9月に刊行された、当会の祖・草野心平がらみです。価格が価格なので、入手していませんが……。

【文学・言語研究資料シリーズ4】『草野心平研究資料集』第1回配本 全3巻

2023年9月30日(土) 澤正宏編 クロスカルチャー出版 定価  99,000円(税込)

 宮澤賢治や中原中也を世に送り出しことで有名な詩人草野心平の生誕120周年、没後35周年記念出版。

 草野心平の詩、翻訳詩、随筆、評論、書評などを詩誌、雑誌、選詩集などに掲載された「初出形」で復刻。全集未収録の資料も網羅。

 「この資料集では、草野心平の戦後から没年までの著作も視野に入れて、彼が前衛的な詩人、アナキズムの詩人から、軍国主義に屈服し、戦争協力の詩を書いた詩人へと変貌した後、どう自分を立て直したかをたどれるよう、資料を収集しました」(澤 正宏「刊行にあたって」)。翻訳詩を含む詩約440篇、随筆、評論、書評など110本を全3巻に収載。第2巻の巻末には編集・解題者による小論、「表現者としてのアナキスト―草野心平とモダニズム詩 /プロレタリア詩」(13頁) と解題[書誌](75頁)を、第3巻の巻末に解題[書誌](43頁)を付しました。
 内容見本の推薦文には今や世界的な詩人の和合亮一氏が寄稿してくれました。気品ある文章で、「新しいまなざしと問いかけに満ちた、確かなシリーズの登場」と賛辞を送っています。和合亮一氏は心平詩の優れた読み手ですが、ここではまた、澤ー和合の師弟のまじわりにも触れて美しく語られています。

【特色】
❶草野心平が戦前、戦中、戦後のなかで発表した詩、うた、小説、童話、訳詩、詩論、評論、随筆、書評、解説、座談会などといった著作、発言などを、それらが発表された、ちょうど日本に「現代」が始まった時期〔著作は1923(大正12)年発表の時点より掲載〕から、心平が逝去する1988年までにおいて復刻・掲載。基本的にはすべて詩誌、雑誌、選詩集などに掲載されたときの「初出形」で復刻した。

❷第1巻・第2巻の『「詩篇・詩画集」』編では、中国からの帰国(戦前)前後に発表した詩を、現在では稀覯の詩誌である『想苑』『帆船』『毒草』『近代詩歌』『亞細亞詩脈』『北ヰ五十度』などより復刻することから始め、戦中では、戦時下の南京で刊行した、これも稀覯雑誌である『黄鳥』に掲載した詩などを復刻し、戦後では、稀覯書としては詩誌『至上律』、絵本『キンダーブック』、雑誌『造型文学』などから、それらに掲載の詩、「うた」などを復刻した。とくに草野心平とD・L・BLOCH(中国名・白緑黑)との共著である『黄包車(わんぽつ) 上海の黄包車に関する木版画六十』は、全集未収録の詩画集であり貴重である。

❸第3巻には、これまで全貌がつかめなかった戦前から戦中にかけての訳詩の殆どを、『アメリカプロレタリア詩集』(1929、31年)や詩誌などから選び復刻する(草野心平はカール・サンドバーグの訳詩や解説が多い)。また、この時期のプロレタリア詩やアナキズム詩に関わる詩論や、宮澤賢治、尾形亀之助、山村暮鳥、村山槐多らに関する評論、まとまっては読めなかった作家や詩人たちと、戦中、戦後に様々なテーマで行った座談会、その他、拾遺詩篇、随筆、書評、童話なども復刻。

第 1 巻 詩 1923(大正 12)年~ 1944(昭和 19)年
第 2 巻 詩 1946(昭和 21)年~ 1975(昭和 50)年
第 3 巻 翻訳詩 評論 詩論 随筆 書評 選評 編集後記 覚書 報告文など
1925(大正 14)年~ 1975(昭和 50)年
003
005
006
編者の澤正宏氏には、智恵子の故郷・福島二本松で開催された「高村智恵子没後80年記念事業 全国『智恵子抄』朗読大会」などでお世話になっております。

ちとわかりにくいのですが、「第1回配本」で「全3巻」と謳われており、第2回配本以降もあるのかな、という感じです。版元のサイトで目次を拝見したところ、昭和50年(1975)までの作品の集成でそれ以後のものが収められていませんし、上記【特色】に記述がある「童話」も見あたりませんでしたので。

心平の「全集」と称するものは既に昭和50年代に全12巻で筑摩書房さんから刊行されています。しかし「全集」とは言う定、全ての文筆作品を網羅しているわけではなく、共著を除き単行書として刊行された心平の著書を、第1巻には何々から、第2巻にはこれこれからという感じで紀伝体的に収録しているので、雑誌等に発表しただけの詩文は洩れています。また、心平生前の刊行ですので、晩年の詩文も当然入っていません。いわば「選集」です。

今回の『草野心平研究資料集』は、それらの補遺等を目論んでジャンル毎に編年体での編集を採られているようです。これにより、一般に知られていなかった作品にもスポットがあたり、心平の全貌にかなり近づけると思われます。

また、当方としましても、光太郎に触れた詩文も数多く残していますので、ありがたいかぎりです。

公共図書館さん、大学さん等でぜひ買いそろえていただければ、と存じます。

【折々のことば・光太郎】

心を低くし精神を高くすれば人生は立派です。日常の些事を大切にすれば人生は豊富になります。


昭和21年(1946)1月17日 宮崎春子宛書簡より 光太郎64歳

前月、光太郎が仲介して詩人の宮崎稔と結婚した、智恵子の姪・春子宛の書簡から。結婚生活の心構え、的な感じでしょうか。簡単なようで難しいことを要求しているような気もしますが(笑)。