新刊です。
今宵は誰と -小説の中の女たち-
2019年6月23日 喜国雅彦著 双葉社 定価1,600円+税安部公房の『砂の女』、太宰治の『女生徒』、ツルゲーネフの『はつ恋』、S・キングの『ミザリー』など──名作に登場する個性的で魅力的な女性たちが、もし自分の夢に登場したら……独自の視点でブンガクのおもしろさを描く、全く新しい文芸漫画。
目次
第一話 砂にまみれた女 『砂の女』 安部公房
第二話 目覚めない女 『眠れる美女』 川端康成
第三話 無垢ゆえに大胆な女 『潮騒』 三島由紀夫
第四話 初めてには手強すぎる女 『はつ恋』 ツルゲーネフ
第五話 男の憎しみを吸う女 『痴人の愛』 谷崎潤一郎
第六話 レモンを噛む女 『智恵子抄』 高村光太郎
第七話 空を舞う女 『夢鬼』 蘭郁二郎
第八話 裏表がある女 『女生徒』 太宰治
第九話 聖書に背く女 『瓶詰地獄』 夢野久作
第十話 二人の女 『青い麦』 コレット
第十一話 胸に字を書く女 『芋虫』 江戸川乱歩
第十二話 すれ違った女 『外科医』 泉鏡花
第十三話 無言の女 『幻の女』 W・アイリッシュ
第十四話 弁当箱がほしい女 『二十四の瞳』 壺井栄
第十五話 目玉を愛する女 『眼球譚』 C・バタイユ
第十六話 肌を競う女 『銀の匙』 中勘助
第十七話 匂い立つ女 『郵便配達は二度ベルを鳴らす』 J・M・ケイン
第十八話 書き直させる女 『ミザリー』 S・キング
第十九話 オリーブオイルを使う女 『夕暮れまで』 吉行淳之介
第二十話 残り香の女 『蒲団』 田山花袋
第二十一話 詩を要求する女 『ゲーテ詩集』 ゲーテ
第二十二話 洞窟の女 『トム・ソーヤーの冒険』 M・トウェイン
第二十三話 喜びをみつける女 『少女パレアナ』 E・ポーター
第二十四話 母という女 『泥の河』 宮本輝
第二十五話 強くて弱い女 『サマータイム・ブルース』 S・パレツキー
あとがき
版元の双葉社さんから発行されている月刊誌『小説推理』に、平成28年(2016)から連載されている同名の漫画の単行本化です。
およそ文学とは無縁だった何の変哲もないサラリーマンである主人公の青年が、福島に転勤となり、引っ越し先のアパートで、前の住人が忘れていった安部公房作『砂の女』を何の気なしに読んだところ、すっかり文学にはまってしまい、文学好きな上司や居酒屋で知り合った女性に勧められ、さまざまな文学作品を読み進めるようになる、という設定です。
そして感受性豊かな主人公、毎回、読んだ作品の登場人物などがその夜の夢に現れ、自分も物語の世界に入り込んだり、時にオリジナルのストーリーと異なるハチャメチャな展開に巻き込まれたり……そこでうなされて目が覚めるのがお約束、というストーリー展開がなされます。
一話が8頁前後と短く、その限られたスペースでそれぞれの作品の魅力を伝えるのはさぞ大変だろうと思いつつ読みました。物書きの立場で言わせていただくと、原稿の依頼に対しては「あれも書きたい、これも入れたい」と、結局規定の字数ギリギリになることが多いもので、そう感じます。それでも作者の喜国氏、いつもうまくまとめています。
さて、第六話が「レモンを噛む女 『智恵子抄』 高村光太郎」。先述の『小説推理』の平成29年(2017)2月号に掲載されました。
主人公、詩集を読んだことがないそうで……取っつきにくいという先入観を抱きつつ、手に取ったのは新潮文庫版『智恵子抄』。
しかし……
ハナ水まで垂らし号泣してくれてありがとう、という感じです(笑)。
このあと、お約束の夢に智恵子が現れ、という展開になりますが、気になる方はぜひお買い求め下さい(笑)。
当方、全二十五話で取り上げられている作品のうち、半分ほどは若い頃に読んだ作品で、「そうそう」と思いながら読みました。3分の1ほどはあらすじは知っていたよ、という作品でしたが、細かな部分はよく知らず、「ああ、そうだったのか」という感じ。題名すら知らなかった作品もあり、こんな小説があったんだ、と思いました。ブックガイドとしても好著です。
それにしても、紹介文にあるとおり、「個性的で魅力的な女性たち」だから成り立つような気がします。男性だって、「個性的で魅力的」な人物はたくさんいるのですが……。やはり我々男性にとって、女性は「永遠の謎」なのです(笑)。ジェンダー論者のコワいおばさまたちは、こういう風潮がけしからん、と息巻きそうですが(笑)。
アンケート「詩界に就て」より 昭和2年(1927) 光太郎45歳
そっくりそのまま現代の詩壇に贈りたい言葉です(笑)。