先週封切りの映画「風よ あらしよ 劇場版」に関し、新聞等で告知などが為されていましたのでご紹介します。
『神奈川新聞』さん。
『神奈川新聞』さん。
映画批評 「風よ あらしよ 劇場版」
2022年にNHKで放送されたドラマの劇場版。吉川英治文学賞を受賞した村山由佳の原作小説からほとばしる、100年前の女性解放運動家・伊藤野枝の熱量を、吉高由里子(写真)が見事に演じ切った。
1923年、関東大震災後の混乱に乗じて何人もの社会活動家が殺された。野枝もその一人で、パートナーで無政府主義者の大杉栄(永山瑛太)と、わずか6歳だった大杉のおいと共に陸軍憲兵隊に連行され殺害された。遺体は無残にも古井戸に投げ込まれ、その暴挙が発覚したのは死後何日もたってのことだった。世にいう甘粕事件だ。
その生涯は常に声を上げ続けたものだった。「元始、女性は実に太陽であった」と宣言した平塚らいてう(松下奈緒)に感銘を受け、青鞜社に入社。「新しい女」の自覚を胸に、女性の地位向上を訴えた。自分が見て、聞いたことを自分の言葉で書き、世間に見向きをされない時も諦めなかった。
事件当時、野枝は28歳の若さ。男尊女卑の風潮が色濃い中で、「女だから」というだけで自由に生きられない世の中に、幼い頃から疑問を抱き続けた野枝。どんなに無念だったろうか。
今の世に野枝が生きていたら、と思わずにいられない。女性の人生における選択は格段に増えた。だが、野枝が訴えた「誰もが自由に生きられる社会」は実現しているだろうか。大きな問いを突き付けられた。
演出/柳川強 製作/日本、2時間7分
『毎日新聞』さん。
ここに注目
『週刊実話』さん。
吉高由里子の熱演は確かだが…
やくみつる
同様に、関東大震災直後のドサクサで抹殺された野枝の残したメッセージ、今も現代の我々に語りかけてくれているわけですね。
『毎日新聞』さん。
「風よ あらしよ 劇場版」 惨殺された女性解放運動家、伊藤野枝の生涯
毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
大正時代に因習や社会情勢に異議を申し立て、大杉栄とともに惨殺された女性解放運動家、伊藤野枝の生涯を描く。2022年にNHK BSで放送されたドラマを再編集した。
貧しい農家で育った野枝(吉高由里子)は平塚らいてうが主宰する雑誌「青鞜」に参加、「婦人解放」を唱える。やがて元教師の夫、辻潤(稲垣吾郎)と別れ、無政府主義者の大杉(永山瑛太)と暮らし始める。
波乱に満ちた生涯を物語に詰め込むのに、きゅうきゅうとした感は否めないが、平塚やダダイストの辻、大杉ら、野枝に影響を与えた人物、野枝の自由への渇望や思想形成の過程をきっちり押さえた。大杉の奔放な女性関係なども描き、距離を置いて人物にフォーカスした演出にも好感。当時の社会規範や権力の暴走を明確にすることで、今に通じるエッセンスも際立った。何度か取り上げられた題材だが、野枝の内面を分かりやすく描写するなど、より知ってもらいたいという意図も明白。芯の強い野枝を吉高が精緻に演じた。原作は村山由佳の同名小説。柳川強が演出。2時間7分。東京・新宿ピカデリー、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。
ここに注目
人間としての懊悩(おうのう)や葛藤のドラマを期待すると拍子抜けだが、歴史上の人物の生涯を分かりやすくまとめ、入門編としては好適。「女性であるというだけで我慢を強いられ搾取される」という野枝の主張は、現代にそのまま響く。当時としては過激な思想を貫いた強さに、改めて驚かされる。
『週刊実話』さん。
やくみつる☆シネマ小言主義~『風よ あらしよ 劇場版』/2月9日(金)より全国順次公開
原作/村山由佳『風よ あらしよ』(集英社文庫刊)
出演/吉高由里子、永山瑛太、松下奈緒、美波、玉置玲央、山田真歩、朝加真由美、山下容莉枝、渡辺哲、栗田桃子、高畑こと美、金井勇太、芹澤興人、前原滉、池津祥子、音尾琢真、石橋蓮司、稲垣吾郎
製作・配給/太秦
男尊女卑の風潮が色濃い大正時代。福岡の田舎の貧しい家で育った伊藤野枝(吉高由里子)は親が決めた結婚を拒み、逃げるように上京する。
