8月10日(土)、前日に第33回女川光太郎祭が行われた宮城県女川町をあとに、帰途に就きました。その途中、女川町に隣接する石巻市に寄り道。石巻市博物館さんで開催中の第9回特別展「移動美術館 佐藤忠良展 宮城県美術館コレクションから」拝観のためです。

佐藤忠良は新制作派の彫刻家で、同じく舟越保武らとともに、光太郎のDNAを最も色濃く受け継いだ一人。昭和35年(1960)には第3回高村光太郎賞を受賞しています。仙台市の宮城県美術館さんに作品がまとまって収蔵されていますが、同館が改修工事に伴い休館中とあって、出開帳。
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これは観ておこうと思い、寄り道した次第です。

会場は石巻市博物館さん。けっこう郊外にあり、「マルホンまきあーとテラス」という新しい施設内で、データが古い愛車のカーナビには入っていませんでした。周辺の道路も少し前とはかなり様相が異なっているようで、ナビ頼みだとえらい遠回りを強いられました。
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ありがたいことに写真撮影可。その代わり、「SNSで発信して下さい」だそうで(笑)。
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「略歴」のボードには第3回高村光太郎賞受賞も書かれていました。ありがたし。

会場内はこんな感じ。
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フライヤーにも使われている代表作の一つ、「帽子」。
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こちらも代表作の一つ、「群馬の人」。
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光太郎や荻原守衛、高田博厚などを見慣れている当方、やはりこうした具象彫刻は安心して見られます。ただ、具象なら何でもいいというわけでもなく、ただの立体写真じゃん、というものはパスしたいところ。その違いは何なんだ、と云われてもうまく言葉で表現出来ませんが、やはり纏っているオーラとでも云いましょうか、光太郎曰くの「生(ラ・ヴィ)」ですね。佐藤の作品からもそれがびんびん伝わってきます。

お嬢さんの佐藤オリエさんをモデルとした作品。
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オリエさんは昭和45年(1970)にTBS系テレビで放映された「花王愛の劇場 智恵子抄」で、智恵子役を演じられました(光太郎は故・木村功さん)。忠良はその際のオリエさんをモデルに「智恵子抄のオリエ」という作品も残しています。それがあるかと期待していたのですが、残念ながら展示されていませんでした。
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以前に仙台の宮城県美術館さん自体で「生誕100年/追悼 彫刻家 佐藤忠良展「人間」を探求しつづけた表現者の歩み」を拝見した際にもこれは出ていませんで、もしかすると収蔵されていないのかもしれません。

その他、彫刻以外での佐藤の大きな仕事の絵本関連の展示も充実していました。
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驚いたことに、佐藤以外に、石巻出身の高橋英吉の作品も2点。高橋は東京美術学校で木彫を学んだ彫刻家で、光太郎の後輩、さらに関野聖雲に師事したということで、光太郎の父・光雲の孫弟子に当たります。

木彫の「少女像」(昭和11年=1936)。薄く彩色が施されています。
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ブロンズの「男の首」(昭和14年=1939)。
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今年4月に信州上田の戦没画学生慰霊美術館 無言館さんに伺った際にも思いがけず高橋の作品が展示されていて驚きましたが、今回も驚きました。
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パネル最後にある通り、高橋は若くして戦没。数え32歳の昭和17年(1942)、太平洋戦争激戦地の一つ、ガダルカナル島でのことでした。そこで無言館さんに作品や遺品が展示されているわけです。

ちなみに無言館さんといえば、今週土曜日、地上波テレビ東京さん系の「新美の巨人たち」で無言館さんがメインで取り上げられます。系列のBSテレ東さんでは来週でしょう。

新美の巨人たち Artで願う平和の旅② 戦没画学生慰霊美術館「無言館」×内田有紀

地上波テレビ東京 2024年8月17日(土) 22:00~22:30

【沈黙の絵の真実とは】戦没画学生慰霊美術館「無言館」
長野県上田市。戦没画学生たちが遺した見果てぬ夢の数々。内田有紀 さんと訪れます。
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おそらく番組内では高橋より下の世代、もろに学徒動員等で在学中に召集されて戦死した画学生たちが大きく取り上げられると思われますが、ぜひご覧下さい。

それから、石巻市博物館の展示についての詳細情報。

第9回特別展「移動美術館 佐藤忠良展 宮城県美術館コレクションから」

期 日 : 2024年8月3日(土)~9月29日(日)
会 場 : 石巻市博物館企画展示室 宮城県石巻市開成1-8 マルホンまきあーとテラス内
時 間 : 9:00~17:00
休 館 : 月曜日 祝日の場合は翌日
料 金 : 無料

