光太郎の彫刻、書、光太郎の父・光雲の彫刻が出る展覧会等の情報を3件。やはり取り上げるべき事項が山積しており、3件一気にご紹介いたします。

開催日順にまずは山口県から。「UBEビエンナーレ(現代日本彫刻展)」の一環というか、関連行事というか。

彫刻世界 かたち・つくり・ひらく

期 日 : 2024年10月18日(金)~12月15日(日)
会 場 : ときわ湖水ホール 山口県宇部市大字沖宇部254
時 間 : 10:00〜16:00
休 館 : 火曜日
料 金 : 無料

 彫刻がすぐそばにあると世界はまるで別のものに感じられます。
 すぐれた作品であればあるほど、そのかたちとそれを包む世界との対話と交流が生まれ、世界も彫刻もおたがいに豊かで汲み尽くせない一体状態になるのです。それは彫刻と世界が不可分になったことの証しです。
 本展タイトルの「彫刻世界」という四文字は、その現れを表現しようとするものです。空間のなかの「かたち」である立体としての彫刻は、ひとの手が「つくり」、そこから未体験の世界が生まれる=「ひらく」ことになる。「彫刻世界」が立ち現れるのです。
 暮らしのなかにはひとの手によって作られたかたちは無数に存在しています。そうした三次元の立体は、機能が目的としっかり結びつけば、具体的にコップであったり、椅子であったり、ロケットであったりします。でも、目的との結びつきが失われると、名前は消えただの適当な「もの」のように感じられ、逆に「彫刻世界」が誕生するきっかけとなります。
 彫刻のかたちは、それを包む空間と不可分であり、そこに揺らぎが潜んでいる。堂々たる不滅の記念碑と見えても、世界との関わりではじつはどこかで微妙に揺れている。手のひらのうえの小石も、巨大な石積みの古代のピラミッドも、絶え間なく変化する「彫刻世界」のなかにあるのです。
 本展は、「彫刻世界」を「かたち つくる ひらく」ことに取り組んで、ギネス世界記録 ™️認定された宇部市の彫刻コレクションの素晴らしさを紹介するものです。
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光太郎のブロンズ「手」(大正7年=1918)が出ます。ただし、新しい鋳造のものです。他に光太郎の親友・荻原守衛の絶作「女」(明治43年=1910)、光太郎と交流のあったところでは中原悌二郎、木内克、柳原義達らの作品。さらに、昨年亡くなられた澄川喜一氏のものも。

続いては光雲木彫。石川県から。

令和6年能登半島地震復興応援特別展 七尾美術館 in れきはく

期 日 : 2024年10月19日(土)~11月17日(日)
会 場 : 石川県立歴史博物館 石川県金沢市出羽町3-1
時 間 : 9:00~17:00
休 館 : 会期中無休
料 金 : 一般800(640)円 大学生・専門学校生640(510)円 *高校生以下無料
      ( )内は20名以上の団体料金 65歳以上の方は団体料金


 能登地区唯一の総合美術館である石川県七尾美術館は、平成7年(1995)の開館から約30年、能登の文化活動の拠点施設として広く親しまれてきました。
 しかしながら、当館は令和6年1月1日の能登半島地震により建物・設備に被害を受けて臨時休館中となっています。
 本展は当館が石川県立歴史博物館と共同で企画するもので、七尾美術館の所蔵品および寄託品を3つのテーマで広く紹介します。
 七尾美術館が地域との関わりの中で大切に守り伝えてきた作品群が、金沢で一堂に展示されるのは初めてのこととなります。
 その魅力に触れ、能登の豊かな歴史・文化を再確認する機会となれば幸いです。
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七尾市の七尾美術館さん。今年元日の能登半島地震で大きな被害を受け、休館中なのですね。存じませんでした。

ちょうど地震のあった時は、「彫刻って面白い!〜これってなんだ?からそっくりまで〜」展が開催中でしたが、途中で打ちきりとなったのでしょう。

そちらで展示されていた光雲作の「聖観音像」(昭和6年=1931)、光太郎と縁の深かった高田博厚の「うずくまる女」(昭和50年=1975)などが出品されます。
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最後に、都内から光太郎の書。展示即売会です。

