「東京都同情塔」で第170回芥川賞に選ばれた九段理江氏の小説です。「東京都同情塔」より前に書かれたものですが、ある意味芥川賞受賞の尻馬に乗った感と言うと失礼かも知れませんが、単行本化されました。
しをかくうま
2024年3月10日 九段理江著 文藝春秋 定価1,500円+税第45回野間文芸新人賞受賞作。
疾走する想像力で注目を集める新芥川賞作家が描く、馬と人類の壮大な歴史をめぐる物語。
太古の時代。「乗れ!」という声に導かれて人が初めて馬に乗った日から、驚異の物語は始まる。この出逢いによって人は限りなく遠くまで移動できるようになった――人間を“今のような人間”にしたのは馬なのだ。
そこから人馬一体の歴史は現代まで脈々と続き、しかしいつしか人は己だけが賢い動物であるとの妄想に囚われてしまった。
現代で競馬実況を生業とする、馬を愛する「わたし」は、人類と馬との関係を取り戻すため、そして愛する牝馬<しをかくうま>号に近づくため、両者に起こったあらゆる歴史を学ぼうと「これまで存在したすべての牡馬」たる男を訪ねるのだった――。
担当編集者より
2021年に小説家デビューするや、発表するすべての小説で文学賞を受賞してきた新芥川賞作家の、真骨頂とも呼べる、圧倒的想像力の爆発した一作です。
野間文芸新人賞選考会では、小説の放つあまりの疾走感から、この作品自体が“暴れ馬”に見立てられ、“暴れ馬”から“振り落とされた”と述懐する選考委員もいらしたほどです。
詩情豊かにギャロップする物語は、批評的射程も広く備えていて、優生思想や純血主義、アニマルライツ、果ては人類の知そのものに対する問いまでをも孕んでいます。
いま最注目の才能が送る、試みと企みに満ちた必読の書。
また、小説内には、実在の名馬名や名実況セリフもちりばめられており、競馬ファンにもおすすめいたします。
それほど厚い本ではないので、ほぼほぼ一気読みしました。2時間弱でしょうか。
主人公の一人は、現代のテレビ局勤務のアナウンサー「わたし」。主人公といえば、数万年前に出会ったネアンデルタール人とホモ・サピエンスの二人組、さらに終末部分では「ニューブレイン」を埋め込まれた近未来の人類も登場し、彼らも主人公の一人と言えるでしょう。
タイトルの通り、「馬」が重要なモチーフ。「わたし」は情報番組のキャスター、そして競馬の実況中継を担当しています。太古の二人組は、おそらく人類史上初めて馬に乗った(高速の移動手段を手にした)という設定。近未来の部分には馬は描登場しませんが、「ニューブレイン」をoffにした状態での「オールドブレイン」による幻想の中には馬が現れます。
また、もう一つのモチーフは「詩」。ただ、ここでいう「詩」は、通常の意味の「詩」より広範な意味で使われていますが。
そこで、光太郎詩「道程」(大正3年=1914)が引用されています。しかも最終形の9行バージョンではなく、詩集『道程』上梓前に雑誌『美の廃墟』に載った102行の初出発表形。ただし、あまりに長いので冒頭部分だけですが。それ以外にも「道程」という単語は複数回使われ、その背後には光太郎の「道程」がちらつきます。
九段氏と言えば、作品執筆にに生成AIを活用したという点がクローズアップされていますね。本作でもおそらくそうなんじゃないかと思われる箇所が散見されます。例えば、およそ2ページにわたり、カタカナ10文字の人名が99名分羅列されている箇所があります。こうした作業は生成AIお手のものでしょう。ちなみに99名のほとんどは古今東西のうちの「西」。日本人は含まれません(後の部分で「タニカワシュンタロウ」が出てきますが)。「ウォルトホイットマン」や「アルチュールランボー」「レオナルドダヴィンチ」など、光太郎に影響を与えた人物も少なからず。そうかと思うと「フレディマーキュリー」や「マークザッカーバーグ」まで。個人的には「アーネストフェノロサ」「フランシスプーランク」や「ミッシェルポルナレフ」が欲しいところでしたが(笑)。「タカムラコウタロウ」は惜しくも9文字ですね(笑)。
