このところ少し前に刊行された書籍の紹介を続けて参りましたが、本日ご紹介するのは今月出た新刊です。

大人もときめく国語教科書の名作ガイド

2023年12月25日 山本茂喜 著 野宮レナ イラスト 東洋館出版社 定価1,350円+税

大人になった今だからこそ味わいたい、国語教科書の知られざる魅力

子どもの頃に誰もが読んだ国語教科書は、古今東西の名作を集めた珠玉のアンソロジーだった!長らく国語教育に携わった著者独自の審美眼で選んだ「大人もときめく」作品の数々。定番教材から知る人ぞ知る教材まで、授業では教わらなかった読み方や作品背景、よもやま話が満載。もう一度教科書作品を読み直したくなること不可避な、あの頃に戻れるブックガイド。

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目次
 はじめに
 第1章 「そのとき、胸の中で何かがはじけた」~初恋の日に戻れたら~
  1 初恋が心の中ではじけるとき/「赤い実はじけた」
  2 傷つきやすいあの子の思い出/「赤い実」
  3 雪国のラブロマンス/「わらぐつの中の神様」
  4 初恋の相手は先生だった? /「一房の葡萄」
  5 人生を照らす光の戯れ/「バッタと鈴虫」
  番外編 初恋は林檎の香り/「初恋」
 第2章 「あなたの指をお染めなさい」~扉の向こうは不思議なときめき~
  1 心の窓に映るもの/「きつねの窓」と「めもあある美術館」
  2 蝶なの? それとも…… /「白いぼうし」
  3 幻燈会の夜に/「雪わたり」と「やまなし」
  4 文豪の熱烈なラブレター/「杜子春」
 第3章 「ごん、お前だったのか」~愛おしい動物たちのお話~
  1 届かなかった思いとは/「ごんぎつね」
  2 究極の愛の形? /「スーホの白い馬」
  3 無償の愛ってなに? /「幸福の王子」
  4 穴に落ちた小さな命「ろくべえ まってろよ」
  5 大空翔る「えらぶつ」よ/「大造じいさんとがん」
  6 象たちの死が訴えるもの/「かわいそうなぞう」と「そしてトンキーも死んだ」
  7 きつねざくらが咲くとき/「チロヌップのきつね」
 第4章 「そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな」~遠ざかる思い出はセピア色~
  1 蝶は見つめていた/「少年の日の思い出」
  2 光り輝くマロニエの木/「モチモチの木」
  3 雪の夜にやってくるもの/「かさこじぞう」
  4 コスモスに託した思い/「一つの花」
 第5章 「そんなにもあなたはレモンを待っていた」~文豪もときめきがお好き~
  1 愛する人に捧げます/「レモン哀歌」
  2 あなたの魂、私があがなう/「銀の燭台」
  3 瞳に映った私の姿/「白」と「どろんこハリー」
  4 ベルリンの雪に消えた愛/「舞姫」
 おわりに

著者の山本氏、中高の国語科教諭を経て、現在は香川大学さんの名誉教授であらせられるそうです。「国語教科書はすぐれたアンソロジー」とし、小学校用から高校用まで、かつての教科書に掲載されていた(今も掲載されている)文学作品のうち、「「ときめき」を感じる」ものをセレクトし、作品の一部抜粋とあらすじ紹介、作品解説、さらに山本氏によるそれぞれの作品をテーマとした短歌が添えられています。

小中校生の頃には十分にわからなかったそれぞれの作品の世界観も、大人になってから読み返すと「なるほど、そういうことだったか」と、新たな発見に繋がるでしょう、というわけですね。

また、版元のサイトにこんな記述。「たとえタイトルやあらすじを忘れていても、「クラムボン」や「エーミール」などの言葉が引き金となって、当時の思い出がよみがえってくることがあるのではないでしょうか。」なるほど、「あるある」ですね(笑)。

版元サイトと言えば、本書のイラストを担当された野宮レナ氏による漫画が掲載されています。
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で、光太郎詩「レモン哀歌」(昭和14年=1939)。「レモン哀歌」を含む第5章の章題が「「そんなにもあなたはレモンを待っていた」~文豪もときめきがお好き~」と、「レモン哀歌」冒頭の一文を使って下さいました。

過日ご紹介した『賢治学+(プラス)【第3集】』所収の中里まき子氏、エリック・ブノワ氏による講演録「高村光太郎と宮沢賢治の喪のエクリチュール:『智恵子抄』仏訳体験に触れながら」同様、賢治の002「永訣の朝」との対比など、的確に論じて下さっていますし、智恵子の顔を持つ「十和田湖畔の裸婦群像(通称・乙女の像)」や、当方もお世話になっています信州安曇野の碌山美術館さん等にも触れられています。

ちなみに「レモン哀歌」、現在でも東京書籍さんで発行されている中学校3年生用の教科書『新しい国語 3』に掲載されています。これは今後とも外さずに採択され続けてほしいものですね。

というわけで、『大人もときめく国語教科書の名作ガイド』、ぜひお買い求め下さい。

【折々のことば・光太郎】

人家まで三丁位は離れてゐる此の小屋に雪をふんで鼠がもう来たのには驚きました。どうして探知するのでせう。


昭和21年(1946)1月18日 水野葉舟宛書簡より 光太郎64歳

前年秋から暮らし始めた花巻郊外旧太田村の山小屋(高村山荘)。鼠たちはこの後も奇妙な同居人(人ではありませんが)として居座り続けます。

翌年に詠まれた短歌に曰く

わが前にとんぼがへりをして遊ぶ鼠の来ずて夜を吹雪くなり