五十五周年記念 特別展 【 粋 II 近代巨匠名品展】

期 日 : 2024年10月18日(金)~10月27日(日)
会 場 : 黒田陶苑 渋谷区渋谷1-16-14 メトロプラザ1F
時 間 : 11:00~19:00
休 館 : 木曜日
料 金 : 無料

 この度、開苑五十五周年を記念しまして「粋 II」を開催する運びとなりました。
東京美術倶楽部の第二十二回東美特別展の当苑のブースでは富本憲吉先生の三十糎を超える白磁大壷二点と師弟関係のあっ た加守田章二先生、栗木達介先生の晩年の貴重な作品、京都陶芸界の次世代として認めていた八木一夫先生の作品を展示い
たします。
 京橋の魯卿あんでは北大路魯山人先生の里帰りの作品や、某芸術家旧蔵の名作二点を中心に先生の偉業をご紹介いたしま す。しぶや黒田陶苑では内容を広げまして川喜田半泥子先生や加藤唐九郎先生の名碗、加藤土師萌先生が文化庁に納められ た黄地紅彩の姉妹品などの近現代の工藝から、俳優の神山繁さんが何よりも愛されていたジョルジュ・ルオーの小品、山口 薫先生が描かれた愛犬のクマや愛猫のクロの二枚の絵、村上華岳先生が自らのために残されていたと言われる美しい仏画などの書画を含め、名作三十二点を一堂に並べさせていただきます。
 
三年に一度の「粋」のそれぞれを三つの会場にてお楽しみくださいますようお願いいたします。
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軸装の光太郎色紙が出ます。
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No.32 天極をさす Hanging scroll, Calligraphy "天極をさす(pointing the celestial pole)”

 箱Box 北川太一識
 with box signed by KITAGAWA Taichi
 サイズ Size27.0 / 24.0cm 軸寸 / Scroll size: 109.0 / 43.0cm
 ¥2,750,000 (税込/including tax)

 高村光太郎先生は上野の西郷隆盛像や重要文化財の「老猿」を作った高村光雲先生の子である。叙情的で生命が宿る木彫の「鯰」や「蝉」、「柘榴」などの彫刻家として、また「道程」「智恵子抄」などの詩人としても知られている。
 本作は「いくらまはされても針は天極をさす」と揮毫している。昭和2年4月に作られ6月号の『手帖』に発表された詩「詩人」の一部である。「いくら目隠をされても己は向く方へ向く。いくら廻されても針は天極をさす。」指針にしたい美しい言葉である。

この文言、光太郎が好んで揮毫し、複数の作例が存在します。表装にも手が込んでいるのでしょう。価格は強気の設定です。懐に余裕のある方、ぜひどうぞ。

以上、それぞれ、足をお運び下さい。

【折々のことば・光太郎】

詩に書いた通り原稿紙にポスター・カラアで描いた日の丸の旗を積雪の上に立てました。

昭和25年(1950)1月11日 奥平ちゑ子宛書簡より 光太郎68歳

「詩」は『読売新聞』に発表された以下のものです。
田村茂現代日本の百人
   この年
 
 日の丸の旗を立てようと思ふ。
 わたくしの日の丸は原稿紙。
 原稿紙の裏表へポスタア・カラアで
 あかいまんまるを描くだけだ。
 それをのりで棒のさきにはり、
 入口のつもつた雪にさすだけだ。
 だがたつた一枚の日の丸で、
 パリにもロンドンにもワシントンにも
 モスクワにも北京にも来る新年と
 はつきり同じ新年がここに来る。
 人類がかかげる一つの意慾。
 何と烈しい人類の已みがたい意慾が
 ぎつしり此の新年につまつてゐるのだ。

若き日には、西洋諸国とのあまりの文化的落差に絶望し、「根付の国」(明治44年=1911)などの詩でさんざんにこきおろした日本。老境に入ってからは15年戦争の嵐の中で、「神の国」と讃えねばならなかった日本。そうした一切の軛(くびき)から解き放たれ、真に自由な心境に至った光太郎にとって、この国はむやみやたらと否定すべきものでもなく、過剰に肯定すべきものでもなく、もはや世界の中の日本に過ぎないのです。
 
素直な心持ちで「原稿紙」の「日の丸」を雪の中に掲げる光太郎。激動の生涯、その終わり近くになって到達した境地です。もっとも、原稿用紙の日の丸自体は、遡って昭和22年(1947)から行っていましたが。