沖縄の地方紙『八重山毎日新聞』さんの社説です。
新空港の悪夢再現避けよ
自衛隊配備で利益誘導の八重山建産連
■「琉球決戦」想起させる訓示
■「琉球決戦」想起させる訓示
航空自衛隊は1月31日、尖閣諸島などの防衛強化のため、那覇基地に51年ぶりと言われる航空団「第9師団」を新たに編成し、F15戦闘機部隊2隊(40機)を配備した。式典では若宮健嗣防衛副大臣が「国防の最前線という地域・任務に真摯(しんし)に向き合うことで、領土、領海、領空を確実に守り抜くことが可能となる」と訓示した。
若宮防衛副大臣の訓示は、詩人高村光太郎が沖縄戦の最中に書いた「琉球決戦」を想起させる。高村は「琉球や、まことに日本の頸動脈、万事ここにかかり万端ここに経路す。琉球を守れ、琉球に於いて勝て。全日本の全日本人よ。琉球のために全力をあげよ。敵すでに犠牲惜しまず、これ吾が神機の到来成り。全日本の日本人よ、起って琉球に血液を送れ」と記している。
高村の「日本の頸動脈」と若宮防衛副大臣の「訓示」は同一基盤に立つものであろう。「血液」は送られず、沖縄県民の普天間基地の県外移設も、どこも受け入れない。沖縄は犠牲を強いられるだけだ。
石垣市の自衛隊配備計画の賛成反対の運動も活発化している。基地建設予定地の三公民館が反対を表明し、防衛局の説明会も拒否した。
■市議会議長は軽率な行動慎め
これに対し建設関連10団体で構成する八重山建設産業団体連合会(黒嶋克史会長)が防衛省を訪ね、「外国船の領海侵犯対応、災害時における対応への期待」を表明。①水源地の増設②海水の淡水化施設③浄水場整備水産資源の開発④産業廃棄物処理場の建設⑤川平半島周回道路の建設⑥各地区災害時避難場所などの6項目を要望したという。
防衛省に要望したのは自衛隊誘致を前提とした「特定防衛施設周辺整備交付金」を狙ってのことであろう。「防衛施設の設置または運用により生じている影響の軽減などを図るため、特定防衛施設関連市町村が行う公共施設の整備、またはその他の環境の改善、開発の円滑な実施に寄与する事業に対し、交付金を交付することにより、関係住民の生活の安定および福祉の向上に寄与することを目的とする」(防衛省平成25年行政事業レビューシート) 防衛省への要望が自衛隊の宣撫工作に沿った誘致活動であるのは一目瞭然であろう。要望には知念辰憲市議ら2人も同行した。「石垣市自治基本条例」第2項は「議員は市民全体の代表者としての品位と責務を忘れずに、常に市民全体の福利を念頭におき行動しなければならない」とある。知念議員は議長である。島を二分する重大な問題で軽率な行動は慎むべきだ。
■市の「情報が不足」は疑問
1月27日「八重山大地会」が自衛隊配備計画の情報公開を求めたのに対し、漢那副市長は「市役所としても情報が足りず、判断の段階ではない」と述べている。中山市長は昨年6月、配備先選定で調査に協力すると述べ、沖縄防衛局の森部長は「詳細は市の担当者と調整して行いたい」と語った。市の協力なくして選定はできなかったはずだ。説明に疑問を感じる。
防衛省は三公民館の反対を受け、配備先候補地周辺や市民の理解と協力が得られるよう適切な情報提供に努めたいと述べている。
新石垣空港建設で白保公民館が二分し住民が激しい対立した悪夢の再現があってはならない。三公民館の意見を尊重し、静かな生活環境のためにも石垣市への自衛隊配備計画は断念すべきだ。
2016年02月06日
