昨日の『朝日新聞』さんで、先月亡くなった詩人の大岡信氏について、まるまる1ページ、大きく取り上げられました。「大岡信さん、織りあげた宇宙 心に残る、折々のうた」の総題で、氏が昭和54年(1979)から平成19年(2007)にかけ、同紙に連載されていたコラム「折々のうた」がメインでした。

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国立文学研究資料館館長のロバート・キャンベルさんの談話が掲載されていますが、そちらは割愛します。下記は「折々のうた」の紹介的な内容。

29年、6762回 「世界文学としての詩歌選集」

 「折々のうた」は、朝日新聞創刊100周年記念日の1979年1月25日に始まった。引用作品は2行程度で、大岡さんが約200字の鑑賞文を添えた。掲載は休載期間を含めて2007年3月31日まで29年間、万葉集の収録和歌数約4500を超える6762回に上った。
 初回は高村光太郎、最終回は江戸期の俳人田上菊舎(たがみきくしゃ)。大岡さんは「精力の9割」を作品の選定と配列に割いていると述べ、「2年くらいたつとストックは全くなくなって、勉強しなくてはいけなくなった」とも語っていたが、紹介した詩歌は実に多彩だ。
 阿倍仲麻呂、紀貫之から、アングラ演劇で活躍した寺山修司、詩人・谷川俊太郎まで時代は様々。内容的にも、正岡子規の絶筆「糸瓜(へちま)咲(さい)て痰(たん)のつまりし仏かな」から、金子光晴の孫娘への愛情を歌った「来年になったら海へゆこう。そしてじいちゃんもいっしょに貝になろう。」まで重いものも明るいものもある。
 俳人の長谷川櫂(かい)さんは「この詩歌の国で世界文学として初めて誕生した詩歌選集」。歌人の俵万智さんは自作が紹介された時、駅で新聞を何部も買い、「会う人ごとに話しかけたいような気分」で「心から励まされた」。いずれも童話屋が刊行した「折々のうた」のあとがきで書いている。


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というわけで、記念すべき第一回が、光太郎の短歌「海にして太古の民のおどろきをわれふたたびす大空のもと」(明治39年=1906)。そちらが当時の紙面から引用されています。

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本職の歌人ではない光太郎の作を、記念すべき連載第一回に、よくぞ取り上げて下さったという感がします。


その他、「折々のうた」の書籍、三島市の大岡信ことば館さんも紹介されています。

本になった「折々のうた」手元に

 岩波新書の「折々のうた」(002全10冊)と「新折々のうた」(全9冊)は、1980年から続々と刊行されてきたシリーズだ。ただほとんどが品切れ重版未定で、古書でなければ入手は難しい。1冊目の1980年刊の「折々のうた」は42万部のロングセラーで入手可能。岩波書店刊「折々のうた 三六五日」は大岡さんが365日それぞれにふさわしい詩歌を選んで編んだ愛蔵版だ。
 季節ごとの詩歌をまとめた4分冊「折々のうた 春夏秋冬」(童話屋)は昨年、刊行された。谷川俊太郎さんが代表を務める「折々のうたを読み伝える会」が編集。引用された作品の作者の略歴や用語説明も付け加えている。


最後に書かれている童話屋さん版の、「冬」編に、上記「海にして……」の短歌、大正3年(1914)の詩「僕等」の一節が掲載されています。

作品や横顔、深く知るには…

 大岡さんが生まれた静岡県三島市には、作品や横顔を紹介する「大岡信ことば館」(JR三島駅徒歩1分)がある。造形家の岩本圭司さんが館長を務め、常設展のほか、追悼特別展を9月から開く予定。
 「大岡信研究会」(西川敏晴会長)では評論家三浦雅士さんら有識者が大岡作品を読み解き、論じてきた。今月28日午後2時、明治大学リバティタワー研究棟で、大岡さんの教え子の松下浩幸・明治大教授が「大岡信と夏目漱石」と題して講演(参加費は会員外1千円)。研究会は一般の人も入会可。問い合わせは事務局(花神社内、03・3291・6569)へ。


そして、来月行われる「送る会」についても。

送る会 来月28日、明治大学で

 大岡さんを送る会が6月28日午後6時から、東京都千代田区の明治大学アカデミーホールで開かれる。開場は午後5時。詩人谷川俊太郎さんが詩を朗読。作曲家一柳慧さんがピアノ演奏、俳優白石加代子さんが大岡さんの詩を朗読する予定。一般の人も参加可で「平服でお越し下さい」と主催の大岡信研究会(事務局は花神社、03・3291・6569)。


あらためて、ご冥福を祈念いたします。


【折々のことば・光太郎】

その詩は高度の原(げん)の無限の変化だ。 その詩は雑然と並んでもゐる。 その詩は矛盾撞着支離滅裂でもある。

詩「その詩」より 昭和3年(1928) 光太郎46歳

昨日もご紹介した詩「その詩」から。

やはり光太郎詩の「原理」が、色濃く、端的に表されています。

勝手な想像ですが、大岡さんなども、詩のあり方として「そうそう」とうなずいて下さるような気がします。