ソプラノ歌手・大島久美子さんのリサイタルです。 
時  間 : 14時開演
会  場 : 浜離宮朝日ホール 東京都中央区築地5-3-2 朝日新聞東京本社・新館2階
料  金 : 全席自由 ¥4,000

出  演 : 大島久美子(ソプラノ)  小沢さち(ピアノ)
曲  目 : 
 第1部《 日本歌曲の世界》
  うぐひす(佐藤春夫/早坂文雄) さくら横ちょう(加藤周一/中田喜直)
  さくら横ちょう(加藤周一/別宮貞夫) 市の花屋(深尾須磨子/高田三郎)
  すてきな春に(峰陽/小林秀雄)霧と話した(鎌田忠良/中田喜直)
  落葉松(野上彰/小林秀雄)
 第2部 《平和への想い》 合唱曲独唱版
  死んだ男の残したものは(谷川俊太郎/武満徹)
  さくらんぼと麦わらぼうし(金子静江/鈴木憲夫)
  合唱組曲「生きとし生けるものへ」独唱版より(上田由美子/上田益)
  とうさんの海(宇部京子/上田益)
 第3部 《命の煌き》 合唱曲独唱版
  合唱組曲「楽の音は天より響き」独唱版より(丸尾直史)
  ひとひらの花びら(鈴木憲夫) 二度とない人生だから(坂村真民/鈴木憲夫)
  レモン哀歌(高村光太郎/鈴木憲夫)

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第3部で鈴木001憲夫氏作曲の「レモン哀歌」がラインナップに入っています。「合唱曲独唱版」という副題の通り、元々女声合唱曲として作曲されたもので、カワイ出版さんから平成23年(2011)1月に楽譜が出版されています。初演は平成22年(2010)12月、市川市文化会館大ホールにて、女声合唱団コール・ベル~15周年記念コンサートでの委嘱作でした。

独唱板もほぼ同時に作曲されたようで、やはり平成23年(2011)に同じカワイ出版さんから「鈴木憲夫歌曲集3」として出版された中に収録されています。さらに混声合唱版が平成24年(2012)に、これもカワイさんから出ています。

非常にメロディーラインの美しい曲で、奇をてらうことなく光太郎の思いがゆったりとした楽曲の中に切々と歌いあげられています。女声、混声ともに合唱版はたびたび演奏されていますが、独唱版が取り上げられるのは珍しいようです。


合唱版の序文から。

 「レモン哀歌」を作曲のテキストとして意識し考え始めたのは今から7~8年前のことです。高村光太郎といえば「智恵子抄」と連想されるほど、氏の代表作として愛され、親しまれている作品です。とくに「レモン哀歌」はその中心ともいえる作品です。
 (略)
 2007年、私は妻・美智子を喪(な)くしています。自身の身の上、さらに様々な思いとが重なり作曲は遅々として進まず、幾度も頓挫しました。が、この作品を委嘱下さったコール・ベルの皆さんの励ましに支えられ2010年9月25日にこの作品は完成しました。
 はじめに取り組んでから1年半もの時間を要しました。「鈍」とした仕事ぶりに自身で呆れ果ててはおりますが、しかしそれは私にとり必要な時であったのだと今にして思います。
 詩はとても平易に書かれています。感情的な起伏を抑え淡々として、詩稿をご覧になれば分かるように「段」を空ける事なく、まるで自身の感情を押し殺すかのような手法で書かれています。私もことさらに感情を煽るような作曲はせずに、行間に潜む光太郎の息づかいを思い作曲を進めていきました。
 作曲を終えた今、合唱作品として新しい生命が吹き込まれたこの作品を、私は光太郎、智恵子、そして美智子の魂に捧げたいと思います。

こうした作曲者の思いを知って聴くのと、そうでないのとでは、聞こえ方が違ってきますね。


ところで演奏される大島久美子さん。気づきませんでしたが、先月、地元の広島県で開催された「大島久美子 ソプラノ・リサイタル~合唱曲を歌う~」でも、「レモン哀歌」を歌われていました。

「気づきませんでした」といえば、11月13日(火)、名古屋市東文化小劇場で開催された「第6回ソプラノ祥愛さちあリサイタル~香しき日本の歌~」では、野村朗氏作曲の「連作歌曲「智恵子抄」~その愛と死と~」が演奏されていました。前日になって野村氏からメールが来て知った次第で、このブログでご紹介できませんでした。

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さまざまな分野の皆さんが、光太郎智恵子の世界を取り上げて下さっています。これからも、健全な精神で、二人の生き様を、それぞれの表現で紹介して下さることを願ってやみません。


【折々のことば・光太郎】

この歌集は億万人に愛されるであらう。吾身のやうになつかしまれるであらう。そのことを思ふとわたくしはたのしい。これらの歌は一度きり人を打つて消え去る類のものではない。ここに引くまでもないが、たとひ読み人しらずとなつても人の心にいつしかとよみかへされるであらうと思はれる歌がこの歌集の中にはある。

散文「中原綾子歌集「刈株」序」より 昭和18年(1943) 光太郎61歳

中原綾子は与謝野門下の歌人です。残念ながら、光太郎が激賞したほどには名が残っていないように思われます。かえって、光太郎自身の詩が、ここに記されたような扱いとなるような、そんな気もします。