昨日は上京し3件の用件をこなして参りました。

行った順に、
 ・荒川区荒川ふるさと文化館さんで企画展示「鋳造のまち日暮里—銅像の近代—」拝観
 ・上野の東京都美術館さんで「第46回東京書作展」拝観
 ・文京シビックセンターさんで「第67回高村光太郎研究会」に参加
でした。

このうち「第46回東京書作展」が今日までですので、もしかするとこのブログを見て行ってみるか、という方もいらっしゃるかも知れないと思い、時系列を無視してそちらのレポートから。

会場の東京都美術館さんのある上野公園、紅葉に彩られていました。
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この手の書道展はおおむねお世話になっている書家の菊地雪渓氏から招待状を頂いて参上しています。こちらの「東京書作展」は、全国公募のもので、菊地氏、令和元年(2019)の第41回では最高賞である内閣総理大臣賞/東京書作展大賞を受賞なさっています。その後、無鑑査で毎年ご出品。

今年の出品作。
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杜甫の漢詩ですね。あいかわらずお見事です。

そちらを拝見後、他の方々の出品作で、光太郎詩文が書かれた作品を探しました。この手の書道展では宝探し的なそれが大きな楽しみです。

見落としが無ければ3点出ていました。

「特選」入賞作。「手紙に添へて」(昭和13年=1938)。
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002光太郎詩の中ではマイナーな部類のものですが、よくぞ取り上げて下さいました。

  手紙に添へて

 どうして蜜柑は知らぬまに蜜柑なのでせう
 どうして蜜柑の実がひつそりとつつましく
 中にかはいい部屋を揃へているのでせう
 どうして蜜柑は葡萄でなく
 葡萄は蜜柑でないのでせう
 世界は不思議に満ちた精密機械の仕事場
 あなたの足は未見の美を踏まずには歩けません003
 何にも生きる意味の無い時でさへ
 この美はあなたを引きとめるでせう
 たつた一度何かを新しく見てください
 あなたの心に美がのりうつると
 あなたの眼は時間の裏空間の外をも見ます
 どんなに切なく辛(つら)く悲しい日にも
 この美はあなたの味方になります
 仮りの身がしんじつの身に変ります
 チルチルはダイヤモンドを廻します
 あなたの内部のボタンをちよつと押して
 もう一度その蜜柑をよく見て下さい

やはり過去の第40回展(平成30年=2018)で、光太郎詩「冬」(昭和14年=1939)を書かれて東京都知事賞に輝かれた中原麗祥氏。今年は「雪白く積めり」(昭和20年=1945)。
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もう1点、『智恵子抄』から定番の「あどけない話」(昭和3年=1928)を書かれた方も。
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それぞれ、ありがとうございました。

東京都美術館さんで、会期は今日までです。ぜひ足をお運びください。

ところで「今日まで」というと、杉並区の荻窪小劇場さんで、「劇団「喜び」40回記念公演 一人芝居 智恵子抄」も11月21日(木)に開幕し、今日まで。今日はそちらに伺いますが、当日券もあるようです。こちらもお時間のある方、ぜひどうぞ。

【折々のことば・光太郎】

木村さんの会には出たいのですが何分遠隔の地にあるので不本意なから欠席します、『魔の宴』も忝く拝受 いろいろの事をおもひ出します、

昭和25年(1950)6月19日 和田豊彦宛書簡より 光太郎68歳

ca6d4a55「木村さん」は木村荘太(艸太)。武者小路実篤の「新しき村」などに参加した作家です。フユウザン会などで光太郎と親しかった画家・木村荘八の実兄でもありました。遠く明治末には、吉原河内楼の娼妓・若太夫をめぐって光太郎と三角関係となり、決闘未遂にまでなりました。

『魔の宴』はその頃を回想した自伝的小説で、この年5月に刊行されました。若太夫をめぐるすったもんだなどにも詳しく触れられています。

木村、大正12年(1923)から、旧遠山村(現・成田市。光太郎の親友・水野葉舟も住んでいました)に移り、旧制成田中学(現・成田高校さん)や図書館などに勤務していましたが、何を思ったか、この刊行直前の4月に、成田山新勝寺内の成田山公園で縊死してしまいました。