昨日の『朝日新聞』さんの「天声人語」で、当会の祖・草野心平が愛した福島川内村の天山祭が紹介されました。 

天声人語 詩の響きわたる村

「歴程」は創刊80年を超す詩誌である。年ごとの「藤村(とうそん)記念歴程賞」の受賞者には金子光晴や辻井喬といった名が並ぶ。昨年は詩人ではなく、阿武隈山地にある福島県川内村の村民一同に贈られた▼毎年7月、草野心平の詩を村人が朗読する「天山(てんざん)祭り」を半世紀にわたり開いた功績が評価された。出身地ではないが、心平は毎夏をこの村で過ごした。祭りは村人との酒宴から始まり、1988年に心平が亡くなった後も続いた▼「私ら詩を作るわけでもないが、栄えある賞をもらっていいんだろうか。でも村民一同にというのはうれしかったですね」。天山祭り実行委員長の石井芳信(よしのぶ)さん(71)は話す。昨年11月、東京での授賞式に村長ら6人と出席し、「ノーベル賞以上の喜びです」とあいさつした▼村は原発事故にほんろうされた。全村民が一時は避難を余儀なくされた。いまも除染作業の車が頻繁に通過する。震災の年は祭りの開催が危ぶまれたが、「大変な時こそ」と村外の人からも励まされ、簡略ながら開催にこぎつけた▼〈けつとばされろ冬/まぶしいな/青いな/ゲコゲコグルルル――/春君/ぼくだよ〉。詩が村に響く。獅子が舞い、酒や山菜を楽しむ▼被災前、村には小中学生が175人いた。戻ったのは50人に満たない。村の将来を思うと石井さんも不安は尽きない。それでも祭りは続けたい。今月9日で51回目となる。人々が集い、大人も子どももそれぞれ好きな詩を読み上げる。震災前と変わらない時が流れる。

昨年の藤村記念歴程賞についても記述があります。


たまたま先月中~下旬、全国各地の地方紙一面コラムに心平、そして川内村の名が立て続けに出ました。この際ですのでご紹介しておきます。

6月18日の『琉球新報』さん。福島第一原発の事故からの全村避難解除を受けての内容です。 

<金口木舌>さむいね、ああさむいね

さむいね/ああさむいね(中略)どこがこんなに切ないんだらうね/腹だらうかね/腹とったら死ぬだらうね/死にたかあないね(秋の夜の会話)。カエルの詩人と呼ばれる草野心平氏の詩集「第百階級」はこの詩で始まる
▼福島県いわき市出身、戦後間もなく双葉郡川内村平伏(へぶす)沼のモリアオガエル見学に招かれた縁で名誉村民となる。政府は14日、東京電力福島第1原発事故で川内村の「避難指示解除準備区域」指示を解き、同村の避難区域を解消した
▼12日には近隣の葛尾村全域避難指示が「帰還困難区域」を除き解除された。生活不安から多くが戻れない故郷で今週、政府の解除ラッシュが続く
▼1400人余が避難する葛尾村は放射線量が比較的高い「居住制限区域」(21世帯62人)の避難指示が解除された初事例だ。対象は418世帯1347人だが、昨夏に始まった準備宿泊登録は約1割。「自分の姿を見て1泊でもして」と期待する地区唯一の帰還者の声は重い
▼昨秋に全域避難指示が解かれた楢葉町の帰還世帯も最新で1割、帰還536人のうち40歳以下は29人だ。同町で原発対応拠点を担うJヴィレッジは東京五輪サッカー日本代表合宿地となる
▼平伏沼は今、モリアオガエル産卵の最盛期を迎える。悲しい歴史をたどる今の沖縄だからこそ、福島の山に海に、戻れない人と戻る人の痛みに思いを寄せ続けよう。



続いて『福島民友』さんで6月20日 

【編集日記】「かえる かわうち」

広葉樹の林の中を歩いて行くと、神秘的な沼が突然、姿を現す。川内村の平伏(へぶす)山(842メートル)山頂に位置する平伏沼だ。モリアオガエルが繁殖する国指定天然記念物で、「カエルの詩人」といわれた草野心平が愛した地としても知られる
 ▼モリアオガエルは産卵の仕方が特徴的だ。沼にせり出すように生えている木の枝や葉に白い泡状の卵を産み付ける。卵が孵化(ふか)すると沼に落ち、オタマジャクシが水中で暮らし始める
 ▼これから7月上旬にかけてが産卵のピークだが、沼の巡視員をする猪狩四朗さんによると、今年は卵の数が例年の半分ほどしかないという。「水不足でもあるが、原因は分からない」。村のシンボルであるカエルのことを思い、心配そうだ
 ▼壁をよじ登るカエルのイラストに、「かえる かわうち」とのキャッチコピーを添えた垂れ幕が2012年の春、村役場に掲げられた。原発事故で一時は全村避難を強いられた同村に役場機能が戻った時期のことだ。村は先週、全ての避難区域が解除された
 ▼現在までに帰ってきた住民は65%ほどという。復興への壁はまだ高いが、「これからカエルが戻り大合唱を聞かせてくれるはず」との猪狩さんの言葉に村の未来を重ねたい。

「かえる かわうち」のキャッチコピー。「かえる」には「蛙」、「帰る」、「変える」など、様々な意味を込めているそうです。下記は以前にいただいた缶バッヂ。

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せっかく「天声人語」にまで紹介された天山祭ですが、今年は明治古典会七夕古書大入札会の一般下見展観、さらにもう一つ別件で柔道の講道館に行かなければならず、欠礼いたします。関係者の皆さん、申し訳ありません。


【折々の歌と句・光太郎】

色みては盲目(めくら)音にはみみしひのふるさとびとの顔のさびしさ

明治42年(1909) 光太郎27歳

一昨日からご紹介しています、海外留学から帰国直後の作です。

一般庶民にまで芸術を愛する心がしみついていたパリと比較し、そうした部分での日本人の無理解を嘆いています。