新刊書籍です。
2019年3月15日 中川越著 新潮社 定価1,600円+税
浮気を疑われている、生活費が底をついた、原稿が書けない、酒で失敗をやらかした……。窮地を脱するため、追い詰められた文豪たちがしたためた弁明の書簡集。芥川龍之介から太宰治、林芙美子、中原中也、夏目漱石まで、時に苦しく、時に図々しい言い訳の奥義を学ぶ。
目次
はじめに
第一章 男と女の恋の言い訳
フィアンセに二股疑惑をかけられ命がけで否定した 芥川龍之介
禁じられた恋人にメルヘンチックに連絡した 北原白秋
下心アリアリのデートの誘いをスマートに断った言い訳の巨匠 樋口一葉
悲惨な環境にあえぐ恋人を励ますしかなかった無力な 小林多喜二
自虐的な結婚通知で祝福を勝ち取った 織田作之助
本妻への送金が滞り愛人との絶縁を誓った罰当たり 直木三十五
恋人を親友に奪われ精一杯やせ我慢した 寺山修司
歌の指導にかこつけて若い女性の再訪を願った 萩原朔太郎
奇妙な謝罪プレーに勤しんだマニア 谷崎潤一郎
へんな理由を根拠に恋人の写真を欲しがった 八木重吉
二心を隠して夫に潔白を証明しようとした恋のモンスター 林芙美子
禁じられた恋人にメルヘンチックに連絡した 北原白秋
下心アリアリのデートの誘いをスマートに断った言い訳の巨匠 樋口一葉
悲惨な環境にあえぐ恋人を励ますしかなかった無力な 小林多喜二
自虐的な結婚通知で祝福を勝ち取った 織田作之助
本妻への送金が滞り愛人との絶縁を誓った罰当たり 直木三十五
恋人を親友に奪われ精一杯やせ我慢した 寺山修司
歌の指導にかこつけて若い女性の再訪を願った 萩原朔太郎
奇妙な謝罪プレーに勤しんだマニア 谷崎潤一郎
へんな理由を根拠に恋人の写真を欲しがった 八木重吉
二心を隠して夫に潔白を証明しようとした恋のモンスター 林芙美子
第二章 お金にまつわる苦しい言い訳
借金を申し込むときもわがままだった 武者小路実篤
ギャラの交渉に苦心惨憺した生真面目な 佐藤春夫
脅迫しながら学費の援助を求めたしたたかな 若山牧水
ビッグマウスで留学の援助を申し出た愉快な 菊池寛
作り話で親友に借金を申し込んだ嘘つき 石川啄木
相手の不安を小さくするキーワードを使って前借りを頼んだ 太宰治
父親に遊学の費用をおねだりした甘えん坊 宮沢賢治
ギャラの交渉に苦心惨憺した生真面目な 佐藤春夫
脅迫しながら学費の援助を求めたしたたかな 若山牧水
ビッグマウスで留学の援助を申し出た愉快な 菊池寛
作り話で親友に借金を申し込んだ嘘つき 石川啄木
相手の不安を小さくするキーワードを使って前借りを頼んだ 太宰治
父親に遊学の費用をおねだりした甘えん坊 宮沢賢治
第三章 手紙の無作法を詫びる言い訳
それほど失礼ではない手紙をていねいに詫びた律儀な 吉川英治
親友に返信できなかった訳をツールのせいにした 中原中也
手紙の失礼を体調のせいにしてお茶を濁した 太宰治
譲れないこだわりを反省の言葉にこめた 室生犀星
先輩作家への擦り寄り疑惑を執拗に否定した 横光利一
親バカな招待状を親バカを自覚して書いた 福沢諭吉
手紙の無作法を先回りして詫びた用心深い 芥川龍之介
親友に返信できなかった訳をツールのせいにした 中原中也
手紙の失礼を体調のせいにしてお茶を濁した 太宰治
譲れないこだわりを反省の言葉にこめた 室生犀星
先輩作家への擦り寄り疑惑を執拗に否定した 横光利一
親バカな招待状を親バカを自覚して書いた 福沢諭吉
手紙の無作法を先回りして詫びた用心深い 芥川龍之介
第四章 依頼を断るときの上手い言い訳
裁判所からの出頭要請を痛快に断った無頼派 坂口安吾
序文を頼まれその必要性を否定した 高村光太郎
弟からの結婚相談に困り果てた気の毒な兄 谷崎潤一郎
もてはやされることを遠慮した慎重居士 藤沢周平
独自の偲び方を盾に追悼文の依頼を断った 島崎藤村
意外に書が弱点で揮毫を断った文武の傑物 森鴎外
序文を頼まれその必要性を否定した 高村光太郎
弟からの結婚相談に困り果てた気の毒な兄 谷崎潤一郎
もてはやされることを遠慮した慎重居士 藤沢周平
独自の偲び方を盾に追悼文の依頼を断った 島崎藤村
