昨日は、四ッ谷の紀尾井ホールにて、合唱の演奏会「The Premiere Vol.3 〜夏のオール新作初演コンサート〜」を聴いて参りました。
実にいい演奏会でした。
「The Premiere」は、今回で3回目だそうで、カワイ出版さん、ジョヴァンニレコードさんの協賛、協力により、若手作曲家に作曲の場を提供し、一流合唱団の初演と楽譜出版を同時に行い、さらにライヴ録音がCD化されるという企画です。今回は、4篇の合唱組曲と、編曲が一篇、初演されました。
初演された合唱組曲4篇のうちの一つが、光太郎作詞、三好真亜沙さん作曲「女声合唱とピアノのための 冬が来た」でした。
第1曲「冬が来る」、第2曲「冬が来た」、第3曲「孤独で何が珍しい」、第4曲「冬の奴」の4曲からなる組曲です。
先述のとおり、昨日、楽譜が発売されましたが、終演後はごった返すと思い、会場に着き次第、購入しました。
開演前に見たところ、やはり変拍子の多用など、いかにも現代音楽風ですが、メロディーラインの美しさは楽譜を見ただけで分かりました。実際の演奏を聴いて、やはりそう思いました。現代音楽では、調性やら主旋律やらが存在しないとか、不協和音の連続とか、実験的なものが多かったりするのですが、そういう感じではなく、非常に聴きやすい作りでした。
それにしても、当方の若い頃は、カワイ出版さんから合唱の楽譜を出すというのは、高田三郎、大中恩、三善晃といった大御所、というイメージでした。そう考えると隔世の感があります。
演奏が始まる前に、指揮の藤井宏樹氏によるMCで、作曲者・三好さんへのインタビューがありました。
他の方々が、現代詩人の詩をテキストとして使用している中、なぜ光太郎なのか、という問いに対し、既製の女声合唱のイメージ-ふわっとしたきれいなもの-というイメージを毀す、「かっこいい」女声合唱の作品を作りたいと思い、そのためにあえてある意味硬質な言葉を使う光太郎を選んだとのことです。
女声アンサンブルJuriさんによる演奏も、そうした意図をくんだいい演奏だったと感じました。
特に第2曲「冬が来た」では、冒頭がア・カペラで「きっぱりと」と始まり、その後も「きっぱりと冬が来た/八つ手の白い花も消え/公孫樹の木も箒(ほうき)になった/きりきりともみ込むやうな冬が来た」と多用される「き」の子音「K」。「ドイツ語か」と突っ込みたくなりましたが、おそらく光太郎も、硬い「き」音の連続で意識して韻を踏み、冬の厳しさを表現しているはずですので、そういう点でもよく理解された作曲、演奏でした。
終演後、ホワイエで三好さんと少しお話をさせていただきました。例によって連翹忌の営業も。来年の連翹忌にはぜひいらしていただきたいものです。
こちらが「光太郎を取り上げて下さってありがとうございます」的なことを申し上げると、「勝手に曲を着けてしまってすみません」とのこと。光太郎作品は法的に著作権が切れていますので、そこにリスペクトの要素がありさえすればどのように料理するのも勝手です。中には冒瀆のような扱い方があり、時おり憤慨しているのですが、今回のような取り上げ方をされれば、泉下の光太郎も喜んでいることでしょう。
他団体の演奏、会場周辺のことなどについて、まだ書きたいことがあるのですが、長くなりましたので、明日に廻します。
【今日は何の日・光太郎 補遺】 8月31日
明治32年(1899)の今日、光雲がパリ万博出品監査委員を拝命しました。
パリ万博は翌1900年。今朝のNHKさんの「日曜美術館」は、ガラス工芸のガレとドーム兄弟のライバル関係を取り上げるものでしたが、このパリ万博での対決も扱われていました。光雲に思いを馳せながら拝見しました。