コミック新刊です。
安西水丸が遺した最後の抒情漫画集 陽だまり
2023年8月21日 安西水丸著 講談社 定価1,800円+税 比類なき個性で日本のイラストレーション界をリードし、小説家、絵本作家、漫画家、エッセイスト、翻訳家としても多くの作品を残した異才にして多才の人・安西水丸さんが亡くなって9年が経ちます。
いまだに人気は衰えず、2021~22年に世田谷文学館他で開催された「安西水丸展」は、コロナ禍にもかかわらず連日行列ができるほどの盛況で、没後に刊行された著書は10冊を超えました。
その水丸さんは、晩年、小説現代に読み切り漫画を連載していましたが、急逝されたためシリーズは4本で中断してしまいました。作品は、いまだ伝説となっている水丸さんの漫画デビュー作『青の時代』の流れを汲み、抒情的で独特のエロティシズムに溢れています。
この4本の読み切り漫画に、水丸さんと関係が深かった方々、村上春樹さん、角田光代さん、平松洋子さん、柴門ふみさん、木内達朗さん、信濃八太郎さんの6人に、彼らだけが知る水丸さんの魅力を語ってもらったエッセイを合体させました。
ごくごくシンプルなのに誰にも似ていない。そんな安西水丸さんの魅力を再確認できる一冊です。
目次
『毎日新聞』さんの書評欄で知りました。
氏の漫画以外に、氏と親交のあった方々のエッセーが6本収録されていますが、その内のお一人、柴門ふみ氏など、世界観(視点に男女の相違がありますが)や絵柄等々、安西氏の影響を色濃く受けているかも知れないな、などと勝手なことを考えております。
ぜひお買い求め下さい。
【折々のことば・光太郎】
本気で全力を尽すほど強いものはありません、それはおのづから人に通じます、殊に芸術ではこれ以外に道がありません、ただ巧者だけでやる仕事は結局上手となるに過ぎません。人を動かすのは本気です。
なかなか身につまされる文言ですね。
目次
【漫画】
「陽だまり」
「陽だまり」
高村純、26歳。込山組の金融部門で、取り立て屋の品田老人について仕事をしている。純は、品田老人と2年の愛人契約を結んでいる女・加代と関係をもってしまったのだが……。
「アメンボ」
上川光一、32歳。売れない映像カメラマンだ。ある日、水難事故でおぼれかけた女を助けようとして負傷、不能になってしまう。事故の原因となった女・安美は責任を感じ、光一に尽くすのだが……。
「ボートハウス」
小西のぼるは15歳。退屈な夏休み、堀端のボートハウスでアルバイトをしている。バイト先には美佐子という気怠い空気をまとった年上の女がいた……。
「冬の客」
締め切りが迫った仕事を片付けるため、北海道石狩湾のとある海岸近くのペンションを借りた翻訳家。そこに、訳あり風の姉妹がやってきて……。
【エッセイ】
「安西水丸さんのこと」村上春樹
村上春樹さんと安西水丸さんの関係は、春樹さんが千駄ヶ谷で経営していたジャズ喫茶「ピーター・キャット」に、近所に住む水丸さんが通い出したことから始まり、1983年には、春樹さんの最初の短編集『中国行きのスロウ・ボート』の表紙を水丸さんの絵が飾っている。その後、お二人は「文・村上春樹、絵・安西水丸」という形で、『村上朝日堂』を始め多くの共著を世に送り出し、その関係は、水丸さんが世を去るまで続いた。
「安西水丸さんについてのエトセトラ」柴門ふみ
柴門ふみさんはお茶の水女子大在学中から、安西水丸さんと交流があり、水丸さんのエッセイ集『青山の青空』(新潮文庫)では、巻末の特別対談に登場している。
「安西水丸さんのイラストレーション」木内達朗
