昭和13年(1938)10月5日、光太郎の妻・智恵子が、南品川ゼームス坂病院で歿しました。直接の死因は肺結核でした。
その臨終の様子に題を採ったのが、有名な「レモン哀歌」です。
レモン哀歌
そんなにもあなたはレモンを待つてゐた
かなしく白くあかるい死の床で
かなしく白くあかるい死の床で
わたしの手からとつた一つのレモンを
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
トパアズいろの香気が立つ
その数滴の天のものなるレモンの汁は
ぱつとあなたの意識を正常にした
あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑ふ
わたしの手を握るあなたの力の健康さよ
あなたの咽喉に嵐はあるが
かういふ命の瀬戸ぎはに
智恵子はもとの智恵子となり
生涯の愛を一瞬にかたむけた
それからひと時
昔山巓(さんてん)でしたやうな深呼吸を一つして
あなたの機関はそれなり止まつた
写真の前に挿した桜の花かげに
すずしく光るレモンを今日も置かう
そこで、10月5日は「レモンの日」と名付けられています。また、智恵子の忌日、という意味で「レモン忌」とも呼ばれます。梶井基次郎の忌日(3月24日)は漢字で「檸檬忌」です。
智恵子の故郷・福島二本松では、智恵子生家に近いらぽーとあだちさんに於いて、智恵子を偲ぶ「レモン忌」という行事を行っています。当会の連翹忌同様、全国から智恵子ファンの参加を受け付け、記念講演、スピーチ、会食もあります。昨年の様子はこちら。
そちらは10月5日の「レモンの日」に限らず、その日に近い日曜日ということで、10月の第一日曜か、第二日曜に開催されています。5日その日に重なる場合もありますが。
今年は10月1日の開催です。以下、開催要項的な。ネットには情報がアップされていないようです。
第23回レモン忌
期 日 : 2016年10月1日(日)会 場 : ラポートあだち 二本松市油井字濡石16
時 間 : 午前10時開会
参加費 : 3,000円
申 込 : 智恵子の里レモン会(戸田屋商店) TEL0243-23-4858
記念講演 : 『高村智恵子』~芸術家の横顔~ 講師 福島県立美術館 堀宜雄先生
また、それとは別に5日の「レモンの日」に、二本松市で現在開催中の「重陽の芸術祭2017」の一環として、智恵子生家を会場にダンスパフォーマンスの公演が行われます。智恵子を題材にした日本画を多く手がけた故・大山忠作画伯の息女にして女優の一色采子さんが朗読で参加されるとのこと。
智恵子・レモン忌 あいのうた
期 日 : 2016年10月5日(木)会 場 : 智恵子生家 二本松市油井字漆原町36
時 間 : 18:00~
料 金 : 無料
出 演 : 二瓶野枝(モダンダンス) 大山采子(朗読) 渕上千里(ピアノ)
通常の、智恵子生家・智恵子記念館の閉館後ということで、入場無料だそうです。ただ、観覧希望者多数の場合には入場制限がかかるとのこと。
智恵子生家では、やはり「重陽の芸術祭2017」の一環として、現代アート作家の・清川あさみさんによるインスタレーションの展示が行われています。
併せてご覧下さい。
【折々のことば・光太郎】
はじめて武器をすてて立つ一つの国が 最初の新年を迎へる年に 運命は何を持つてくるか、 むしろきはどい人類の試金石だ。
詩「試金石」より 昭和22年(1947) 光太郎65歳
翌昭和23年(1948)の『週刊朝日』新年号のために書かれた詩です。「はじめて武器をすてて立つ」「最初の新年」は、平和憲法が施行されて最初の新年という意味です。
その後、まがりなりにも70余年、戦争には直接参戦せずにこの国は歩んできました。その誇るべき歴史をなし崩しにし、戦前に回帰でもさせようかという勢力の台頭は、実に嘆かわしいことといわざるをえません。
来月の衆議院選挙、現代の我々にとっての「試金石」です。