存在するa次元と、自らの存在する花巻郊外旧太田村の山林の間の垣根は低かったようです。「シネ クワ ノン」はラテン語で「sine qua non」。「不可欠なもの」といった意味です。

肺気腫」云々は、戦前から煩っていた宿痾の肺結核に関わります。ただ、戦前からと言っても、初めて喀血が起こったのは、確認出来ている限り大正12年(1923)のことです。今回の舞台は、明治44年(1911)の光太郎智恵子の出会いから描かれ、その時点で既に「高村光太郎は意のままにならない肺に振り回されていた」ということになっています。このあたりは物語上の演出なのでしょう。

ご興味おありの方、ぜひどうぞ。

【折々のことば・光太郎】

見る人が多かつた由をきき、無意味でもなかつたかと思つてゐます。しかし東京の人にはあの本当の美が分かるとは思ひません。特殊芸術位に考へるだらうと推察します。都会生活をしてゐる者は結局遊びに終始する運命をもつてゐます。小生は彼等をあひてにしません。


昭和26年(1951)6月12日 真壁仁宛書簡より 光太郎69歳

銀座資生堂画廊において開催された、都内で初の智恵子紙絵展がらみです。

真壁は山形在住の詩人。東北人となって久しい光太郎、その意味でのシンパシーを感じていたようです。戦時中に光太郎が疎開させた智恵子紙絵千数百枚のうち、およそ3分の1を預かっていました。翌月発行された『美術手帖』通巻45号に、「切抜絵の美 高村智恵子夫人の遺作について」という一文を寄せています。
001 002