購入しようかするまいか迷ったのですが、結局、買ってしまいました。帯に光太郎の名を印刷されてしまいましたので(笑)。

大作家でも口はすべる 文豪の本音・失言・暴言集

2024年1月22日 彩図社文芸部編 彩図社 定価1,300円+税

 本書は、作家たちの本音や失言、暴言を集めたアンソロジーです。名作を生み出し、歴史に名を残した作家といえども、言葉選びを誤ることもしばしば。むしろ、必要以上に周囲を巻き込み、世間を騒がす問題に発展することもありました。
 師匠である佐藤春夫や井伏鱒二を作品内で皮肉って、大叱責を受けた太宰治。こき下ろした作家の弟子から決闘を申し込まれた、坂口安吾。雑誌の後記で、原稿料や各号の売れ行き、もうけの有無まで公開し続けた菊池寛。新聞社入社にあたり、教師時代の不満を新聞紙面にぶちまけた夏目漱石。「好きな人の夫になれないなら豚になる」と友人に漏らした、若き日の谷崎潤一郎……。
 収録したのは、明治から昭和にかけて活躍した、誰もが知る大作家の逸話。問題発言を含む随筆や手紙、日記、知人らの回想文などから、作家たちの言動を探りました。大作家による、人間味あふれるぶっ飛び発言の数々。楽しんで読んでいただけると、うれしく思います。
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[目次]
 はじめに
 第一章 口がすべって大目玉をくらう
  一、佐藤春夫を皮肉って大目玉をくらう太宰治
  二、井伏鱒二を怒らせて平身低頭の太宰治
  三、兄を呆れさせて恐縮する太宰治
 第二章 酒が入ってうっかり失言
  一、酔ってついつい暴言が出る中原中也
  二、坂口安吾の破天荒な飲みっぷり
  三、酒癖が悪すぎて顰蹙を買いまくる漱石の弟子
  四、高村光太郎、酔ったせいか森鷗外を怒らせる
 第三章 原稿をめぐるいざこざ
  一、編集者と作家の攻防
  二、文芸の商業化に苦言を呈する佐藤春夫
  三、作家兼編集者たちの驚きの言動
 第四章 愚痴や文句が喧嘩に発展
  一、漱石の愚痴と癇癪
  二、夏目漱石対自然主義作家たち
  三、同業者をこき下ろす作家たち
  四、菊池寛に企画をパクられたと怒る北原白秋
 第五章 性愛がらみの問題発言
  一、谷崎潤一郎の自由過ぎる性愛
  二、軽はずみな発言を連発する芥川龍之介
  三、遊びのつもりが痛い目に合う石川啄木
 引用出典・参考文献

解説が長々書いてあるわけではなく、作家本人の作を抜粋で並べたいわゆるアンソロジーです。

光太郎に関しては、大正6年(1917)の「軍服着せれば鷗外だ事件」。明治30年代(1900年前後)、光太郎が東京美術学校在学中に美学の講師として同校の教壇に立ち、その頃から権威的な態度に反発心を抱いていた鷗外のことを、鷗外の居ない酒の席で茶化したというものです。いつの時代にもそういうことをチクる奴はいるもので、それが鷗外の耳に入り、鷗外激怒(笑)、光太郎を呼びつけて説教という流れです。

引用されているのはこの件に触れた、鷗外の「観潮楼閑話」二篇と、昭和13年(1938)に光太郎が川路柳虹と行った対談「鷗外先生の思出」の一節です。

一昨年、文京区立森鷗外記念館さんで開催された特別展「鷗外遺産~直筆原稿が伝える心の軌跡」の際には、鷗外に呼びつけられる前に光太郎が鷗外に宛てた新発見の書簡が展示されました。これも収録されていれば完璧でしたが、さすがにそこまでは手が廻らなかったようです。

他の「文豪」たちのクズっぷりもなかなか笑えます。そうかと思うと「いやいや、この発言はもっともだ」というものもあったりです。人間味溢れるこうしたエピソードに触れることで、彼らがより身近に感じられるのではないでしょうか。

ご興味おありの方、ぜひお買い求めを。

【折々のことば・光太郎】

草野心平君が歴程社といふ書房を始め、小生の「猛獣篇」を一冊として出したいといつて来ました。これは草野君のこと故承諾する気です。


昭和21年(1946)7月6日 宮崎稔宛書簡より 光太郎64歳

中国から無事帰還した当会の祖・草野心平。早速、出版に情熱を燃やしていました。連作詩「猛獣篇」を一冊にまとめるという構想は戦前からありましたし、この書簡にあるように戦後にも持ち上がったのですが、結局実現したのは光太郎存命中ではなく、没後の昭和37年(1962)でした。