新刊情報です。 
2015/12/11 牧歌舎 坂本富江著 定価2,200円+税

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著者の坂本富江さん、このブログでもたびたびご紹介していますが、智恵子がかつて在籍していた太平洋画会の前身、太平洋美術会の会員であらせられます。

その坂本さんが、光太郎智恵子ゆかりの地を歩かれ、書きためられたスケッチとエッセイで構成されています。3年前に初版が刊行され、今回は増補改訂版ということで、約20頁増えています。当方、校正をさせていただいており、既に3回ほど目を通しましたが、色鮮やかなスケッチと、軽妙な文章のコラボレーションが見事です。

帯に印刷された推薦文は、初版に続き女優の渡辺えりさん。お父様が光太郎と知己でした。

目次
はしがき
① 故郷
 智恵子の故郷 福島県
  旅情さそうレトロな安達駅/誕生/生家/よみがえった長沼家は不滅/
  ローゼットと掘りごたつ/花園/美しいトイレ/米蔵/智恵子記念館/
  智恵子の杜(愛の小径)/鞍石山/『万葉集』から『智恵子抄』へ/樹下の二人/
  長沼家の菩提寺満福寺/コスモスゆれる安達ヶ原/智恵子物産の戸田屋商店/
  小高い丘の油井小学校/初挑戦の紙芝居/
智恵子マーチングパレードと紙絵/
  空を染める提灯祭り/智恵子の答辞文
② 学び舎の頃
 都会の生活① 東京
  夢いだき日本女子大学校/設立者 成瀬仁蔵/最初の運動会/音楽教育/
  倫理学からの抜粋/
成瀬講堂/成瀬校長の告辞/学友が語る智恵子のエピソード/
  青春輝く学び舎/智恵子のことば/
現存する成瀬仁蔵旧宅/
  芸術家サロンの街雑司ヶ谷/愛の告白/鬼子母神
③ 画家への道
 都会の生活② 東京
  太平洋画会研究所/智恵子の幻のデッサン見つかる/画学生智恵子/智恵子の美意識/
  最も新しい女流画家/中村不折と正岡子規/太平洋美術会と著者の出会い/
  光太郎の母校・荒川区立第一日暮里小学校/新宿「中村屋サロン」に花開いた芸術家/
  中村彝アトリエ再現
④ 光太郎との恋
 都会の生活③ 東京
  「青鞜」と智恵子/運命の花「グロキシニア」/青鞜を去る/日比谷公園松本楼と氷菓/
  首かけイチョウ/銀ブラの二人
 犬吠埼 千葉
  早春の犬吠埼/銚子電鉄/灯台
 上高地 長野
  山上の恋・上高地
 裏磐梯・五色沼 福島
  エメラルドグリーンの五色沼
 上野公園 東京
  精養軒で披露宴/料理メニューはハイカラ/木更津まで響いた「時の鐘」
⑤ 愛の暮らし
 都会の生活④ 東京
  夢抱きしアトリエ 千駄木林町二十五番地/アトリエでの苦悩/お化けやしき/
  巴そば店/順天堂病院
⑥ 病と転地療養
 九段坂病院 東京
  白亜の九段坂病院/智恵子の入院した頃の旧館
 不動湯温泉 福島
  山峡の宿・不動湯温泉/私道・専用道路の開削/不動湯温泉/旧館十六号室/
  夕食の献立/
心の御馳走/宿帳のこと/幽谷のホタル鑑賞/入籍のこと
 九十九里浜 千葉
  灼熱の九十九里浜と田村別荘/九十九里浜/田村別荘のこと/田村別荘内部/
  糸日谷さんのこと/
智恵子の印象/光太郎のこと
⑦ ゼームス坂病院と紙絵
 晩年の生活 東京
  芸術家智恵子蘇生/病室は智恵子にとってのアトリエ/智恵子抄文学碑/
  紙絵に残した「楠公像」/守られた紙絵/桜舞ふ東京都立染井霊園
⑧ 晩年の光太郎
 高村山荘 岩手
  みちのくの高村山荘へ/高村山荘/甥が語る光太郎の素顔/智恵子とともに/
  未見の詩人・野澤一との交流/三畝の畑/智恵子の丘/高村光太郎記念館
 十和田湖 青森
  十和田湖畔と奥入瀬渓谷/黄金に染まる乙女の像/秘められた『乙女の像』/
  東京中野の中西アトリエ/『智恵子抄』が世に出るまで~光太郎の苦悩
⑨ 智恵子の油絵が展示されている山梨の美術館
 清春白樺美術館 山梨
  清春芸術村・山梨県清春白樺美術館/梅原龍三郎と光太郎/小林秀雄氏の枝垂桜/
  ラ・リューシュ/運命の出会い/大村智氏ノーベル医学・生理学賞
⑩ 絵が誘う点と線
 「樟」の誕生 静岡県
  智恵子と沼津/絶景の千本浜と千本松原/沼津垣の垣根/蛇松線跡は花の散策路/
  日本最古の沼津市立第一小学校/「道喜塚」今昔/大久保忠佐と「道喜塚」/
  「樟」は残った/
「樟」との宿命的出会い
⑪ 新作能「智恵子抄」
 赤坂日枝神社 東京
  山王、日枝神社で薪能「智恵子抄」を鑑賞
 新作能 智恵子抄詞章
  僕等/樹下の二人/あどけない話/人生遠視/風に乗る智恵子/千鳥と遊ぶ智恵子/
  山麓の二人/
レモン哀歌/荒涼たる帰宅
⑫ 智恵子さんへの手紙
 拝啓高村智恵子さまへ
年譜 あとがき 参考文献


