まずは先週土曜日の『福島民報』さんの一面コラム「あぶくま抄」。
あぶくま抄 野球少年の夢(3月18日)
世界一まであと二勝。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本代表の快進撃が続く。すっかりお茶の間の話題をさらい、野球の根強い人気を裏付けた。「幻のホームラン」も出た。一次リーグ初戦のキューバ戦。山田哲人選手は左翼に本塁打性の打球を放ったが、スタンドの最前列にいた少年がグラブを差し出し捕球してしまう。判定は二塁打。少年は批判にさらされる。それを知った山田選手が「僕は全然気にしていない。野球を嫌いにならずにまたグラブを持って応援に来てほしい」と語り、男前ぶりが評判になった。
東京五輪の野球・ソフトボールの一部試合を福島市の県営あづま球場で開催することがIOC理事会で決まった。カメラフラッシュの中で電話連絡を受けた内堀雅雄知事の顔が上気していた。紆余[うよ]曲折があっただけに関係者の喜びもひとしおだ。開幕試合の日本戦という情報もあり、いやが上にも盛り上がりそうだ。
3年後、グラブを持った被災地の子どもたちで、あづま球場の観客席があふれることを想像する。憧れのスラッガーが完璧な放物線を描き、福島の「ほんとの空」を皆々で見上げる特別な時間が今から待ち遠しい。
福島の空を表す代名詞として定着したかの感がある、光太郎詩「あどけない話」に使われている「ほんとの空」の語で締めくくられています。
「ほんとの空」といえば、先週末から今週月曜にかけ、福島市音楽堂では「第10回声楽アンサンブルコンテスト全国大会-感動の歌声 響け、ほんとうの空に-」が開催されました。
『福島民友』さんから。
郡山五中・2位、郡山高・3位 全国声楽アンサンブル・最終日
第10回声楽アンサンブルコンテスト全国大会最終日は20日、福島市音楽堂で中学校、高校、一般部門の金賞受賞団体による本選が行われ、郡山五中が2位・福島市長賞に輝き、郡山高が3位・県教育長賞を受賞した。郡山二中が4位、日大東北高が5位に入り、「郡山勢」が実力の高さを見せつけた。1位・知事賞は不来方高(岩手)。県、県教委、大会実行委員会の主催、県合唱連盟などの共催、福島民友新聞社などの後援。県合唱連盟の創立70周年を記念して結成された県合唱連盟青少年選抜合唱団が記念歌「楽譜を開けば野原に風が吹く」を披露、節目の大会に花を添えた。合唱団は欧州で演奏会を開くため21日出発する。
39都府県とフィリピンから過去最多タイの127団体が出場、16人以下の少人数で競った。部門ごとに予選を行い、本県の5団体を含む15団体が本選に臨んだ。残る本県のコーラル・アウローラ(郡山)は入賞。
「合唱王国」と称され、各種コンクールでの上位入賞が多い福島県勢、今回も上位に多くの団体が入ったようです。ただ、全体の最高賞に当たる福島県知事賞に輝いたのは、岩手の不来方高校さん。秋の全日本合唱コンクールでも金賞受賞の常連校です。一般の団体を抑えての最高賞受賞は、このコンクール初だそうで、快挙ですね。
IBC岩手放送さんから。
不来方高校 声楽アンサンブル全国大会で最高賞/岩手
福島県で開かれた声楽アンサンブルコンテストの全国大会で、不来方高校音楽部が最高賞に輝きました。部員たちは21日学校で、県勢初の快挙を報告しました。福島県で開かれていた声楽アンサンブルコンテスト全国大会は16人までの少人数で合唱の歌声を競うものです。不来方高校音楽部は最高賞の福島県知事賞を県勢として初めて受賞しました。大会に出場するのは中学生から社会人までで、高校の音楽部が最高賞に輝くのも初めてです。21日学校の体育館で報告会が行われ、部員たちは大会で歌ったイタリアの宗教歌を披露しました。
(三浦真子 部長)「この賞に恥じないような活動をこれからもしていかなければと気が引き締まるような思いです」
3年生が引退した音楽部は来月新入部員を迎え、10月の全日本合唱コンクールで3年連続の最優秀賞=文部科学大臣賞獲得を目指します。
「不来方」といえば、新詩社や『スバル』で光太郎と交流のあった石川啄木の代表作「不来方のお城の草に寝ころびて空に吸はれし十五の心」が思い浮かびます。
こちらは昨年7月、盛岡少年刑務所さんで講演をさせていただいた際に撮ってきました。不来方城址に建つ歌碑です(余談ですが、それがご縁で来月にも盛岡で講演をさせていただきます)。
啄木ゆかりの地の若者たちが、光太郎智恵子ゆかりの福島で美しい歌声を響かせたことに、感慨を覚えます。
最初に野球ネタで始めましたが、ところでもう一つ不来方高校さんといえば、現在開催中の選抜高校野球にも「21世紀枠」ということで出場していますね。こちらは部員10人での健闘。
『日刊スポーツ』さんから。
10人不来方「楽しめた」センバツ入場行進で大拍手
<センバツ高校野球:開会式>◇19日 選手10人で初出場の不来方(こずかた、岩手)が、参加32チーム中で一番大きな拍手を受けて入場行進した。
旗を持って10人の先頭を切って行進した小比類巻圭汰主将(3年)は「緊張したけど楽しめた。秋と変わらず全力で楽しくプレーするのが第一。それで勝てれば自信になる。選んでもらえた感謝を忘れずにプレーしたい」と意気込んだ。
開会式ではこの3月に不来方を卒業したばかりの竹内菜緒さん(18)が君が代を独唱した。小比類巻は「すごく歌が響いていた。一緒に選ばれたのは力になる」と話した。
プラカードを持って、甲子園の土を踏んだ女子マネジャー越戸あかりさん(2年)は、滝沢・鵜飼小3、4年の担任が竹内さんの母親だったこともあり「世間は狭いと思った。甲子園で聞く君が代は違った」と素直な感想を口にした。
不来方の初戦は23日の第3試合で、静岡と対戦する。
部員10人(音楽部より少ないですね(笑))での出場、それから規定の変更により、初めて女子マネージャーが甲子園での練習の補助に参加ということでも話題になりました。
さらに開会式での国家独唱も、同校3年生の竹内菜緒さんが務めました。竹内さんは、センバツ大会スポンサーの毎日新聞社さん主催の全日本学生音楽コンクール全国大会声楽部門高校の部で1位だそうです。声楽アンサンブルコンテストといい、不来方高校さんっていったい何なんだ、と思って調べたところ、芸術学系音楽コースが設置されているとのことで、むべなるかなと納得しました。
野球の方は明日、1回戦だそうで、こちらもがんばってほしいものです。
【折々のことば・光太郎】
工場の泥を凍らせてはいけない。 智恵子よ、 夕方の台所が如何に淋しからうとも、 石炭は焚かうね。
詩「金」より 大正15年(1926) 光太郎44歳
「工場」は「こうじょう」ではなく「こうば」と読み、アトリエを指すのでしょう。冬場は水分を多く含む粘土が凍結し、制作中の彫刻作品にひびが入ってしまいます。それを防ぐには、24時間ストーブを焚く必要があり、困窮とまではいかなかったものの、決して豊かではなかった光太郎智恵子夫妻の生活を圧迫したと思われます。
それでも「夕方の台所が如何に淋しからうとも」、さらに詩の他の箇所では「寝部屋の毛布が薄ければ、/上に坐布団はのせようとも」「少しばかり正月が淋しからうとも」というわけで、智恵子にも忍従を強いています。一種のロジハラともいえ、非常に危険ですね……。