旧刊の復刊です。

人と作品 高村光太郎

2018年4月11日  堀江信男著 清水書院 
定価1,296円(税込み)

詩人としても彫刻家としても一流だった高村光太郎。西洋の生活を経験し独自の近代的自我を確立するが、封建的な制度や道徳を残す日本では彼は異端な存在であった。自我を生きようとする彼の妥協することなき偉大な生涯を描く。

目次002
 第一編 高村光太郎の生涯
  宿命
  ヨーロッパ留学
  美に生きる
  智恵子の死
  モニュマン
 第二編 作品と解説
  詩人光太郎の誕生
  道程
  雨にうたるるカテドラル
  猛獣篇
  智恵子抄
  典型
 年譜
 参考文献
 さくいん
 


元版は、同じ清水書院さんから昭和41年(1966)に刊行されています。目次を見る限り、同一の内容のようです。

著者の堀江信男氏は、現在、茨城キリスト教大学名誉教授。003

前半は簡潔な光太郎評伝。後半は詩集や、詩集のない時代には代表的な詩を中心とした作品鑑賞、という構成になっています。入門編としては好著です。

人と作品」というシリーズものの一冊で、シリーズ全体は、文芸評論家の故・福田清人氏の責任編集です。

光太郎以外の既刊は、有島武郎、菊池寛、国木田独歩、林芙美子、徳富蘆花、高浜虚子、坪内逍遙、二葉亭四迷、武者小路実篤、正岡子規、夏目漱石、北原白秋、斎藤茂吉、横光利一、田山花袋、永井荷風、堀辰雄、島崎藤村、泉鏡花、与謝野晶子、宮沢賢治、森鷗外、樋口一葉、芥川龍之介、太宰治、川端康成、志賀直哉、石川啄木、谷崎潤一郎。

当方の持っている昭和60年代の判に載っている巻末の広告では、佐藤春夫、萩原朔太郎、岡本かの子らもラインナップに入っていましたし、中原中也、三島由紀夫、井上靖などが刊行予定となっていました。今後も続刊されるのではないかと思われます。

それぞれ復刊であれば、最新の研究成果が反映されているわけではないと思いますが、入門編としてはよいのではないでしょうか。ただ、怖いのは、既に否定されている過去の定説がそのまま載ること。その点は注意が必要ですね。


【折々のことば・光太郎】

絵具や筆などといふ材料(メヂアム)を駆使するに二様ある。一つは多年の工夫と錬磨とで、材料の極微な性質までも承知してしまつて、按摩が浮世話をしながら肩を揉む程な熟練の域に到るのと、一つは、生(なま)な材料、初対面の材料にでも自分の熱い息を吹きかけて、たちどころに其を自分の勢力の下に屈服させて駆使するのとである。

散文「津田清楓君へ――琅玕洞展覧会所見――」より
 
明治44年(1911) 光太郎29歳

津田清楓は、光太郎の留学仲間でもあった画家です。その頃の津田を回想し、賞賛したあと、現在の津田にはあの頃の燃えるような情熱が感じられないとしています。そして展開される絵画論が上記の一節です。津田はそのどちらにもたどり着いていない、というのでしょう。

琅玕洞は、前年に光太郎が神田淡路町に拓いた画廊ですが、ちょうど一年で手放し、画家の大槻弍雄に譲られていました。