新刊です。
「喫茶店」アンソロジー。お気に入りの喫茶店で時間をつぶす贅沢、喫茶店での私の決まり事、ふと思い出すあの店構え、メニューなど。
古今のカフェ、喫茶店にまつわるエッセイ等を集めたアンソロジー。光太郎や内田百閒、萩原朔太郎あたりが最も古い部類でしょうか。ご存命の方々の作品も数多く。
光太郎作品は明治43年(1910)の雑誌『趣味』に発表された「珈琲店より」。前年まで留学のため滞在していたパリでの思い出が語られています。ただ、どこまでが事実なのかわかりません。午前0時近く、オペラを見終わった後、オペラ座近くのブールバールを歩いていて、たまたま見かけた3人組のパリジェンヌが入っていった珈琲店(「カフエ」とルビが振られていますが、)に自分も入って女達と陽気な時間を過ごし(珈琲店といいつつ酒がメインの店でした)、そのうちの一人を「お持ち帰り」……。翌朝、さんざんに人種的劣等感などに打ちのめされるという内容です。
この文章、令和3年(2021)に刊行された同じ趣旨のアンソロジー『近代文学叢書Ⅲ すぽっとらいと 珈琲』にも掲載されました。
それを言えば、昭和16年(1941)10月、光太郎の親友だった作家・水野葉舟は『青年・女子文章講義録 第6巻 名家の文章集』という書籍の「名家の書いた小品」というコーナーにこの文章を掲載しました。太平洋戦争開戦直前のこの時期、「これ、マズいでしょ」という感じなのですが(笑)。
閑話休題、ぜひお買い求め下さい。
【折々のことば・光太郎】
なやみのあるのは人生の常でむしろその為に人間は進むのですから、なやむ時は正面からなやみ、そして勇気を以てそれをのり超える外はありません。いい加減にごまかしてなやみを回避してゐる人には進歩はありません。
さまざまなつまづきを経験し、悩みに悩んできた光太郎ならではの言です。それにしても、実にポジティブですね。
おいしいアンソロジー 喫茶店 少しだけ、私だけの時間
2024年5月11日 阿川佐和子 他著 大和書房(だいわ文庫) 定価800円+税「喫茶店」アンソロジー。お気に入りの喫茶店で時間をつぶす贅沢、喫茶店での私の決まり事、ふと思い出すあの店構え、メニューなど。
目次
コーヒーとの長いつきあい 阿刀田高
コーヒーとの長いつきあい 阿刀田高
贅沢な空気感の薬効 資生堂パーラー 村松友視
淡い連帯 平松洋子
国立 ロージナ茶房の日替りコーヒー 山口瞳
喫茶店とカフェ 林望
愛媛県松山 喫茶の町 ぬくもり紀行 小川糸
喫茶店にて 萩原朔太郎
変わり喫茶 中島らも
初体験モーニング・サービス 片岡義男
珈琲の美しき香り 森村誠一
ニューヨーク・大雪とドーナツ 江國香織
しぶさわ 常盤新平
大みそかはブルーエイトへ シソンヌ じろう
カフェ・プランタン 森茉莉
気だるい朝の豪華モーニングセット 椎名誠
富士に就いて 太宰治
コーヒー色の回想 赤川次郎
コーヒー 外山滋比古
コーヒー屋で馬に出会った朝の話 長田弘
しるこ 芥川龍之介
コーヒー五千円 片山廣子
一杯のコーヒーから 向田邦子
喫茶店人生 小田島雄志
喫茶店学 −キサテノロジー 井上ひさし
可否茶館 内田百閒
カフェー 勝本清一郎
懐かしの喫茶店 東海林さだお
芝公園から銀座へ 佐藤春夫
東京らしい喫茶店 南千住『カフェ・バッハ』 木村衣有子
〈コーヒー道〉のウラおもて 安岡章太郎
喫茶店で本を読んでいるかい 植草甚一
ミラーボールナポリタン 爪切男
ウィンナーコーヒー 星野博美
珈琲店より 高村光太郎
ひとり旅の要領 阿川佐和子
甘話休題(抄) 古川緑波
あの日、喫茶店での出来事 麻布競馬場
わが新宿青春譜 五木寛之
カフェー 吉田健一
コーヒーがゆっくりと近づいてくる 赤瀬川原平
古今のカフェ、喫茶店にまつわるエッセイ等を集めたアンソロジー。光太郎や内田百閒、萩原朔太郎あたりが最も古い部類でしょうか。ご存命の方々の作品も数多く。
光太郎作品は明治43年(1910)の雑誌『趣味』に発表された「珈琲店より」。前年まで留学のため滞在していたパリでの思い出が語られています。ただ、どこまでが事実なのかわかりません。午前0時近く、オペラを見終わった後、オペラ座近くのブールバールを歩いていて、たまたま見かけた3人組のパリジェンヌが入っていった珈琲店(「カフエ」とルビが振られていますが、)に自分も入って女達と陽気な時間を過ごし(珈琲店といいつつ酒がメインの店でした)、そのうちの一人を「お持ち帰り」……。翌朝、さんざんに人種的劣等感などに打ちのめされるという内容です。
この文章、令和3年(2021)に刊行された同じ趣旨のアンソロジー『近代文学叢書Ⅲ すぽっとらいと 珈琲』にも掲載されました。
それを言えば、昭和16年(1941)10月、光太郎の親友だった作家・水野葉舟は『青年・女子文章講義録 第6巻 名家の文章集』という書籍の「名家の書いた小品」というコーナーにこの文章を掲載しました。太平洋戦争開戦直前のこの時期、「これ、マズいでしょ」という感じなのですが(笑)。
閑話休題、ぜひお買い求め下さい。
【折々のことば・光太郎】
なやみのあるのは人生の常でむしろその為に人間は進むのですから、なやむ時は正面からなやみ、そして勇気を以てそれをのり超える外はありません。いい加減にごまかしてなやみを回避してゐる人には進歩はありません。
昭和22年(1947)11月15日 浅見恵美子宛書簡より 光太郎65歳
さまざまなつまづきを経験し、悩みに悩んできた光太郎ならではの言です。それにしても、実にポジティブですね。