このうち、沼津の部分や中野アトリエの部分などは、初版にはなかった増補の部分です。その他の部分でも、使われているスケッチが替わったりといった改訂があります。

ぜひお買い求めを。

ところで、坂本さんといえば、明日、二本松市の福島県男女共生センターで行われる「智恵子講座’15」 講師を、当方と共になさいます。当初予定では当方が午前中、坂本さんが午後、というはずでしたが、なんと昨日、坂本さんのお母様がお亡くなりだそうで、その関係で午前と午後が入れ替わります。坂本さんが午前中で「松井昇と太平洋画会研究所」、当方が午後で「成瀬仁蔵と日本女子大学校」です。


【今日は何の日・光太郎 拾遺】 12月19日

昭和30年(1955)の今日、生涯最後の詩作品「お正月の不思議」「生命の大河」を書きました。

それぞれ翌昭和31年(1956)―この年4月2日に光太郎は歿します―の元日、「お正月の不思議」はNHKラジオで放送され、「生命の大河」は『読売新聞』に掲載されました。この時代には既に新聞は新仮名遣いに変わっています。

   生命の大河

生命の大河ながれてやまず、002
一切の矛盾と逆と無駄と悪とを容れて
ごうごうと遠い時間の果つるところへいそぐ。
時間の果つるところ即ちねはん。
ねはんは無窮の奥にあり、
またここに在り、
生命の大河この世に二なく美しく、
一切の「物」ことごとく光る。
 
人類の文化いまだ幼く
源始の事態をいくらも出ない。
人は人に勝とうとし、
すぐれようとし、
すぐれるために自己否定も辞せず、
自己保存の本能のつつましさは
この亡霊に魅入られてすさまじく
億千万の知能とたたかい、
原子にいどんで
人類破滅の寸前にまで到着した。
 
科学は後退をゆるさない。
科学は危険に突入する。
科学は危険をのりこえる。
放射能の故にうしろを向かない。
放射能の克服と
放射能の善用とに
科学は万全をかける。
原子力の解放は
やがて人類の一切を変え
想像しがたい生活図の世紀が来る。
 
そういう世紀のさきぶれが
この正月にちらりと見える。
それを見ながらとそをのむのは
落語のようにおもしろい。
芸術倫理の如きは
うずまく生命の大河に一度は没して
そういう世紀の要素となるのが
解脱ねはんの大本道だ。