意外に書が弱点で揮毫を断った文武の傑物 森鴎外
第五章 やらかした失礼・失態を乗り切る言い訳
共犯者をかばうつもりが逆効果になった粗忽者 山田風太郎
息子の粗相を半分近所の子供のせいにした親バカ 阿川弘之
先輩の逆鱗に触れ反省に反論を潜ませた 新美南吉
深酒で失言して言い訳の横綱を利用した 北原白秋
友人の絵を無断で美術展に応募して巧みに詫びた 有島武郎
酒で親友に迷惑をかけてトリッキーに詫びた 中原中也
無沙汰の理由を開き直って説明した憎めない怠け者 若山牧水
物心の支援者への無沙汰を斬新に詫びた 石川啄木
礼状が催促のサインと思われないか心配した 尾崎紅葉
怒れる友人に自分の非を認め詫びた素直な 太宰治
批判はブーメランと気づいて釈明を準備した 寺田寅彦
息子の粗相を半分近所の子供のせいにした親バカ 阿川弘之
先輩の逆鱗に触れ反省に反論を潜ませた 新美南吉
深酒で失言して言い訳の横綱を利用した 北原白秋
友人の絵を無断で美術展に応募して巧みに詫びた 有島武郎
酒で親友に迷惑をかけてトリッキーに詫びた 中原中也
無沙汰の理由を開き直って説明した憎めない怠け者 若山牧水
物心の支援者への無沙汰を斬新に詫びた 石川啄木
礼状が催促のサインと思われないか心配した 尾崎紅葉
怒れる友人に自分の非を認め詫びた素直な 太宰治
批判はブーメランと気づいて釈明を準備した 寺田寅彦
第六章 「文豪あるある」の言い訳
原稿を催促され詩的に恐縮し怠惰を詫びた 川端康成
原稿を催促され美文で説き伏せた 泉鏡花
カンペキな理由で原稿が書けないと言い逃れた大御所 志賀直哉
川端康成に序文をもらいお礼する際に失礼を犯した 三島由紀夫
遠慮深く挑発し論争を仕掛けた万年書生 江戸川乱歩
深刻な状況なのに滑稽な前置きで同情を買うことに成功した 正岡子規
信と疑の間で悩み原稿の送付をためらった 太宰治
不十分な原稿と認めながらも一ミリも悪びれない 徳冨蘆花
友人に原稿の持ち込みを頼まれ注意深く引き受けた 北杜夫
紹介した知人の人品を見誤っていたと猛省した 志賀直哉
先輩に面会を願うために自殺まで仄めかした物騒な 小林秀雄
謝りたいけど謝る理由を忘れたと書いたシュールな 中勘助
原稿を催促され美文で説き伏せた 泉鏡花
カンペキな理由で原稿が書けないと言い逃れた大御所 志賀直哉
川端康成に序文をもらいお礼する際に失礼を犯した 三島由紀夫
遠慮深く挑発し論争を仕掛けた万年書生 江戸川乱歩
深刻な状況なのに滑稽な前置きで同情を買うことに成功した 正岡子規
信と疑の間で悩み原稿の送付をためらった 太宰治
不十分な原稿と認めながらも一ミリも悪びれない 徳冨蘆花
友人に原稿の持ち込みを頼まれ注意深く引き受けた 北杜夫
紹介した知人の人品を見誤っていたと猛省した 志賀直哉
先輩に面会を願うために自殺まで仄めかした物騒な 小林秀雄
謝りたいけど謝る理由を忘れたと書いたシュールな 中勘助
第七章 エクスキューズの達人・夏目漱石の言い訳
納税を誤魔化そうと企んで叱られシュンとした 夏目漱石
返済計画と完済期限を勝手に決めた偉そうな債務者 夏目漱石
妻に文句を言うときいつになく優しかった病床の 夏目漱石
未知の人の面会依頼をへっぴり腰で受け入れた 夏目漱石
失礼な詫び方で信愛を表現したテクニシャン 夏目漱石
宛名の誤記の失礼を別の失礼でうまく隠したズルい 夏目漱石
預かった手紙を盗まれ反省の範囲を面白く限定した 夏目漱石
句会から投稿を催促され神様を持ち出したズルい 夏目漱石
不当な苦情に対して巧みに猛烈な反駁を盛り込んだ 夏目漱石
返済計画と完済期限を勝手に決めた偉そうな債務者 夏目漱石
妻に文句を言うときいつになく優しかった病床の 夏目漱石
未知の人の面会依頼をへっぴり腰で受け入れた 夏目漱石
失礼な詫び方で信愛を表現したテクニシャン 夏目漱石
宛名の誤記の失礼を別の失礼でうまく隠したズルい 夏目漱石
預かった手紙を盗まれ反省の範囲を面白く限定した 夏目漱石
句会から投稿を催促され神様を持ち出したズルい 夏目漱石
不当な苦情に対して巧みに猛烈な反駁を盛り込んだ 夏目漱石
