昨日は、群馬県立土屋文明記念文学館に行き、現在開催中の第87回企画展「近代を駆け抜けた作家たち~文豪たちの文字は語る~」を観て参りました。
同館で所蔵している「特別資料」―近代作家の肉筆、稀覯本など―からセレクトした逸品が並んでいます。
二部構成で、第一部は「時代を代表する10名の文豪たち」。10名とは夏目漱石、高浜虚子、与謝野晶子、斎藤茂吉、光太郎、北原白秋、若山牧水、芥川龍之介、江戸川乱歩、太宰治です。それぞれについて、10点くらいずつの様々な資料が展示されていました。
第二部は「文壇で活躍したさまざまな文豪たち」。それぞれ先の10名よりは少ない点数ですが、やはり貴重な資料のオンパレードです。ラインナップは武者小路実篤、柳原白蓮、平塚らいてう、里見弴、室生犀星、西條八十、村岡花子、佐藤春夫、宮本百合子、井上靖でした。村岡花子と柳原白蓮が入っているのはNHKさんの朝ドラ効果ですね。
下記は図録に掲載された展示目録抄(あくまで抄録ですのでこれで全てではありません)。
さて、光太郎に関しては、6点が出ていました。書簡が2通、同館初代館長の伊藤信吉宛と、武者小路実篤が創刊した雑誌『大調和』編集者の笹本寅にあてたもの。詩集『智恵子抄』の初版、『智恵子抄』巻末の短歌六首のうち三首のペン書き肉筆色紙、福島二本松霞ヶ城に立つ「智恵子抄」詩碑の拓本軸装、明治37年(1904)作の赤城山での短歌を揮毫した短冊です。
それぞれ興味深く拝見しました。
同館の特別資料は約3万点だそうです。こうしたものがきちんと保管されているのはいいことですが、「死蔵」にならないよう、このように展示をするのは素晴らしいことだと思います。国会図書館さんや、駒場の日本近代文学館さん、いわき市立草野心平記念文学館さんなどでもこうした取り組みを行っています。そうした動きがもっと活発になってほしいものです。くれぐれも「死蔵」にならないように……。
さて、群馬県立土屋文明記念文学館さんの今回の企画展、来月22日(日)までです。ぜひ足をお運びください。
【今日は何の日・光太郎 拾遺】 2月22日
昭和20年(1945)の今日、詩「おほぞらのうた」を書きました。
おほぞらのうた
おほぞらは よもをおほひて
かみつよの すがたのまにま
けふのひも なほとこわかに
みづみづし いやうるはしし
あきつしま やまとのくにの
ひとみなの ふるさとぞこれ
おほぞらを みればかしこし
おほぞらを あふげばたふと
そのかみの みおやのみたま
くもがくり ふかくこもれり
おほぞらを うつろなりとは
なにしかも ひとのおもはむ
かぎりなき あめのみなかに
みなかぬし みかみぞいます
ものみなを しらすかみなり
ことわりを すぶるかみなり
ときのまも おきてはやまず
ただしきは つひにやすけく
あしけきは けがれはつべし
しきしまの やまとのくには
かんながら きよくさやけく
まがごとを ゆるさぬくにぞ
よこしまは はらひぞやらへ
おほそらを わがふるさとと
あしたには ひいづるうみに
ゆふべには ひのいるやまに
もろびとぞ あふぎていのる
あめのした ひとつうからと
にぎたまの むつびあふよを
まのあたり うつつにはみむ
さばへなす しこのえみじの
さかしらを はらひつくさめ
またまなす わがおほぞらに
ちりひぢの けがれもおかじ
おほきみの みことかしこみ
あをぐもの むかぶすきはみ
あだなすは くゑはららかせ
あめのあらわし
太平洋戦争末期、もはや敗色は誰の目にも濃厚、という時期の作です。残された草稿に書かれたメモによれば雑誌『富士』のために書かれたものですが、出版事情もむちゃくちゃで、結局、この段階ではおそらく活字になりませんでした。
全篇仮名書き、長歌の形式。いったいいつの時代の作品だ、という感じですが、ここにある種の「狂気」を感じるのは当方だけでしょうか。
こういう詩のみをことさらに取り上げて、「大日本帝国臣民の鑑」と持ち上げるアナクロニストがいまだにいるのが不思議です。