映画の公開情報です。

風よ あらしよ 劇場版

公 開 : 2024年2月9日(金)~ 全国順次公開
上 映 : 新宿ピカデリーほか
出 演 : 吉高由里子(伊藤野枝) 永山瑛太(大杉栄) 松下奈緒(平塚らいてう)
      美波(神近市子) 玉置玲央(村木源次郎) 山田真歩(堀保子)
      朝加真由美(辻美津) 山下容莉枝(渡辺八代) 栗田桃子(保持研
      高畑こと美(尾竹紅吉) 福田ユミ(中野初) 成田瑛基(奥村博史)
      金井勇太(和田久太郎) 芹澤興人(久板卯之助) 永瀬ゆずな(大杉魔子)
      音尾琢真(甘粕正彦) 石橋蓮司(渡辺政太郎) 稲垣吾郎(辻潤)ほか
演 出 : 柳川強
脚 本 : 矢島弘一
音 楽 : 梶浦由記

 関東大震災後の混乱のさなか、ひとりの女性が憲兵に虐殺された。女性解放運動家の伊藤野枝。貧しい家で育った野枝は、平塚らいてうの「元始、女性は太陽であった」という言葉に感銘を受け、結婚をせず上京。自由を渇望し、バイタリティ溢れる情熱で「青鞜社」に参加すると、結婚制度や社会道徳に異議を申し立てていく。伊藤野枝を演じたのは吉高由里子。平塚らいてうに松下奈緒。また野枝の第一の夫、ダダイスト・辻潤を稲垣吾郎が、また後のパートナーとなる無政府主義者・大杉栄を永山瑛太が演じる。吉川英治文学賞を受賞した村山由佳の評伝小説『風よ あらしよ』を原作に、向田邦子賞受賞の矢島弘一が脚本を担当する。本作の演出を務めた柳川強は「赤毛のアン」の翻訳者・村岡花子の波乱万丈の人生を描いたNHK連続テレビ小説「花子とアン」のディレクターも務めており、本ドラマでも主演を演じきった吉高由里子とは9年ぶりのタッグを組んだ。ひとりの女性の短くも激しい生涯から100年経ったいま――なにがかわり、なにが残されているのか。

 「女は、家にあっては父に従い、嫁しては夫に従い、夫が死んだあとは子に従う」事が正しく美しいとされた大正時代。男尊女卑の風潮が色濃い世の中に反旗を翻し、喝采した女性たちは社会に異を唱え始めた。
 物語の主人公は、福岡の片田舎で育った伊藤野枝。貧しい家を支えるための結婚を蹴り上京する。平塚らいてうの言葉に感銘を受け手紙を送ったところ、青鞜社に入ることに。青鞜社は当初、詩歌が中心の女流文学集団であったが、やがて伊藤野枝が中心になり婦人解放運動に発展していく。野枝の文才を見出した第一の夫、辻潤との別れ、生涯のパートナーとなる無政府主義の大杉栄との出会い、波乱万丈の人生をさらに開花させようとした矢先に関東大震災が起こる。そして混乱のさなか、理不尽な暴力が彼女を襲うこととなる……。
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令和2年(2020)に刊行された村山由佳氏の長編小説『風よ あらしよ』を原作に、一昨年、NHK BSプレミアムさん(当時)で放映された全3回のドラマを再編、「劇場版」として公開するものです。

村山氏の原作には登場する光太郎と智恵子、残念ながら登場しませんが、智恵子が表紙絵を描いた『青鞜』創刊号(明治44年=1911)が重要なモチーフとして繰り返し使われています。
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松下奈緒さん扮する平塚らいてうや、永山瑛太さんの大杉栄はじめ、登場人物の中には光太郎智恵子と交流のあった人々も多数。
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主役の伊藤野枝を演じられたのは、今年の大河ドラマ「光る君へ」で「まひろ」こと紫式部を熱演されている吉高由里子さん。吉高さんといえば、当方、光太郎とも面識のあったと思われる村岡花子を演じられた「花子とアン」の印象が非常に強いのですが、紫式部、伊藤野枝、村岡花子と、時代背景は違えど、共通する情熱やしたたかさを持ったある種たくましくもたおやかな部分もあり、なおかつ悪く云えば生意気な女性のイメージですね。吉高さんはこうした女性を演じられたら一級品ということでしょう。

ちなみに「光る君へ」で、大河史上、一、二を争うゲス野郎ともいえる藤原道兼を演じられている玉置玲央さん、「風よ あらしよ」では逆に大杉率いるアナーキスト一派の「良心」ともいうべき村木源次郎役です。当初は「源兄(げんにい)」と呼ばれ、子供たちにも慕われていた村木ですが、大杉・野枝夫妻の没後には大杉の「ああいう奴がほんもののテロリストになる」という予言の通りになっていきます。時間軸としてそのあたりまでは描かれないのですが。

というわけで、「風よ あらしよ 劇場版」、ぜひご覧下さい。

【折々のことば・光太郎】

本当に辻潤と四人で一度でものまなかつたのが心残りです。辻潤の江戸ツ子気質の性根から来てゐる行動の末々を本当に分つてゐる人は少ないでせう。


昭和21年(1946)8月1日 西山勇太郎宛書簡より 光太郎64歳

光太郎は野枝の最初の夫、辻潤とも交流がありました。

大正13年(1924)刊行の陶山篤太郎詩集『銅牌』の序文を光太郎が書き、英訳を辻が手がけています。また、昭和14年(1939)に刊行された西山勇太郎詩集『低人雜記』では、光太郎が題字を、辻が序文を担当しました。後の西山宛の光太郎書簡には辻の名が頻出します。また、昭和29年(1954)に刊行された『辻潤集』全二巻の編集委員には、光太郎も名を連ねました。

西山は辻と交流の深かった詩人です。光太郎はこの頃、西山の主宰していた雑誌に、戦時中に餓死した辻の追悼文を依頼され、乗り気だったのですが、結局実現しなかったようです。それが書かれていればもう少し詳しく辻と光太郎の関係性が分かったところですが。

「四人」は光太郎、辻、西山、もう一人はおそらく西山や光太郎と親しかった風間光作と思われます。

ちなみに辻潤、「風よ あらしよ」では稲垣吾郎さん。登場当初はりりしく颯爽としていましたが、次第にダメ男ぶりを遺憾なく発揮していきます。
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