新刊系2冊ご紹介いたします。
まずは山梨県の中央線社さんから発行されている同人誌『中央線』の第79号。
文芸誌というわけではなく、広く社会評論なども掲載されており、「総合同人誌」と銘打たれています。主に山梨県にご在住だったり、同県ご出身だったりという方々が寄稿されているようです。韮崎市ご出身で、平成27年(2015)にノーベル生理学・医学賞を受賞された大村智博士の玉稿も掲載されています(というか、大村氏が「発行人」ということになっています)。また、当方、4年近く同県に居住していたことがあり、執筆者の皆さんのお名前を見て、「ああ、甲州特有の苗字だな」などと思いました。
閑話休題、やはり韮崎市ご出身で、太平洋美術会(智恵子が籍を置いていた太平洋画会の後身)に所属されている坂本富江氏による「甲州の森の詩人 野澤一という人」が掲載されています。
野澤一は、現在の笛吹市出身の詩人で、市川三郷町の四尾連(しびれ)湖畔に山小屋を建て、独居自炊の生活を送った時期もありました。光太郎に私淑し、ほぼ一方的に光太郎へ膨大な書簡を送り続け、光太郎もその得意な才に注目し「大龍の訪れ」と評しました。戦後になっての光太郎の花巻郊外旧太田村の山小屋での蟄居生活、他にもそういう人物はいましたが、野澤の影響もあったのではないかと思われます。
坂本氏の稿は、そうした野澤と光太郎の関わりなどを論じたものとなっています。地元の皆さんに、地元出身ながら忘れられかけている先駆者の業績を紹介するという意味で、意義あるものと思われます。
奥付画像を載せておきますので、ご興味のおありの方、連絡先まで。
もう一冊、新刊、というより復刊です。
伝説の参考書『現代文解釈の基礎』の姉妹編、待望の復刊! 70の文章を読解し、言葉を「考える」ための、一生モノの力を手に入れよう。解説 読書猿。
元版は、昭和35年(1960)。さらに今回の底本となった新訂版は昭和54年(1979)、中央図書出版さんから刊行されています。
元々は高校生向けの現代文参考書と思われますが、「日本語の教養を身につけたい全ての人へ」というキャッチコピーで、文庫判で覆刻したものです。昨年には姉妹編の「着眼と考え方 現代文解釈の基礎〔新訂版〕」が覆刻されて、意外と話題になったようで、二匹目のドジョウを狙ったと見えます。
光太郎の「気について」という散文が取り上げられています。昭和14年(1939)、雑誌『蛮』に掲載され、2年後に評論集『美について』に収録されました。そこで、本書では「美について」の題で掲載されていますが、正しくは「気について」です。「気」は、「気韻生動」などの「気」です。
類題の形を取り、全文(200字余りの短いもの)を5つに分けてバラバラに配置し、正しい順番に並べ替えよ、ということになっています。原題が「気について」であるということがわかっていれば、容易に正解にたどり着けます。しかし、提示されている題は「美について」。これだとちょっと迷いますね。それを狙ってあえて「美について」の題にしたのか、それとも単なる誤植の類なのか、著者のお二方が既に鬼籍に入っており、確かめようがありませんが。
元版が60年以上前ですが、大学入試共通テスト対策等にもまだ充分使えそうですし、筑摩書房さんの狙い通り、一般の読者にも有益な書物といえるような気がします。ぜひお買い求めを。
【折々のことば・光太郎】
神経痛少〻いたむ。多くベッドにゐる、 家政婦さんよくはたらく、
「家政婦さん」はこの2日前から来てくれるようになった堀川スイ子。その前に雇っていた家政婦さんが今一つだったそうで、新しく雇い、今度は光太郎のお気に召したようで、その最期までを看取ってくれました。
翌年、光太郎が歿した直後に発行された『文芸 臨時増刊 高村光太郎読本』に、堀川による「高村先生の思ひ出」という飾らない文章が掲載されています。
まずは山梨県の中央線社さんから発行されている同人誌『中央線』の第79号。