その後、平塚らいてう(松下奈緒)の「元始、女性は太陽であった」という言葉に感銘を受けた野枝は、手紙を送り、女流文学集団「青鞜社」に参加。当初、詩歌が中心だったが、いつしか伊藤が中心となり、社会矛盾に異議を唱える婦人解放運動団体へと発展していく。
2014年に放映されたNHK朝の連続テレビ小説『花子とアン』のヒロインである翻訳者、今年のNHK大河ドラマ『光る君へ』の主役・紫式部、そして、女性解放運動家・伊藤野枝を描いた本作。すべて吉高由里子主演です。
垢抜けないフツーの女の子が、さまざまな出会いを通して自身のアカデミックな才能を開花させていく物語がこれで3作揃った感があり、吉高由里子と言えば「反骨心あふれる女性の半生」が代名詞になる可能性がありますね。
自分は不勉強で伊藤野枝という女性解放運動家を知りませんでした。彼女は、平塚らいてうの「元始、女性は太陽だった」という言葉に感銘を受け、「青鞜社」に入って「女はこうあるべきだ」という因習に真正面から立ち向かいます。
日本を代表する無政府主義者、大杉栄のことは、教科書的な知識として知っていました。しかし、大杉栄のパートナーだった伊藤野枝まで大杉とともに、あらぬ疑いで憲兵に捕まり、28歳の若さで惨殺されていたことに衝撃を受けました。
この事件が起きたのはちょうど100年前のことです。
吉高由里子の熱演は確かだが…
パンフレットにあった原作者の村山由佳さんの言葉には『(声をあげれば)世界は、変わる。かつて野枝たちが身をもって証明したのに、100年の間に元に戻ってしまっただけだ』とありました。
当時に比べたら女性の社会進出ははるかに進んだでしょう。けれども、いまだに性加害があったりと、100年経っても女性の地位はまだこんなレベルかと伊藤野枝は失望するだろうか。あるいは、ここまで進んだかと肯定的に捉えるのか。
一周回った今、伊藤野枝が現代のこの社会をどう思うだろうかと自問自答したくなる映画です。
さて、本作の評価を一身に背負っているのは主演の吉高由里子に間違いないと思うのですが、実は自分が星1つ減じてしまったのもその点。彼女を起用した意図は理解できます。
この華奢な体のどこにそんな反骨パワーが潜んでいたのかと、観客に感じさせようという人選でしょう。
本作の見どころの一つに、民衆を前に「女性の不平等」について演説するシーンがあります。懸命に声を張り上げているのですが、この声のトーンで、聴衆の1人だった革命家の大杉栄に衝撃を与えられるのかと、どうしても思ってしまうんですよ。
「線の細さ」と「アナーキーな言動」とのギャップを強調すればするほど、映像としての無理感が否めないのではないか。吉高由里子が熱演なだけに、痛し痒しですね。
やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
辛口の部分もありますが、やくさん、概ね好意的な評ですね。
Youtube上に予告編もありました。
ぜひご覧下さい。
【折々のことば・光太郎】
しかし生命の信念は死とは別個の心事です。人悉く死す。しかも生命の感宇宙に充満せり。
共通の知人であった詩人の逸見猶吉が、関東軍報道隊員として派遣されていた満州から復員できずに客死したという報に対しての返信の一節です。逸見は亡くなったけれど、我々の心に生き続けるよ、というところでしょうか。
辛口の部分もありますが、やくさん、概ね好意的な評ですね。
Youtube上に予告編もありました。
ぜひご覧下さい。
【折々のことば・光太郎】
しかし生命の信念は死とは別個の心事です。人悉く死す。しかも生命の感宇宙に充満せり。
昭和21年(1946)9月11日 小盛盛宛書簡より 光太郎64歳
共通の知人であった詩人の逸見猶吉が、関東軍報道隊員として派遣されていた満州から復員できずに客死したという報に対しての返信の一節です。逸見は亡くなったけれど、我々の心に生き続けるよ、というところでしょうか。
同様に、関東大震災直後のドサクサで抹殺された野枝の残したメッセージ、今も現代の我々に語りかけてくれているわけですね。