宮城県を代表する彫刻家 佐藤忠良の名作が石巻に集合します
 佐藤忠良(1912年生、2011年没)は、宮城県黒川郡落合村舞野(現・大和町)出身の彫刻家です。はじめは画家を志望していましたが、オーギュスト・ロダンなどのフランス近代彫刻に触れたことで、彫刻家としての道を歩み始めます。
 その後は太平洋戦争の出征とシベリア抑留を経て彫刻制作を再開、一貫して具象彫刻の制作を続けました。
 愚直な制作態度から生まれる慎ましく清らかな作風が評価され、69歳の時には、国立ロダン美術館から依頼を受けた個展が開催されています。
 この展覧会では、佐藤忠良記念館を有する宮城県美術館のコレクションから、代表作《群馬の人》や《帽子・夏》、石巻(旧・桃生郡鹿又村)出身の母をモデルにした《母の顔》等の29点のブロンズ彫刻を展示します。
 加えて、佐藤忠良が挿絵を手掛けた『おおきなかぶ』等の絵本や紙芝居も35点展示し、画家としての活躍にも注目します。
 展示室内には『おおきなかぶ』のフォトスポットやキッズコーナーを設けており、ご家族で楽しみながら作品を鑑賞することができます。
 加えて、宮城県美術館の教育普及部による参加体験プログラムも開催することで、様々な世代の方々が佐藤忠良作品に親しむ機会を提供します。
 なお、この展覧会は、宮城県美術館の長期休館にともなうアウトリーチ事業です。
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関連企画 講演会「宮城ゆかりの彫刻家  佐藤忠良と高橋英吉 」
 日時 8月24日 土曜日 13時30分から15時まで (13時開場)
 場所 マルホンまきあーとテラス 小ホール
 講師 宮城県美術館 学芸員 土生和彦
 予約不要・参加無料

講演をなさる土生和彦氏、以前、愛知県碧南市の藤井達吉現代美術館さんにお勤めのころ、同館も巡回された「生誕130年 彫刻家高村光太郎展」でお世話になりました。無沙汰を重ねていますが、ご活躍の由、嬉しく存じます。

それから、詳細情報が出ていませんが、佐藤忠良展入口前ではこんな展示も。
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高橋由一や速見御舟、そして光太郎の留学仲間の一人、安井曾太郎らの絵画です。ただし高精細複製。
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なるほど。

ついでですので、地元紙『河北新報』さんの別刷『石巻かほく』さんから、佐藤忠良展報道。

彫刻に宿る愛、佐藤忠良の世界 石巻市博物館で県美収蔵品展示 来月29日まで

 石巻市開成の市博物館(マルホンまきあーとテラス内)で、第9回特別展「移動美術館 佐藤忠良展 宮城県美術館コレクションから」が開かれている。9月29日まで。市博物館と県美術館主催で、宮城出身の彫刻家・佐藤忠良さん(1912~2011年)の記念館を所有する県美術館のコレクションから展示している。
 三つの章から成り、第1章は代表作「群馬の人」や「母の顔」などのブロンズ彫刻14点を紹介する「佐藤忠良の世界」。第2章は友人の子どもや孫をモデルにしたブロンズ彫刻15点を展示する「子どもたちへのまなざし」。第3章「絵本の仕事」では佐藤さんが挿絵を描いた絵本「おおきなかぶ」や紙芝居など35点も公開している。「おおきなかぶ」のフォトスポットやキッズコーナーもある。
 福島県南相馬市から訪れた公務員堀耕平さん(65)は「作者の名前は知っていたが詳しくはなかったので、作風の経過を見ることができて良かった。子どもの彫刻や絵本からは子どもたちへの愛を感じた」と話した。
 黒川郡落合村舞野(現大和町)出身の佐藤さんは画家を志したが、フランス近代彫刻に影響を受けて彫刻家の道へ転向。太平洋戦争やシベリア抑留を経験した後も一貫して制作に取り組んだ。
 17日は県美術館教育普及部の参加体験プログラムが開かれる。自由に絵描きや木工作ができるオープンアトリエは午前10時から午後3時半まで。小学生以下と家族対象のシルエットクイズと紙製スタンド作りは午前10時から同11時半まで。16歳以上対象の彫刻作品やテーマに関するポーズ作りは午後2時から午後3時半までで全身を使ったアート体験ができる。
 このほか24日に講演会「宮城ゆかりの彫刻家 佐藤忠良と高橋英吉」、9月7日には実際に展示作品を見ながら質疑応答などができるギャラリートークがある。いずれも講師は県美術館学芸員の土生和彦氏で、予約不要。参加無料。
 連絡先は市博物館0225(98)4831。
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というわけで、ぜひ足をお運びください。

【折々のことば・光太郎】

博物館で小生の彫刻を見られた由、皆ひどい旧作なので気がひけます。あの少女裸像は智恵子像ではなく智恵子像ではありません。あのモデルはヨコハマのチャブ屋の少女でした。随分昔の作です。智恵子の裸体をモデルにしたトルソは焼けてしまひました。智恵子の首も焼失。却つてよかつたかも知れません。

昭和23年(1948)12月13日 椛沢ふみ子宛書簡より 光太郎66歳

「少女裸像」はこちら。大正6年(1917)の作です。
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それから「智恵子の首」。複数の作例の写真が残っています。
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「智恵子の裸体をモデルにしたトルソ」は残念ながら画像も確認出来ていません。

どうも光太郎、作品を作り上げるととたんに興味を無くしてしまう傾向にあったようで、旧作を自画自賛するということはほとんどありませんでした。自分に厳しい、といえばそうなのでしょうが。