文芸誌というわけではなく、広く社会評論なども掲載されており、「総合同人誌」と銘打たれています。主に山梨県にご在住だったり、同県ご出身だったりという方々が寄稿されているようです。韮崎市ご出身で、平成27年(2015)にノーベル生理学・医学賞を受賞された大村智博士の玉稿も掲載されています(というか、大村氏が「発行人」ということになっています)。また、当方、4年近く同県に居住していたことがあり、執筆者の皆さんのお名前を見て、「ああ、甲州特有の苗字だな」などと思いました。
閑話休題、やはり韮崎市ご出身で、太平洋美術会(智恵子が籍を置いていた太平洋画会の後身)に所属されている坂本富江氏による「甲州の森の詩人 野澤一という人」が掲載されています。
野澤一は、現在の笛吹市出身の詩人で、市川三郷町の四尾連(しびれ)湖畔に山小屋を建て、独居自炊の生活を送った時期もありました。光太郎に私淑し、ほぼ一方的に光太郎へ膨大な書簡を送り続け、光太郎もその得意な才に注目し「大龍の訪れ」と評しました。戦後になっての光太郎の花巻郊外旧太田村の山小屋での蟄居生活、他にもそういう人物はいましたが、野澤の影響もあったのではないかと思われます。
坂本氏の稿は、そうした野澤と光太郎の関わりなどを論じたものとなっています。地元の皆さんに、地元出身ながら忘れられかけている先駆者の業績を紹介するという意味で、意義あるものと思われます。
奥付画像を載せておきますので、ご興味のおありの方、連絡先まで。
もう一冊、新刊、というより復刊です。
2022年12月10日 遠藤嘉基/渡辺実 著 筑摩書房(ちくま学芸文庫) 定価1,500円+税
伝説の参考書『現代文解釈の基礎』の姉妹編、待望の復刊! 70の文章を読解し、言葉を「考える」ための、一生モノの力を手に入れよう。解説 読書猿。
元版は、昭和35年(1960)。さらに今回の底本となった新訂版は昭和54年(1979)、中央図書出版さんから刊行されています。
元々は高校生向けの現代文参考書と思われますが、「日本語の教養を身につけたい全ての人へ」というキャッチコピーで、文庫判で覆刻したものです。昨年には姉妹編の「着眼と考え方 現代文解釈の基礎〔新訂版〕」が覆刻されて、意外と話題になったようで、二匹目のドジョウを狙ったと見えます。
光太郎の「気について」という散文が取り上げられています。昭和14年(1939)、雑誌『蛮』に掲載され、2年後に評論集『美について』に収録されました。そこで、本書では「美について」の題で掲載されていますが、正しくは「気について」です。「気」は、「気韻生動」などの「気」です。
類題の形を取り、全文(200字余りの短いもの)を5つに分けてバラバラに配置し、正しい順番に並べ替えよ、ということになっています。原題が「気について」であるということがわかっていれば、容易に正解にたどり着けます。しかし、提示されている題は「美について」。これだとちょっと迷いますね。それを狙ってあえて「美について」の題にしたのか、それとも単なる誤植の類なのか、著者のお二方が既に鬼籍に入っており、確かめようがありませんが。
元版が60年以上前ですが、大学入試共通テスト対策等にもまだ充分使えそうですし、筑摩書房さんの狙い通り、一般の読者にも有益な書物といえるような気がします。ぜひお買い求めを。
【折々のことば・光太郎】
神経痛少〻いたむ。多くベッドにゐる、 家政婦さんよくはたらく、
昭和30年(1955)9月23日の日記より 光太郎73歳
「家政婦さん」はこの2日前から来てくれるようになった堀川スイ子。その前に雇っていた家政婦さんが今一つだったそうで、新しく雇い、今度は光太郎のお気に召したようで、その最期までを看取ってくれました。
翌年、光太郎が歿した直後に発行された『文芸 臨時増刊 高村光太郎読本』に、堀川による「高村先生の思ひ出」という飾らない文章が掲載されています。