光太郎の名が出た新聞記事を2件。
まずは昨日の『千葉日報』さん。銚子市ジオパーク・芸術センターさんで開催中の「ぎょうけい館資料展」の紹介です。
続いて『朝日新聞』さん、12月13日(水)夕刊。
文春、このミス、ミス読み1位、本ミス2位と圧倒的な支持を集めたのが米澤穂信「可燃物」(文藝春秋)。群馬県警捜査第一課の葛(かつら)警部を探偵役にした五つの事件が並ぶ。意外な凶器を扱った「崖の下」に始まり、動機探しや犯人当てなど、一編ごとに異なる趣向を施した謎解きのショーケース。著者初の警察ミステリーとのふれこみだが、組織内部のさや当てを描くような警察小説ではない。現実の捜査機関を使い、わかりやすく手がかりを提示することで、読み手に純粋な知恵比べを挑む。超常現象や未来技術を使った特殊設定ミステリーへの一つの回答とも言えよう。
文春2位の東野圭吾「あなたが誰かを殺した」(講談社)も刑事が探偵役。ガリレオと並ぶ人気シリーズ探偵、加賀恭一郎ものの新作は別荘地で起きた一夜の連続殺人に始まる。犯人はすぐに逮捕されるが詳細を黙秘。被害者遺族が真相解明のために開いた会合に立会人として参加した加賀は、生存者の証言を一つひとつ検証していく。遺族それぞれが抱える秘密を小さな矛盾からあらわにし、事件の全容に迫っていくプロセスが鮮やかだ。
一方、このミス2位、百鬼夜行シリーズ17年ぶりの長編となる京極夏彦「鵼(ぬえ)の碑(いしぶみ)」(講談社)は日光を主舞台に、「姑獲鳥の夏」からの面々が関わる五つの物語が並走する。とらえどころのない鵼そのままにもつれあう展開は、まさに本格ものの土台を揺さぶるアンチ・ミステリー。読み手を謎迷宮に誘う。
ベテラン勢が上位を占めるなか、ロジックの大伽藍(がらん)を築いて本ミス1位となったのが鬼才、白井智之の「エレファントヘッド」(KADOKAWA)。精神科医が謎の薬を手にしたことで幸福な家族に悲劇が起きるのだが、猟奇的な不可能犯罪の連打、薬に端を発するぶっとんだ特殊設定、そこから生み出される多重推理を経ての合理的解決まで、冒頭から1行たりとも読み飛ばせない。持ち味のグロさ満載なのに、なんと美しい本格ミステリーなのかとため息をつく。
気鋭でいえば、文春、このミス2位の井上真偽「アリアドネの声」(幻冬舎)も収穫。大地震により地下5階に取り残された「見えない、聞こえない、話せない」女性を地上へと救出するタイムリミット・サスペンス。手に汗握る展開と、ラストの衝撃が心に残る。
このミス、本ミス10位の荒木あかね「ちぎれた鎖と光の切れ端」(講談社)は昨年の江戸川乱歩賞受賞者の新作。クリスティの二つの有名作品へのオマージュを二部構成で展開する。前半は孤島ものの本格ミステリー、後半は連続殺人をめぐるサスペンスでありながら、共通する謎に別解を提示する意欲的な作りになっている。
本格好きの記者のベストは白井作品だが、偏愛の一冊が柳川一「三人書房」(東京創元社)。江戸川乱歩になる前の平井太郎が、周りで起きた不思議な事件の数々を解き明かす。同時代を生きた宮沢賢治、宮武外骨、高村光太郎ら著名人の登場も楽しい。「二銭銅貨」発表から百年の節目にふさわしい、乱歩ファン必読の連作短編集だ。
残念ながら各種ランキング上位には漏れたようですが、柳川一氏『三人書房』を番外編として紹介して下さいました。
記事には「乱歩ファン必読」とありますが、光太郎ファンも必読ですのでよろしくお願いいたします。
【折々のことば・光太郎】
山小屋周囲積雪すでに三尺平均に及び、郵便屋さんも時々休みます。いよいよ冬籠りです。燈火なきため夜間執筆は不能です。蠟燭入手さへ困難な状態ですから。 夜は柴を焚いて暖と光とをとります。
激動の昭和20年(1945)も、こうして暮れて行きました。
まずは昨日の『千葉日報』さん。銚子市ジオパーク・芸術センターさんで開催中の「ぎょうけい館資料展」の紹介です。
伊藤博文ら著名人も訪れる 閉館の老舗宿、歩みに光 銚子「ぎょうけい館」30点展示で回顧
明治期に創業し、1月末に閉館した銚子市犬吠埼の老舗旅館「ぎょうけい館」の歩みを紹介する企画展が、市ジオパーク・芸術センターで17日まで開かれている。昔の写真や館内に飾られていた美術品など約30点を展示している。
展示などによると、海に臨む旅館からの絶景は多くの人々を魅了。伊藤博文や島崎藤村、国木田独歩、高村光太郎ら著名人も訪れたという。企画展は、閉館後に同旅館から市に寄贈された資料を活用した。
大正から昭和に全国各地の鳥瞰(ちょうかん)図を手がけた吉田初三郎の作品「銚子遊覧交通名勝鳥瞰図」は、かつて館内の食堂や受付に飾られた。同旅館と犬吠埼灯台を含む名所や街並みが描かれている。
