竹橋の東京国立近代美術館さん。有島武郎旧蔵の光太郎ブロンズ代表作「手」を収蔵なさり、常設展示で「所蔵作品展 MOMATコレクション」に出品なさることもしばしばです。現在も出ています(8月25日(日)まで)。
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光太郎生前に鋳造されたことが確認出来ている3点のうちの1点で、木の台座部分も光太郎の手になる木彫です。接着されていないブロンズ部分を取り外すと、芯ともいうべき部分に旧蔵者の有島、有島没後に受け継いだ秋田雨雀、そして戦時中に秋田から託された雑司ヶ谷本納寺の兜木正享の名が記されています。詳しくはこちら。動画で紹介されています。

戦後、光太郎の意向もあって、同館に寄贈されました。

さて、同館では、動画以外にも「水平方向に360度回転させて見ることができ、細部を拡大することも可能な3D画像ビューアー」を制作され、このほどオンラインで公開されました。

高村光太郎《手》のオブジェクトVRコンテンツ公開

このたび当館では、日本文教出版株式会社と日本写真印刷コミュニケーションズ株式会社との共同で、「オブジェクトVRコンテンツ」を制作いたしました。
高村光太郎《手》(1918年頃)を水平方向に360度回転させて見ることができ、細部を拡大することも可能な3D画像ビューアーです。
ぐるぐる回したりぐっと近寄ったりしながら、美術館の外でも作品をじっくりお楽しみください。
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*高精細データのため表示されるまで時間がかかる場合がございます。
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光太郎自身、彫刻はぐるっと360度の方向から見るのが大事だと書き残しています。彫刻自体は動かないけれど、自分が動けば彫刻も動く、というわけで。

線の波動の面白味といふのは、空間を劃(かぎ)つた彫刻の輪廓の波動をいふのである。所謂曲線美といふのも此の辺を名づけたのであらう。一つの彫刻の前に立つて見ると、其の後ろの空間の中へはつきりと其の彫刻の「輪廓の影(シルエエツト)」が浮き上つて来る。大小緩急の入り乱れた弧線が端から端へと連続して人間の形や動物の形を成してゐる。そこで一歩横へ寄る。百眼鏡(ひやくめがね)を一転した様に、今までの輪廓の影の弧線は忽ち大活動を始めて変化する。其の変化の途中、大きな弧線が小さくなり、小さなのが大きくなり、縮んだのが伸び、迫つたのが開いてゆく所は、実に不思議な生理的快感を人間の神経に与へるものである。此の輪廓の変転は到底測る可からざる感を人に与へる。かうして、其の彫刻を一周してゐるうちに再び元の位置にかへる。ぴたりと以前の輪廓に復した時には、全く旧知に邂逅した刹那の感があるものである。(「彫刻の面白味」明治43年=1910)

こうした感覚を味わいつつ、ぜひ「《手》のオブジェクトVRコンテンツ」をご覧下さい。

なお同館では、光太郎の親友だった碌山荻原守衛遺作の「女」についても同様のコンテンツを公開するやに聞いております。

こうした動きがさらに広がってほしいものですし、どうせなら水平方向360度だけでなく、斜め上から真上からと、この場合、何度と表現したいいのか解りませんが、全方向から見られるようにもしていただけると、なお有り難いところです。

【折々のことば・光太郎】

先日窓の外の鼠の巣の子どもをのみに蛇が来て鼠を退治してくれました。


昭和23年(1948)6月26日 椛沢ふみ子宛書簡より 光太郎66歳

花巻郊外旧太田村での一コマ。何気に書かれていますが、自然界の生存競争の厳しさが感じられます。その連鎖の中に光太郎も身を置いていたわけで……。