昨年、全国公開された映画「八重子のハミング」のDVDが発売されまして、早速、購入いたしました。ブルーレイディスクも同時発売でした。
八重子のハミング
2018年1月13日 発売・販売元 GAGA★定価 ブルーレイ 4,800円+税 DVD 3,800円+税
山口県のとあるホール。「やさしさの心って何?」と題された講演。妻・八重子の介護を通して経験したこと、感じたことを語る白髪の老人、石崎誠吾。「妻を介護したのは12年間です。その12年間は、ただただ妻が記憶をなくしていく時間やからちょっと辛かったですいねぇ。でもある時、こう思うたんです。妻は時間を掛けてゆっくりと僕に お別れをしよるんやと。やったら僕も、妻が記憶を無くしていくことを、しっかりと僕の思い出にしようかと…。」誠吾の口から、在りし日の妻・八重子との思い出が語られる。教員時代に巡り会い結婚した頃のこと、八重子の好きだった歌のこと、アルツハイマーを発症してからのこと…。かつて音楽の教師だった八重子は、徐々に記憶を無くしつつも、大好きな歌を口ずさめば、笑顔を取り戻すことも。家族の協力もあり、夫婦の思い出をしっかりと力強く歩んでいく誠吾。山口県・萩市を舞台に描く、夫婦の純愛と家族の愛情にあふれた12年の物語。
原作は、小学館さんから平成14年(2002)にハードカバーで刊行され、その後、文庫化されています。「現代の智恵子抄」というコピーが用いられ、原作中にも、原作者の陽(みなみ)氏が、ご自身の介護体験を「智恵子抄」に重ねる記述がありました。
映画の中でも、升毅さん演じる主人公が、アルツハイマーとなった妻・八重子が寝静まった後、龍星閣戦後版、赤い表紙の『智恵子抄』をひもとくシーンがありました。
原作でも引用されている、「値ひがたき智恵子」(昭
和12年=1937)が升さんのナレーションで流れ、それに合わせ、八重子のいろいろな姿がオーバーラップします。
値ひがたき智恵子
智恵子は見ないものを見、
聞こえないものを聞く。
聞こえないものを聞く。
智恵子は行けないところへ行き、
出来ないことを為る。
出来ないことを為る。
智恵子は現身(うつしみ)のわたしを見ず、
わたしのうしろのわたしに焦がれる。
わたしのうしろのわたしに焦がれる。
智恵子はくるしみの重さを今はすてて、
限りない荒漠の美意識圏にさまよひ出た。
限りない荒漠の美意識圏にさまよひ出た。
わたしをよぶ声をしきりにきくが、
智恵子はもう人間界の切符を持たない。
智恵子はもう人間界の切符を持たない。
ちなみに、劇場公開の際には無かった、特典映像では、テレビ
山口さん制作のメイキング的な番組も収録されています。そちらでは、実際の陽氏と在りし日の八重子さんの姿も。
さまざまな意味で、考えさせられる作品です。ぜひご購入下さい。
【折々のことば・光太郎】
美の無いところに文化は無い。
散文「美意識について」より 昭和13年(1938) 光太郎56歳
「簡にして要」の一言です。