ほぼ一気読みしました。

「ロダンの言葉」とは何か

2019年2月20日 髙橋幸次著 三元社 定価4,000円+税

彫刻家ロダンの芸術観は、近代日本に圧倒的な影響をもたらした。その過程で作品以上に重要な役割を担ったのが、高村光太郎らによって翻訳紹介された一連の「ロダンの言葉」だった。では、その原典たる「ロダンの言葉」を書き残したのは一体だれなのか?
「ロダンの言葉」の成立と受容を詳細にたどり直し、ロダン研究の新たな基礎を築く。

[目次]
 はじめに  001
 第Ⅰ部 ロダンとその時代
  第 1 章 ロダンとは誰なのか、そして何なのか
  第 2 章 セザンヌとロダン
 第Ⅱ部 ロダンの言葉
  第 1 章 「ロダンの言葉」成立の前提
  第 2 章 クラデルのロダン
  第 3 章 ロートンのロダン
  第 4 章 バートレットのロダン:高村光太郎のダークス
  第 5 章 モークレールのロダン
  第 6 章 グセルのロダン
  第 7 章 コキヨのロダン
  第 8 章 ティレルのロダン
  第 9 章 デュジャルダン=ボーメッツのロダン
  第 10 章 ブールデルのロダン
  第 11 章 リルケのロダン、そして高村光太郎のリルケ
  第 12 章 ロダン自身によるロダン
 終わりに
 あとがき
 注 参考文献一覧 初出一覧 引用図版一覧 索引
 付録/高村光太郎編譯『ロダンの言葉』『續ロダンの言葉』の目次


いろいろお世話になっている日大芸術学部さんの髙橋幸次教授の新著です。

イメージ 2

だいぶ前に、本書の元となった同大芸術学部さんの紀要抜き刷りの一部をいただきましたが、一冊にまとまったものを読んでみて、改めて興味深く感じました。

光太郎の訳著『ロダンの言葉』(大正5年=1916)、『続ロダンの言葉』(同9年=1920)を軸に、ロダンその人のアウトライン、欧米でのロダン語録出版の過程や、それぞれの編著者、光太郎をはじめとする日本における翻訳、ロダン受容の様相などについて、詳細にまとめられています。

そもそも『ロダンの言葉』とは、折に触れてロダンが語ったさまざまな談話や、近しい人々との会話などを、様々な人物(多くはロダンの秘書)が筆録したものから抽出されたもので、ロダン本国のフランスには『ロダンの言葉』という書物はありません。したがって、光太郎が使った翻訳原典は多岐にわたります。

本書では、それぞれの筆録者がどういう経歴の人物で、ロダンとどう関わったか、筆録の状況、ロダンとの距離感などといったことも記述され、非常に参考になります。

また、光太郎の訳についても、数ある原典の中からどういった部分に重きを置いて抽出してるのかや、他の訳者の翻訳との比較、その特徴やあてた日本語の妥当性など、実に示唆に富むものでした。

光太郎の『ロダンの言葉』正続は、廉価な普及版の刊行などもあり、実に多くの造形作家やその卵、また、直接的には美術と関わらない人々にも大きな影響を与えたとされています。そうなった背景も、この書籍を読むことでかなりの程度理解できたように思いました。

ぜひお買い求めを。


【折々のことば・光太郎】

団十郎は決して力まない。力まないで大きい。大根といはれた若年に近い頃の写真を見ると間抜けなくらゐおつとりしてゐる。その間抜けさがたちまち溌剌と生きて来て晩年の偉大を成してゐる。一切の秀れた技巧を包蔵してゐる大味である。神経の極度にゆき届いた無神経である。

散文「九代目団十郎の首」より 昭和13年(1938) 光太郎56歳

結局完成する前に戦災で消失してしまった、九代目市川團十郎像に関してです。対象への惚れ込み方、それをいかに造形として表すかの苦心など、ロダンのそれとも重なるような気がします。


第63回連翹忌(2019年4月2日(火))の参加者募集中です。詳細はこちら