第616回毎日オークション 絵画・版画・彫刻
まずは光太郎。短冊にしたためられた書です。
書かれているのは短歌で、以下の通り。
爪きれば指にふき入る秋風のいとたへがたし朝のおばしま
明治43年(1910)の雑誌『スバル』に発表されたものです。
昨年、明治古典会さん主催の七夕古書入札市の一般下見展観に伺った際、やはりこの短歌がしたためられた短冊を見ましたが、別のものでした。どうも光太郎自信作だったのか、求められることが多かったのか、繰り返し同じ短歌を揮毫したようです。

金地絹本の短冊だそうですが、あまり保存状態は良くないようです。それでも予想落札価格は10万~15万。ただ、非常に味のある字で、もう少し行きそうな気もします。
続いて、光雲作品。

そして高村晴雲作品。
こちらは木彫。予想落札価格は20万~30万。これももう少し行ってもいいような気がします。光雲や東雲ほどのバリューがないということなのでしょうか。作品自体は穏健な作風の、非常にいいお顔をされた西王母です。
それぞれ、おさまるべきところにおさまってほしいものです。
【折々のことば・光太郎】
詩の翻訳は結局不可能である。意味を伝へ、感動を伝へ、明暗を伝へる事位は出来るかも知れないが、原(もと)の「詩」はやはり向うに残る。其を知りつつ訳したのは、フランス語を知らない一人の近親者にせめて詩の心だけでも伝へたかつたからである。
雑纂「訳書『明るい時』序文」より 大正10年(1921) 光太郎39歳
言わずもがなですが、「フランス語を知らない一人の近親者」は智恵子です。