それにしても本作、一昔前なら荒唐無稽な「SF」の範疇に入れられていたかも知れません。それほど情報技術等の進化(進化と言えるかどうかは別として)は、急ピッチです。常々思っているのですが、まるでy=ax²のグラフのx≧0の部分のように。x軸が時間、y軸が情報技術等の進化です。
閑話休題、ぜひお買い求めを。
【折々のことば・光太郎】
彫刻の構図もいろいろ作ります。智恵子観音の原型雛形もそのうち試みるつもりです。
「十和田湖畔の裸婦群像(通称・乙女の像)」として「智恵子観音」の構想が結実するのは、さらに約6年後です。
それほど厚い本ではないので、ほぼほぼ一気読みしました。2時間弱でしょうか。
主人公の一人は、現代のテレビ局勤務のアナウンサー「わたし」。主人公といえば、数万年前に出会ったネアンデルタール人とホモ・サピエンスの二人組、さらに終末部分では「ニューブレイン」を埋め込まれた近未来の人類も登場し、彼らも主人公の一人と言えるでしょう。
タイトルの通り、「馬」が重要なモチーフ。「わたし」は情報番組のキャスター、そして競馬の実況中継を担当しています。太古の二人組は、おそらく人類史上初めて馬に乗った(高速の移動手段を手にした)という設定。近未来の部分には馬は描登場しませんが、「ニューブレイン」をoffにした状態での「オールドブレイン」による幻想の中には馬が現れます。
また、もう一つのモチーフは「詩」。ただ、ここでいう「詩」は、通常の意味の「詩」より広範な意味で使われていますが。
そこで、光太郎詩「道程」(大正3年=1914)が引用されています。しかも最終形の9行バージョンではなく、詩集『道程』上梓前に雑誌『美の廃墟』に載った102行の初出発表形。ただし、あまりに長いので冒頭部分だけですが。それ以外にも「道程」という単語は複数回使われ、その背後には光太郎の「道程」がちらつきます。
九段氏と言えば、作品執筆にに生成AIを活用したという点がクローズアップされていますね。本作でもおそらくそうなんじゃないかと思われる箇所が散見されます。例えば、およそ2ページにわたり、カタカナ10文字の人名が99名分羅列されている箇所があります。こうした作業は生成AIお手のものでしょう。ちなみに99名のほとんどは古今東西のうちの「西」。日本人は含まれません(後の部分で「タニカワシュンタロウ」が出てきますが)。「ウォルトホイットマン」や「アルチュールランボー」「レオナルドダヴィンチ」など、光太郎に影響を与えた人物も少なからず。そうかと思うと「フレディマーキュリー」や「マークザッカーバーグ」まで。個人的には「アーネストフェノロサ」「フランシスプーランク」や「ミッシェルポルナレフ」が欲しいところでしたが(笑)。「タカムラコウタロウ」は惜しくも9文字ですね(笑)。
それにしても本作、一昔前なら荒唐無稽な「SF」の範疇に入れられていたかも知れません。それほど情報技術等の進化(進化と言えるかどうかは別として)は、急ピッチです。常々思っているのですが、まるでy=ax²のグラフのx≧0の部分のように。x軸が時間、y軸が情報技術等の進化です。
閑話休題、ぜひお買い求めを。
【折々のことば・光太郎】
彫刻の構図もいろいろ作ります。智恵子観音の原型雛形もそのうち試みるつもりです。
昭和22年(1947)1月6日 椛澤ふみ子宛書簡より 光太郎65歳
「十和田湖畔の裸婦群像(通称・乙女の像)」として「智恵子観音」の構想が結実するのは、さらに約6年後です。