木内達朗さんは、安西水丸さんが「東京イラストレーターズ・ソサエティ」の理事長を務めた時代の理事の一人であった。著書に、絵本『いきもの特急カール』(岩崎書店)、漫画『チキュウズィン 』などがあり、水丸さん同様、多才なイラストレーターである。
「毒舌と余白」角田光代
角田光代さんは、安西水丸さんが部長を務めていた「カレー部」の部員として、都内各所の美味しいカレー屋さんで舌鼓を打ち、日本酒を痛飲して、愉快な時間を過ごしていた。
「角鉢のなかの風景」平松洋子
平松洋子さんの食を楽しみ、食を哲学する絶品エッセイ『ひさしぶりの海苔弁』『あじフライを有楽町で』では、安西水丸さんが挿絵を担当している。
「安西先生のこと」信濃八太郎
信濃八太郎さんは、大学在学中に安西水丸さんの薫陶を受けて、イラストレーターを志す。水丸さんの没後、WOWOWで放送されている映画番組「W座からの招待状」のナビゲーター役を引き継いでいる。
『毎日新聞』さんの書評欄で知りました。
『安西水丸が遺した最後の抒情漫画集 陽だまり』(講談社ビーシー/講談社・1980円)
ほのぼのとした画風で没後も人気のイラストレーター・安西水丸は、雑誌『ガロ』でデビューした漫画家でもあった。小説誌に晩年掲載された4本の漫画に、親交のあった村上春樹、柴門ふみ、角田光代、平松洋子の各氏らのエッセーを収録した。
「抒情漫画」とされるが、水丸作品は異様なエロチシズムが哀愁をかもし出す一種独特なもの。表題作ではボクサー崩れの若者と年上の女性とのつかの間の交情を描く。女性は怪しい素性の老人の愛人であり、若者はその老人と「取り立て屋」の仕事での付き合いがある。社会の影の部分で生きる人々だが、若者は高村光太郎の詩を愛唱してもいる。
「アメンボ」でも主人公の映像カメラマンは、ポルノ映画の撮影中に中原中也の詩を口ずさむ。15歳の少年による夏休みのバイト先での体験を描く「ボートハウス」、翻訳家の男が仕事で借りた北海道のペンションが舞台の「冬の客」は 、背景をなす季節の風光が鮮やかだ。
猫好きで知られる村上氏に対し、コンビで数々のイラスト付きエッセーを世に送り出した水丸氏は「犬と猫が大の苦手」だったという。そんな逸話が読めるのも楽しい。
というわけで、4篇の漫画のうち、表題作「陽だまり」で、光太郎詩「冬が来た」(大正3年=1914発表)がモチーフの一つに。
初出は平成20年(2008)、『小説現代特別編集 不良読本』だそうで、15年前ですね。安西氏が亡くなったのは平成26年(2014)、その際には「ありゃま」という感じでしたが、この作品が描かれていたことは存じませんでした。猫好きで知られる村上氏に対し、コンビで数々のイラスト付きエッセーを世に送り出した水丸氏は「犬と猫が大の苦手」だったという。そんな逸話が読めるのも楽しい。
というわけで、4篇の漫画のうち、表題作「陽だまり」で、光太郎詩「冬が来た」(大正3年=1914発表)がモチーフの一つに。
氏の漫画以外に、氏と親交のあった方々のエッセーが6本収録されていますが、その内のお一人、柴門ふみ氏など、世界観(視点に男女の相違がありますが)や絵柄等々、安西氏の影響を色濃く受けているかも知れないな、などと勝手なことを考えております。
ぜひお買い求め下さい。
【折々のことば・光太郎】
本気で全力を尽すほど強いものはありません、それはおのづから人に通じます、殊に芸術ではこれ以外に道がありません、ただ巧者だけでやる仕事は結局上手となるに過ぎません。人を動かすのは本気です。
昭和19年(1944)6月20日 藤間節子宛書簡より
なかなか身につまされる文言ですね。