引用されている光太郎詩「琉球決戦」は、昭和20年(1945)4月1日作。翌日の『朝日新聞』に掲載されました。当時は『朝日新聞』ですら、国策協力の最先鋒という立ち位置でした。
琉球決戦
神聖オモロ草子の国琉球、
つひに大東亜戦最大の決戦場となる。
敵は獅子の一撃を期して総力を集め、
この珠玉の島うるはしの山原谷茶(さんばるたんちや)、
万座毛(まんざまう)の緑野(りよくや)、梯伍(でいご)の花の紅(くれなゐ)に、
あらゆる暴力を傾け注がんずる。
琉球やまことに日本の頸動脈、
万事ここにかかり万端ここに経絡す。
琉球を守れ、琉球に於て勝て。
全日本の全日本人よ、
琉球のために全力をあげよ。
敵すでに犠牲を惜しまず、
これ吾が新機の到来なり。
全日本の全日本人よ、
起つて琉球に血液を送れ。
ああ恩納(おんな)ナビの末孫熱血の同胞等よ、
蒲葵(くば)の葉かげに身を伏して
弾雨を凌ぎ兵火を抑へ、
猛然出でて賊敵を誅戮し尽せよ
つひに大東亜戦最大の決戦場となる。
敵は獅子の一撃を期して総力を集め、
この珠玉の島うるはしの山原谷茶(さんばるたんちや)、
万座毛(まんざまう)の緑野(りよくや)、梯伍(でいご)の花の紅(くれなゐ)に、
あらゆる暴力を傾け注がんずる。
琉球やまことに日本の頸動脈、
万事ここにかかり万端ここに経絡す。
琉球を守れ、琉球に於て勝て。
全日本の全日本人よ、
琉球のために全力をあげよ。
敵すでに犠牲を惜しまず、
これ吾が新機の到来なり。
全日本の全日本人よ、
起つて琉球に血液を送れ。
ああ恩納(おんな)ナビの末孫熱血の同胞等よ、
蒲葵(くば)の葉かげに身を伏して
弾雨を凌ぎ兵火を抑へ、
猛然出でて賊敵を誅戮し尽せよ
数ある光太郎の翼賛詩―負の遺産―のうち、負のベクトルの最たるものの一つです。
この詩の書かれた4月1日、まさにその日に米軍は沖縄本島に上陸、阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されます。「起つて琉球に血液を送れ。」とばかりに、無謀な海上特攻を仕掛けた戦艦大和は7日には沖縄にたどり着くことなく撃沈。その後、沖縄戦では約20万人の日本人犠牲者が出ました。そのうちの約3分の2は沖縄の人々でした。
終戦後も永らく占領が続き、現在に至っても在日米軍基地の7割以上は沖縄に集中。普天間基地の移設問題、オスプレイの配備問題など、問題は山積しています。
それに加えて自衛隊の基地も存在。ただし、石垣島を含む八重山諸島には、自衛隊基地はないとのことです。しかし、ここにきて誘致の計画が浮上。それが一概に悪いとは言いません。人工衛星の打ち上げと称する事実上の大陸間弾道ミサイルをぶっ放す国がすぐ近くにあるなど、防衛の必要上、不可欠なのかも知れません。でも、有事の際に真っ先に攻撃目標にされるのは米軍や自衛隊の基地ですね。また、誘致の裏に利権目当ての胡乱な輩の影もあるようです。
大戦中、ある意味、軍の尻馬に乗って翼賛詩を乱発し続けた光太郎は、沖縄戦真っ最中の4月13日の空襲で、亡き智恵子と共に過ごした思い出深い東京のアトリエを失います。手痛いしっぺ返しを喰らったようなものですね。
現在の我が国も、手痛いしっぺ返しを喰わないようにしていきたいものだと思います。
【折々の歌と句・光太郎】
高きものいやしきをうつあめつちの神いくさなり勝たざらめやも
昭和19年(1944) 光太郎62歳
負の遺産ついでに、戦時中の作品です。結局、うたれたのは「いやしき」日本の軍閥でした。