新刊小説です。 

蝶のゆくへ

2018年8月3日  葉室麟著  集英社  定価1,700円+税

星りょう、クララ・ホイットニー、若松賤子、樋口一葉、瀬沼夏葉……。明治という新しい時代に、新しい生き方を希求した女性たち。その希望と挫折、喜びと葛藤が胸に迫る、感動の歴史長編。

「蝶として飛び立つあなた方を見守るのがわたしの役目」と語る校長巌本善治のもと、北村透谷や島崎藤村、勝海舟の義理の娘クララ・ホイットニーらが教師を務め、女子教育の向上を掲げた明治女学校。念願叶って学び舎の一員となった星りょう(後の相馬黒光)は、校長の妻で翻訳家・作家として活躍する若松賎子、従妹の佐々城信子、作家の樋口一葉、翻訳家の瀬沼夏葉をはじめ、自分らしく生きたいと願い、葛藤する新時代の女性たちと心を通わせていく―。

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一昨年から昨年にかけ、集英社さんの雑誌『小説すばる』に連載されていたものの単行本化です。作者の直木賞作家・葉室麟氏は、昨年暮れに逝去され、これが絶作なのかもしれません。ちなみに来月公開される岡田准一さん主演の時代劇映画「散り椿」は葉室氏の原作です。

物語は、新宿中村屋創業者・相馬愛藏の妻となる星りょうを主人公とし、りょうの学んだ明治女学校を主な舞台とします。全七章のうち、第六章「恋に朽ちなむ」、最終章「愛のごとく」で、りょうと荻原守衛の悲恋が描かれ、守衛の親友であった光太郎も登場します。

ちなみに守衛の絶作にして、光太郎がそれを残すことを進言した「女」は、りょうをモデルとしています。

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【折々のことば・光太郎】

私はいはゆる「詩」を追はない。日本に於けるいはゆる「詩的」といふ、あの一種の通念をふみにじる。さういふものを洗ひ去る。私は自己の必然にのみ頼る。私にとつて此世は造型である。私の詩も亦造型の対位として存する。私の詩の理法は造型理法にその根を持つてゐる。

散文「私の詩の理法」全文 昭和24年(1949) 光太郎67歳

題名の通り、光太郎詩の理法が端的に表されています。