重厚で良質な学術書を多数手がけられている国書刊行会さんの新刊です。

中村傳三郎美術評論集成

2018年11月2日  中村傳三郎著  藤井明編
書刊行会  定価27,000円+税

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目次
 彫刻篇
  第三科(彫塑)
  藤川勇造
  “鏡獅子”と首相 ほか
 絵画篇
  光風会展覚書
  自由美術
  下村観山、土田麦僊、富田渓仙(作品図版解説)ほか
 工芸篇
  推薦文(戸島甲喜)
  集団・版第一〇回展によせる
  現代工芸展をみて ほか
 解説 藤井明
 中村傳三郎著作リスト
 年譜

昭和5年に設立され、戦後、近代日本美術の研究を大きく発展させた東京文化財研究所。同研究所の彫刻部門を担い、日本におけるロダン評価を広めるなど今日の近代日本彫刻史研究の基礎を築いた中村傳三郎の美術論を集大成する。

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中村傳三郎は大正5年(1916)、兵庫出身の美術評論家。光太郎とも交流がありました。亡くなる3年前の平成3年(1991)、文彩社さんから 『明治の彫塑 「像ヲ作ル術」以後』という好著が出版されましたが、それ以外に研究紀要や美術雑誌などに発表したものの集成です。おそらく光太郎や、その父・光雲に触れられていると思われます。

「思われます」というのは、未入手なもので……。定価27,000円+税というところで二の足を踏んでいます。

編集に当たられたのは、このブログにたびたびご登場いただいている、小平市平櫛田中彫刻美術館学芸員の藤井明氏。ことによると「献呈」の紙片が挟まって送られてくるかな、と不埒なことを考えていたのですが、あまちゃんだったようです(笑)。


いったいに、国書刊行会さんの刊行物はそうでして、今年2月には田中修二氏編『近代日本彫刻史』という、これまた重厚な書籍が出ています。

近代日本彫刻史

2018年2月21日 田中修二著 国書刊行会 定価14,000円+税

彫刻という領域を工芸的な造形なども含めて広く考察し、江戸時代から明治期、および昭和戦前・戦中期から戦後期という大きな時代の変化を連続的にとらえる視点を踏襲しつつ、個々の作家や作品についての記述を充実。近代日本彫刻史の通史として先例のない、包括的かつ学術的な書籍。今後の近代日本彫刻史研究における基本文献になるとともに、より広く、日本美術史や西洋の彫刻史を研究するうえでの必須参考文献。

目次
第一章 江戸から明治へ
 日本彫刻史のつながり 彫刻の境界 江戸時代の彫刻とは 江戸時代の仏像
 名工、名匠たち
 西洋彫刻との出会い 西洋人にとっての日本と彫刻 
 コラム①『光雲懐古談』に見る江戸の彫刻 
第二章 彫刻のはじまり 
 破壊と形成 「像」から「彫刻」へ 職人から彫刻家へ 工部美術学校の開校
 工部美術学校の教育と最初の洋風彫刻家たち 「彫刻」の成立 表現技法の交流
 コラム②彫刻と解剖学
第三章 「彫塑」の時代 
 東京美術学校 明治二〇年代の展開 銅像の時代 銅像、仏像、置物、人形
 「彫刻」と「彫塑」
 転換期としての明治三〇年代 文展へ 
 コラム③アール・ヌーヴォーと日本彫刻 
第四章 文展とロダニズム 
 明治四〇年代におけるそれぞれの世代 試みの場としての文展 文展の「進歩」
 彫刻を見る速度と距離 
「ロダン彫刻入京記」の時間と時代
 ロダニズムと近代日本彫刻史観 再興日本美術院彫刻部の創設
 
 第一次世界大戦とロダンの死 コラム④彫刻を支える人たち 
第五章 大正期における展開 
 両大戦間期の西洋彫刻 帝展、院展、二科展の彫刻 
 発表の場の多様化―東台彫塑会と曠原社など
 彫刻を語る言葉
 「古寺巡礼」の時代 彫刻家の生活 彫刻の普及と「地方」 関東大震災以後の彫刻
 コラム⑤描く彫刻家 
第六章 華やかな活気と戦争への道程 
 昭和期のはじまりと構造社 彫刻と建築の新たな関係 昭和前期における工芸の展開
 プロレタリア彫刻の動向と帝展彫刻の位置 在野展の興隆
 近代・清楚・古代―二科会、国画会の彫刻など 近代日本彫刻の歴史化
 「地方」への拡がり
 コラム⑥画家と彫刻 
第七章 戦争から戦後へ 
 帝展改組と彫刻界 戦時下における彫刻の主題 
 遠く離れたものへ―古典主義、植民地、シュルレアリスム 抽象とモニュメント
 戦時下の彫刻の位置
 戦争と彫刻と敗戦 戦後彫刻の出発点 平和の象徴としての彫刻
 コラム⑦近代日本彫刻とアジア 
第八章 戦後彫刻の展開 
 セメントと空と花と 在野団体の隆盛と抽象彫刻 具象表現の追求とその思想
 欧米からの影響
 「近代日本彫刻史」の成立 マネキンと怪獣 「彫刻」の変貌
 コラム⑧木彫表現の拡がり 
第九章 現代の彫刻へ 
 ネオ・ダダと読売アンデパンダン展 グループ展と団体展 画廊の空間
 彫刻を展示する場所
 新たな素材、技法、表現への試み 彫刻教育の様相
 「彫刻」への問いかけ
 彫刻の「環境」―「もの派」の誕生 大阪万博とその前後
 コラム⑨彫刻の自由──結びにかえて
年表 文献一覧 掲載図版一覧 索引

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さらに、やはり田中氏編で平成22年(2010)から同25年(2013)にかけて刊行された『近代日本彫刻集成』全三巻の重版も、今年出ました。 

近代日本彫刻集成

 幕末・明治編    2010/09/16 定価45,000円+税
 明治後期・大正編 2012/01/31 定価47,000円+税
 昭和前期編     2013/05/29 定価53,000円+税

カラー図版300点、モノクロ図版600点の圧倒的な作品写真、詳細な作品・作家解説、歴史的文献を再録し、近代日本彫刻が辿った歴史に沿って、内容をわかりやすく整理した初の本格的研究書。既存の近代日本彫刻史においては取り上げられることの少なかった作品や戦争で失われた銅像などの貴重な画像も多数掲載し、「近代日本彫刻」の全体像を提示する集成。
 
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もうこうなると、個人が購入するものではないのかな、という気もしますが……。


今日はクリスマスイヴ。明日の朝、眼が醒めたらこれら5冊、サンタさんが置いていってくれていないものかと、またまた不埒なことを考えています(笑)。


【折々のことば・光太郎】

自分が草で言へば路傍の雑草、木で言へば薪になる雑木、水で言へば地中の泉である事は既に知つてゐます。しかし此の大きな自然の中では萬物が自己の生活を十全に開展せしめ進展せしめて、互に其の同胞と呼びかはす事を許されてゐます。

散文「「一隅の卓」より 二」より 大正12年(1923) 光太郎41歳

既に東京都心で暮らしていた壮年期から、自己も自然の一部、と、思い定めていた光太郎。たびたび北海道や東北の太平洋岸、或いは山間の温泉地などへの移住を夢見ていましたが、あくまで夢。約20年後、実際に花巻郊外の山村に落ち着くことになるとは、思っていなかったでしょう。