参考・引用文献一覧
おわりに
おわりに
さまざまな文豪たちの書簡にしたためられた「言い訳」の数々が紹介され、どういったシチュエーションでそれが用いられたのかの解説、そして分析。各段4ページ前後ですので、全体的には250ページほど。読了するにそれほどかかりません。
まず、紹介されている文豪たちの信条というか、人間性というか、そういったものがその背後に見え、興味深く感じました。「いかにも誰々らしい」と感じる部分と、「誰々はこういう一面もあったのか」という部分もありました。
非常に面白いと共に、実用的でもあります。「こういう場合にはこんな言い訳をすればよいのか」、「なるほど、これも一つの手だな」といった感じで。また、「言い訳」というより、相手をかわす方法や、時には逆襲するパターンも語られています。そして、これが大事だと思ったのは、肝心の一文に到るまでのプロセス。いきなり謝罪や言い訳、駄目出しや拒絶に行かず、ひとまず相手を持ち上げて置いたり、自分でへりくだったりして見せ、それから本題に入ったり、あるいは「猫だまし」的に意表を突く内容から始めたり……。ところが、それが全てうまく行っているかというと、そうでもないというあたりが、ユーモラスだったりもしました。
光太郎に関しては、かわす方法。菊池正という詩人が書いた詩集の序文執筆を頼まれ、それに対しての断りです。まずは詩集自体を褒め、しかし、ある意味論点をずらし、そもそも一般論として自著に他者の序文が必要なのか、と問いかけます。『道程』をはじめ、自分は他者に序文を書いてもらったことはない、と、光太郎自身を引き合いに出し、相手にぐうの音も言わせない高度なテクニックです。
とは言え、著者の中川氏も指摘されていますが、光太郎はこれ以前に菊池の別の詩集には序文を書いてやっていますし、他の詩人の詩集にも少なからず序跋文を寄せています。数えてみましたところ、散文集、翻訳書などを含めれば、確認できている限りその数は60篇ほどにもなります。ただ、あまり交流の深くなかった人物の著書に対しては一度限りという感じで、どうも二匹目のドジョウを狙う依頼に対しては、上記のような手を使ってかわすこともあったのでしょう。単に面倒くさかっただけかもしれません。
他の文豪たちの「言い訳」も、さすがに言葉のプロフェッショナルたちだけあって、海千山千(死語ですね(笑))、酸いも甘いもかみ分けた(これも死語ですね(笑))、その手練手管(この際、もはや死語にこだわります(笑))には感心させられました。
しかし、最も感心させられるのは、やはり誠意を持ってわびるパターン。意外や意外、そういった方向性とは最も無縁なような太宰治がそうやっています。曰く「私も、思いちがいをしていたところあったように思われます」。太宰を少し見直しましたし、我が身を振り返り、かくあるべきだなと反省しました。「誤解を与えたとすれば、撤回します」というパターンを流行らせている永田町界隈の魑魅魍魎どもにも見習ってほしいものです(笑)。
【折々のことば・光太郎】
素人は仕事の恐ろしさを知らず、従つて全身的の責任を感じない。思ひつきと頓智とは素人に豊富だが、それを全体との正しい関係に於いて生かすといふ遠近の展望を持たない。素人の仕事は多く一個人的であつて普遍の道理を内蔵しない。それゆゑ伝統の力と修行の重要性とを軽んずる傾があり、ただむやみに己の好むところに凝る、時として外見上甚だ熱があるやうに見える事もあるが、それは多く透徹した叡智を欠いた偏執であるに過ぎない。
散文「素人玄人」より 昭和16年(1941) 光太郎59歳
彫刻と詩で二股をかけ、それぞれに多作とは言えなかった(詩の方はこの後、翼賛詩を乱発するようになりますが)光太郎に対し、「素人彫刻家」、「素人詩人」という評が出され、それに対する反駁として書かれた文章の一節です。主に彫刻の分野を念頭に置いての話だと思いますが、自分はこういう「素人」ではないと宣言しています。確かに光太郎、父・光雲に叩き込まれた江戸以来の仏師の技をバックボーンに持ち、「伝統の力と修行の重要性」を身を以て理解していました。