旅館の外観写真展示では、明治後期の趣ある日本家屋風から平成以降の白い建物に至る変遷をたどれる。パンフレットや、ゆかりの文人の作品も紹介している。
我孫子市から夫と来場した田口美由紀さん(65)は同旅館を繰り返し訪れていたといい「海の景色がきれいで料理もおいしいし、温かいスタッフばかりだった。飾ってあったものも見られて懐かしい」と話した。
観覧無料、午前9時~午後5時。問い合わせは銚子資産活用協議会事務局(市教委文化財・ジオパーク室)(電話)0479(21)6662。
同展、会期が明日まででして、もう少し早く紹介してくれれば良かったのに、という感じではありますが……。続いて『朝日新聞』さん、12月13日(水)夕刊。
目立つ「本格」、刑事と挑む謎解き ミステリー小説ランキング、紹介
年末の風物詩、ミステリー小説のランキングが出そろった。主なランキング(「週刊文春ミステリーベスト10」「このミステリーがすごい!」「本格ミステリ・ベスト10」「ミステリが読みたい!」)の上位作品には、謎解きプロセスの純度が高い「本格」作品が目立つ。文春、このミス、ミス読み1位、本ミス2位と圧倒的な支持を集めたのが米澤穂信「可燃物」(文藝春秋)。群馬県警捜査第一課の葛(かつら)警部を探偵役にした五つの事件が並ぶ。意外な凶器を扱った「崖の下」に始まり、動機探しや犯人当てなど、一編ごとに異なる趣向を施した謎解きのショーケース。著者初の警察ミステリーとのふれこみだが、組織内部のさや当てを描くような警察小説ではない。現実の捜査機関を使い、わかりやすく手がかりを提示することで、読み手に純粋な知恵比べを挑む。超常現象や未来技術を使った特殊設定ミステリーへの一つの回答とも言えよう。
文春2位の東野圭吾「あなたが誰かを殺した」(講談社)も刑事が探偵役。ガリレオと並ぶ人気シリーズ探偵、加賀恭一郎ものの新作は別荘地で起きた一夜の連続殺人に始まる。犯人はすぐに逮捕されるが詳細を黙秘。被害者遺族が真相解明のために開いた会合に立会人として参加した加賀は、生存者の証言を一つひとつ検証していく。遺族それぞれが抱える秘密を小さな矛盾からあらわにし、事件の全容に迫っていくプロセスが鮮やかだ。
一方、このミス2位、百鬼夜行シリーズ17年ぶりの長編となる京極夏彦「鵼(ぬえ)の碑(いしぶみ)」(講談社)は日光を主舞台に、「姑獲鳥の夏」からの面々が関わる五つの物語が並走する。とらえどころのない鵼そのままにもつれあう展開は、まさに本格ものの土台を揺さぶるアンチ・ミステリー。読み手を謎迷宮に誘う。
ベテラン勢が上位を占めるなか、ロジックの大伽藍(がらん)を築いて本ミス1位となったのが鬼才、白井智之の「エレファントヘッド」(KADOKAWA)。精神科医が謎の薬を手にしたことで幸福な家族に悲劇が起きるのだが、猟奇的な不可能犯罪の連打、薬に端を発するぶっとんだ特殊設定、そこから生み出される多重推理を経ての合理的解決まで、冒頭から1行たりとも読み飛ばせない。持ち味のグロさ満載なのに、なんと美しい本格ミステリーなのかとため息をつく。
気鋭でいえば、文春、このミス2位の井上真偽「アリアドネの声」(幻冬舎)も収穫。大地震により地下5階に取り残された「見えない、聞こえない、話せない」女性を地上へと救出するタイムリミット・サスペンス。手に汗握る展開と、ラストの衝撃が心に残る。
このミス、本ミス10位の荒木あかね「ちぎれた鎖と光の切れ端」(講談社)は昨年の江戸川乱歩賞受賞者の新作。クリスティの二つの有名作品へのオマージュを二部構成で展開する。前半は孤島ものの本格ミステリー、後半は連続殺人をめぐるサスペンスでありながら、共通する謎に別解を提示する意欲的な作りになっている。
本格好きの記者のベストは白井作品だが、偏愛の一冊が柳川一「三人書房」(東京創元社)。江戸川乱歩になる前の平井太郎が、周りで起きた不思議な事件の数々を解き明かす。同時代を生きた宮沢賢治、宮武外骨、高村光太郎ら著名人の登場も楽しい。「二銭銅貨」発表から百年の節目にふさわしい、乱歩ファン必読の連作短編集だ。
残念ながら各種ランキング上位には漏れたようですが、柳川一氏『三人書房』を番外編として紹介して下さいました。
記事には「乱歩ファン必読」とありますが、光太郎ファンも必読ですのでよろしくお願いいたします。
【折々のことば・光太郎】
山小屋周囲積雪すでに三尺平均に及び、郵便屋さんも時々休みます。いよいよ冬籠りです。燈火なきため夜間執筆は不能です。蠟燭入手さへ困難な状態ですから。 夜は柴を焚いて暖と光とをとります。
昭和20年(1945)12月28日 竹之内静雄宛書簡より 光太郎63歳
激動の昭和20年(1945)も、こうして暮れて行きました。