一昨日、昨日に引き続き、「ほんとの空」関連です。

まず福島の地元紙『福島民友』さんの連載記事「ふくしま湯けむり探訪」。 

ふくしま湯けむり探訪 【二本松市・奥岳温泉】 ほんとの空...抱かれて 開放感がいっぱい

 「ほんとの空」の下003、眼前に広がる雄大な自然と四季の移ろいを楽しめる露天風呂が、開放的で気持ちいいと聞いた。日本百名山・安達太良山の中腹にある二本松市岳温泉のさらに奥。曲がりくねった山道を約6キロ進み、たどり着くのが標高約950メートルに位置する奥岳温泉「あだたら山 奥岳の湯」である。
 施設は男女ともに内湯と露天風呂が各一つ。泉質は全国的にも珍しい酸性泉で、筋肉痛や神経痛、疲労回復、皮膚病への効能があるという。源泉は岳温泉と同じ鉄山付近にあり、約4キロの距離を引湯している。露天風呂の正面に囲いがなく、まるで自然と湯船が融合しているようだ。40人ほどが入れるという大きな長方形の湯船につかって深呼吸すると、体がすっと軽くなった気分になる。なるほど評判通りの開放感だ。
 安達太良山の標高は約1700メートルで、福島、二本松、郡山の3市と、大玉村、猪苗代町にまたがる。美しい山体が魅力的で、眺める場所によって山容が変わる。個人的には大玉村方面から眺める広々とした光景が好みだ。二本松市側のゴンドラリフトで薬師岳(標高約1300メートルほど)まで上れるため、初心者でも登りやすい。
 ◆要望に応え再開
 日本最古の和歌集「万葉集」では安達太良山について3首も詠まれ、古代の人々も印象深く捉えていた。詩人・彫刻家の高村光太郎は二本松市出身の妻智恵子との愛をつづった「智恵子抄」で、「あれが阿多多羅山~」(樹下の二人)や「阿多多羅山の山の上に毎日出ている青い空が 智恵子のほんとの空だという」(あどけない話)と触れている。
 主要登山口の奥岳には「あだたら高原スキー場」がある。1929(昭和4)年、岳温泉関係者が冬の誘客策としてスキーに着目し、開発が許可されて営業が始まった。規模拡大やリフト増設などが進んだが、運営会社が経営難に陥り、72年から富士山麓一帯の観光開発を進める「富士急行」(山梨県)に移行、新設された富士急安達太良観光(二本松市)の経営で現在に至る。
 「あだたら山 奥岳の湯」も安達太良観光が経営する。前身は77年から一軒宿として営業してきた「あだたら高原富士急ホテル」。東日本大震災で設備が壊れて廃業したが、同ホテル跡地を活用し、2015(平成27)年に日帰り湯として開業した。鷹取健二社長(51)は「富士急は地元の皆さんと手を携えて歩んできた。美しい四季が楽しめる安達太良山の魅力を広く発信したい」と意気込む。
 入湯客は登山者やスキー客ばかりかと思いきや、温泉目当ての人も多いという。「多くの人に癒やしのひとときを味わってほしい」。安斎誠支配人(53)は大玉村出身で、子どもの頃から安達太良山に親しみ、19歳から安達太良観光で働いてきた。震災後に温泉施設の営業が途絶え、再開を求める多くの声に励まされたという。利用客でにぎわう現在の光景に安斎さんは「やっぱり再開して良かった」と安堵(あんど)する。
 きょう20日は安達太良山の山開き。今年も多くの登山客の疲れを癒やすであろう湯船から「ほんとの空」を眺め、至福の時間に浸った。
 【メモ】あだたら山 奥岳の湯=料金は大人600円、子ども400円。日帰り入浴のみ。時間は午前10時~午後8時(11月中旬~4月中旬は同5時)。年中無休。
(2018/05/20)

平成27年(2015)に、中腹のロープウェー駅付近にオープンした温泉入浴施設、「奥岳の湯」が大きく取り上げられました。当方も一度入湯させていただきましたが、標高1,000㍍弱、開放感あふれるいい湯でした。


もう一件、やはり地元紙『福島民報』さんの一面コラム「あぶくま抄」、一昨日の掲載分です。

あぶくま抄 上昇気流

 米国人飛行家チャールズ・リンドバーグはニューヨークをプロペラ機で飛び立つ。正面に窓はなく、視界が遮られる構造だった。決死の挑戦は33時間余り続いた。初めて大西洋を単独無着陸で越え、パリに降りたのが91年前の5月21日だった。
 福島市在住のエアレースパイロット室屋義秀さんも初めは先行きを見通せなかったかもしれない。練習拠点のふくしまスカイパークは農産物を空輸する目的で誕生した。だが、事業はつまずく。周囲は不思議がった。なぜ負のイメージの強い場所を選ぶのか。「比較的自由に飛べるし、何より良い空だ」。屈託のない笑顔は20年前から変わらない。
 「時速400キロでガレージに駐車するようなもの」。ある選手は世界最速レースに求められる技術を、こう表現した。1000分の1秒差が勝敗を分ける。「ほんとの空」で磨いた技が過酷な世界で戦い抜く操縦を支える。
 今季も好調だ。世界に挑む「サムライパイロット」に福島からの声援が上昇気流をもたらす。26、27の両日には大会3連覇を目指して千葉の空をかける。昨年に続く総合優勝にも期待が高まる。希望の翼が今年も大きく広がろうとしている。
(2018/05/21)


「空のF1」とも言われる飛行機競技「レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ」の室屋義秀選手に触れられています。奈良県ご出身の室屋選手、福島を練習拠点になさっており、「ほんとの空」と切っても切り離せないというわけです。

一昨年の第3戦・千葉大会で優勝し、一躍注目を集め、昨年はなみいる強豪を抑え、年間チャンピオンにも輝きました。今年もこれまで2戦を終えて3位につけ、次戦は今週末、験のいい千葉大会です。ぜひ3連覇を果たし、「ほんとの空」の語をさらに広めていただきたいものですね。


【折々のことば・光太郎】

彼はこつこつと地味な道を歩いた。彼は中世期的写実と古典的優雅とを婚姻させた。製作技法は徹底酷烈な写実で押し通し、主題の取扱や、布置意匠などに古典の美を取り入れた。彼は地上の人間に飽くなき興味を持ち、つひに天上の夢を知らなかつたやうな彫刻家である。

散文「ドナテロ小感」より 昭和18年(1943) 光太郎61歳

「ドナテロ」は14世紀から15世紀にかけてのイタリア人彫刻家。「ドナテッロ」、「ドナテルロ」とも表記されます。レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロ・ブオナローティら、ルネサンス彫刻家に先行し、彼等に影響を与えてもいます。

徹底酷烈な写実」、「地上の人間に飽くなき興味」といったあたり、光太郎の目指した彫刻の在り方にも通じるような気がします。光太郎自身も、仏像や女神像などをほとんど手がけず、「つひに天上の夢を知らなかつたやうな彫刻家」だったように感じます。